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台湾の半導体業界のサプライチェーンで求められる環境対策
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年10月5日)
台湾における環境に関する政策
世界の多くの主要国において環境に関する政策が発表されているが、台湾でも環境問題への取り組みは大きな関心事項となっている。国連やパリ協定といった国際的な枠組みには参加していない台湾だが、独自に2050年の温室ガスのゼロエミッション(排出量実質ゼロ)を目標に掲げ、政府機関の気候変動対策のガバナンス強化や排出抑制を促進するインセンティブ・メカニズムの強化、炭素税の導入に言及した気候変動対応法案を2021年に公表している。
2022年に入り台湾の国家発展委員会は、2050年のゼロエミッションに向けたロードマップを発表した。ロードマップは、再生可能エネルギー等へのエネルギーの転換、サーキュラーエコノミーを取り入れた産業の転換、脱炭素を実現するためのライフスタイルの転換、公平さと市民参加を促す社会の転換の4つの戦略で構成されている。この中で発電量に占める再生可能性エネルギーの割合を60~70%に引き上げる目標が設定され、2040年には自動車とバイクの新車販売を100%電動化(電気自動車購入を促進するための補助金も支給)、新規の建物も2050年までに100%ネットゼロカーボンビルにする方針が定められた。また天然資源に恵まれていない台湾において、エネルギーの輸入依存度は2021年度時点で97.5%に達しており、国際的な価格変動や供給不足への影響を考慮し、依存度を2050年には50%以下に抑えることを目標としている。
台湾当局は2030年までに9,000億台湾ドル(約4兆円)の予算を確保しており、特に再生可能エネルギーと水素エネルギーに関する技術開発とインフラ整備、エネルギーの管理と貯蔵の整備に力を入れていく方針を示した。
<2050年の台湾におけるエネルギー構成目標>
- 再生可能エネルギー:60~70%
- 天然ガスとCCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留):20~27%
- 水素エネルギー:9~12%
- 揚水貯蔵:1%
(参考:国家発展委員会のPathway to Net-Zero Emissions in 2050説明書)
半導体業界のサプライチェーンへの影響
台湾の多くの企業も2050年のゼロエミッションに向けて動きだしており、グローバル企業からの要請等も影響し環境対応の強化が加速している。米国のテクノロジー企業A社では「事業全体、製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてを通じて、2030年までに気候への影響をネットゼロにする」(出所:同社の2020年7月のプレスリリース)ことを掲げており、同社のサプライチェーンの一翼を担っている台湾企業、そのビジネスパートナーである日系企業は環境対策の準備を進める必要がある。
世界最大級の半導体受託製造企業であるB社は、A社の製品に必要不可欠な半導体を提供している主要サプライヤー(出所:A社の公開情報であるサプライヤーリスト)であり、その影響力の高さからB社の再生可能エネルギーへの取り組みがA社の目標達成のカギを握っていると言われている。
B社では工場への太陽光発電パネルの設置等、再生可能エネルギーの導入を進めており、2020年7月には欧州企業が今後台湾沖に建設する洋上風力発電所から910メガワットの再生可能エネルギーを購入する契約を締結した。世界最大の再生可能エネルギー取引が誕生した瞬間である。
2023年には台湾の上場企業においてCO2排出量の開示を段階的に義務付ける動きが検討されている。まずは自社の活動による排出量が対象となる予定であるが、今後はサプライチェーンの排出量も対象となることが検討されている。既にESGに対する格付けで最高ランクのAAAと評価されている半導体受託製造企業であるB社(出所:B社の2021年サステナビリティレポート)では、サプライヤーに対しても高いレベルの環境対応を要求しており、直接・間接取引関係にあるサプライチェーンの企業は対応を余儀なくされている。またB社はRE100(企業が事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ)に参加しており、サプライチェーン管理と調達におけるCO2排出量削減は必須であり、2030年までにサプライチェーンにCO2の排出量を20%削減することが求められている。
台湾の半導体業界のサプライチェーンに含まれている日系企業は、今後は前述のB社のようなリーディング企業の環境対策を達成させるために、独自に温室効果ガスの削減計画と目標を立てることが求められることになる。自社の温室効果ガスの排出量の算定はもちろんのこと、再生可能エネルギーの活用、ゼロ・ウェイスト製造工業の設置等による事業から出る廃棄物の削減、電気自動車導入による輸送や配送に伴う排出量の削減、カーボンオフセット戦略の導入など、早めの環境対策への取り組みを進めることが必要と考える。
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著者:長坂 賢
※本ニュースレターは、2022年10月5日に投稿された内容です。
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