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台湾における気候変動法の改正と企業への影響

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年10月31日)

台湾における脱炭素の政策と気候変動への対応方針

台湾の国家発展委員会は、2022年3月30日に「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」を発表し、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた具体的な道筋及び方針を明示した。「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」の主要な取組として、2つの基盤(ネットゼロテクノロジーなどの研究開発、カーボンプライシングなどの気候変動法制度)の整備と4つの戦略(エネルギー転換による安全性向上、産業転換による競争力強化・持続的なライフスタイルへの転換・社会転換による強靭化)の推進が公表されている。

 

【台湾の2050年ネットゼロ排出に向けた方針の概要】

参考:Taiwan’s Pathway to Net-Zero Emissions in 2050(外部サイト)

 

その後、2022年12月28日には「ネットゼロへの転換の段階目標及びアクション」が発表され、2050年の温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成するための2030年を区切りとする段階的なアプローチが示された。2030年には温室効果ガスの排出量を対2020年比で24%±1%まで削減することを目標として、12の主要戦略を推進するとしている。

 

【台湾の2050年ネットゼロ排出に向けた12の主要戦略の概要】

参考:Phased Goals and Actions Toward Net-Zero Transition(外部サイト)

 

気候変動対応法の改正と企業への影響

台湾における2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて法制度の整備が進んでおり、温室効果ガス排出規制の枠組みである「温室効果ガス削減及び管理法」が改正され、2023年1月10日に「気候変動対応法」が成立した。本法律には、将来の政策実施及び企業経営に影響を及ぼす重要な規範が多数含まれており、その一つとして産業界による温室効果ガスの排出削減に向けて大口排出企業に対する排出量の測定、炭素税の導入などが行われることとなった。法律の要件に該当する台湾国内の事業者は、温室効果ガスのインベントリを作成し、温室効果ガスの種類と排出量の登録・報告・記録の検証などのルール整備と運用が求められている。加えて、政府の指定した特定の製品に関して、当該製品の製造・輸入・販売を行う企業は「製品のライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して商品に表示する仕組み(カーボンフットプリント)」が求められている。

 

【気候変動対応法の概要】

 

在台湾企業における気候関連情報の開示

台湾での温室効果ガス削減の取り組みの一環として、一定以上の資本金を持つ台湾上場企業について2023年度からESG報告書の作成が義務付けられており、TCFDの基準に沿った気候関連情報の開示が推奨されている。該当する台湾上場企業では、TCFDのフレームワークを基に、企業内のガバナンス・戦略立案・リスク管理・目標/指標の設定及びモニタリング等の整備を推進し、情報開示の準備を進めている。

 

【TCFDによる気候リスクの開示要件】

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現時点の情報の開示範囲として、スコープ1(自社が排出する温室効果ガス)とスコープ2(他社から供給された電気等を通じて間接的に排出する温室効果ガス)が対象となっているが、将来的にスコープ3(事業活動に関連する他社の排出量)に拡大する可能性がある。その場合、台湾上場企業と取引のある日系企業にも温室効果ガスの情報提供が求められ、温室効果ガス排出量の情報開示の準備が必要となる。また、温室効果ガス削減の取組が進んでいる台湾上場企業ではカーボンフットプリントを採用し、調達先企業に対して部品や原材料の生産における温室効果ガス排出量の測定・開示を求めるケースがある。特に大口の調達先企業に関して、ISO14064に沿った外部監査を求められることがあり、日系企業から対応方法についての問い合わせが増加している。外部監査の対応には、企業内の温室効果ガス排出量の算定ルールを定め、データ収集及び検証プロセスを構築し、台湾上場企業の求める基準を満たす必要があると想定される。このようなビジネス上の必要性から台湾国内において日系企業もカーボンニュートラルに向けた検討を開始している。

 

本稿に関連するデロイト トーマツ グループのサービスのご紹介

  • カーボンニュートラル計画策定
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著者:淡路 武志

※本ニュースレターは、2023年10月31日に投稿された内容です。

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ap_risk@tohmatsu.co.jp

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