調査レポート

内部通報制度の整備状況に関する調査2021年版

デロイト トーマツ グループが2021年10月から2021年11月にかけて実施した「内部通報制度の整備状況に関する調査」の結果をレポートにまとめ、PDFデータを公開しています。本調査は、日本の組織の内部通報制度の現状を明らかにし、その有効性向上、高度化に資することを目的としています。

サマリ

  • 顧問弁護士のみを外部窓口とする組織が減少
  • 単一窓口で通報に対応する組織が減少、初動から適切な部署と連携する組織が増加
  • 組織不正の探知にアンケートを活用する組織が増加
  • グローバル内部通報制度を導入済みまたは導入希望の地域は、東南アジア、中国、北米、欧州の順
  • 通報窓口をコンプライアンス部門/法務部門が担当する組織が増加、一方で監査役が担当する組織は減少
  • 改正法*の内容を「確認していない」「知らない」「わからない」を合算すると49.8%
    (*公益通報者保護法の一部を改正する法律 2022年6月までに施行)
  • 内部通報制度認証 自己適合宣言登録済みの組織は3.4%
    (WCMS : Whistleblowing Compliance Management System)
内部通報制度の整備状況に関する調査2021年版

顧問弁護士のみを外部窓口とする組織が減少

内部通報制度の外部窓口を顧問弁護士のみとする回答が49.8%となり、前年から5.9ポイント低下しました。依然として外部窓口に占めるシェアは群を抜いて高い状況ですが、調査開始以降初めて過半数を割りました。11条指針*で経営陣から独立した窓口の設置が求められていることが要因の1つではないかと考えられます。今後外部窓口を新たに設置する組織では顧問弁護士のみを外部窓口にすることは少なくなり、また既にそうしている組織も順次他の外部窓口との併用等、移行が進むでしょう。

*「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」のことで、300名超規模の組織に義務付けられた内部通報制度の体制整備の指針

内部通報の外部窓口
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単一窓口で通報に対応する組織が減少、初動から適切な部署と連携する組織が増加

すべての通報に単一窓口で一次対応するという回答は年々低下しており今回は35.9%となりました。選択肢の中では依然として高い回答となりましたが、「通報の性質によって一次対応から相応しい部署で対応する」が増加しており、この傾向が続けば次回調査では逆転すると思われます。

要因として通報事案の多様化、労働施策総合推進法といった関連法令の出現が考えられます。それに加えて法改正、認証制度の開始によって内部通報制度の認知が広がり、内部通報制度を整備済みの組織であっても、公益通報への対応を優先させる制度への改定の動きがあったことが考えられます。

通報の性質に応じた窓口、部署の設置状況
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組織不正の探知にアンケートを活用する組織が増加

今回の調査では、コンプライアンスサーベイ(アンケート)を行っているという回答が36.8%となり国内の定期的な内部監査に続き2番目の回答率の高さとなりました。不正の検知は内部通報制度、という考え方に多少の変化が生じているようです。

また「報奨制度を導入済み」と「検討中」を合算すると1.5%、「罰の減免(社内リニエンシー)制度を導入済み」と「検討中」を合算すると10.6%という状況です。このような、内部通報制度における通報者をサポートする制度の普及が低い状態では従業員の正義感と勇気のみに依存した内部通報制度を切り札として頼ることになってしまい、本来の姿である職制上の報告ラインで不正が発見されることに依存することと大きな違いがなくなってしまいます。

アンケートと内部通報制度ではそれぞれの目的が異なります。アンケートは知ること、内部通報制度は解決することです。内部通報制度に寄せられる事案は問題解決までが期待されます。つまり、関係会社まで目が届かないため内部通報制度を利用して組織の風土を知りたい、といったことを主な目的として内部通報制度を利用するのは得策とは言えません。そういった時にはアンケートの利用が効果的でしょう。

組織の不正の可能性を能動的に情報収集するような活動 (複数回答)
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グローバル内部通報制度を導入済みまたは導入希望の地域は、東南アジア、中国、北米、欧州の順

物理的に距離の近い中国、東南アジアの割合の高さに変わりはありませんが、中国を選択する回答が若干低下しています。一方で欧州、北米は年々回答が増加しています。

欧州では一般データ保護規則(General Data Protection Regulation)の施行後に年々回答が伸びてきています。これは組織の個人情報取り扱い体制が整備されたこと、日本がEUから十分性認定を受けたことが影響しているのではないかと推察されます。

一方で、個人情報と内部通報を切り離すことは困難です。今後、法規制対応のために内部通報制度の導入を延期する、あるいはその域内で閉じた内部通報制度を運営してもらう、といった地域が見られるようになるかもしれません。

優先導入したい、または導入済みの地域 (複数回答)
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通報窓口をコンプライアンス部門/法務部門が担当する組織が増加、一方で監査役が担当する組織は減少

通報窓口を担当する部門は、コンプライアンス部門が初めて40%を超えました。対象的に総務部門は4年前の調査から4ポイント減少し31.6%となりました。

内部通報制度はコンプライアンス部門を主管とし、窓口が受け付け事案の性質によって法務、人事、総務部門等と協力して解決にあたる、といった動きが定着するのではないかと考えられます。

また、監査役が窓口となる回答は減少傾向にあり、4年前の調査と比べると約10ポイント低下し14.8%となりました。そして今回から聴取した社外取締役は2.3%と低い回答でした。一方で「改正公益通報者保護法に基づく指針」では組織の長から独立した窓口の設置が求められており、今後監査役や社外取締役を窓口とする組織は増加していくのではないかと思われます。

通報者対応窓口となる部門 (複数回答)
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改正法の内容を「確認していない」「知らない」「わからない」を合算すると49.8%

改正法の内容を確認していない、知らない、わからない、を合算すると49.8%となりました。さらに、11条指針(改正公益通報者保護法に基づく指針)について同様の項目を合算すると68.0%となります。改正法は2022年6月1日施行予定です。300名を超える組織には体制整備義務が課され、通報受付や調査にあたる従事者には強い守秘義務が課されます。改正法を把握していない従業員が対応を誤り、刑事罰などの処分を受けることのないよう組織は体制整備を進める必要があります。

改正法の認識
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11条指針(改正公益通報者保護法に基づく指針の中)で対応が難しいとして唯一20%の回答率を超えたのが 「組織の長その他幹部からの従事者の独立性の確保」で26.6%でした。その他の事項はすべて20%未満となりました。

本調査では内部通報に占める不正の割合は低いという結果がでています。実際に内部通報を担当している組織の担当者からも通報のほとんどをハラスメントが占めるということを耳にします。そのような事案を監査役や社外取締役に全件報告するのは合理的ではありません。事案に応じた窓口の分離等、体制の再検討が必要になるでしょう。

「改正公益通報者保護法に基づく指針」の中で対応や判断が難しい点 (複数回答)
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内部通報制度認証 自己適合宣言登録済みの組織は3.4%

2022年2月1日に消費者庁からWCMSが当面休止されるという通知がありました。2021年10月に実施した当調査では「登録済み」と「登録を前向きに検討」を合算して7.3%で、もっとも多くの票は「今のところ念頭にない」で45.1%、ついで「わからない」の28.8%でした。

内部通報制度認証についての方針
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改正法の試行状況、事業者の要望を踏まえて新たな制度が検討されるということなので、現状内部公益通報対応体制整備義務を課される300名超の規模をもつ組織が参照しやすい規格としてISO37002 Whistleblowing management systemsがあげられます。

2021年7月に発行されその直後の本調査では「初耳である」と「わからない」を足すと63.9%となり過半数を超え、一方で「ISO化が検討されていることを知っている」「知っている」「タイプBであることを知っている」「購入した」を合算すると35.6%となりました。

ISO37002についての認識
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