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監査手続:サンプリング

一部の項目の特性から母集団全体の特性を評価

監査人は、原則として監査対象となる母集団からからその一部の項目を抽出して監査手続を実施する。サンプリングとは、その一部の項目の特性から母集団全体の特性を評価する目的をもって行う抽出行為である。サンプリングの種類にはいくつかの分類があるが、代表的なものを例示しながら説明する。

サンプリングおよび母集団について

サンプリングとは

 監査人は、原則として試査によって監査手続を実施する。すなわち、監査対象となる母集団からその一部の項目を抽出して監査手続を実施するのである(これに対して、母集団からその全ての項目を抽出して監査手続を実施することを精査という)。

 サンプリングとは、その一部の項目の特性から母集団全体の特性を評価する目的をもって行う抽出行為である。

 

母集団とは

 監査人が特定の監査手続の実施についての結論を得るためにサンプルを抽出しようとする項目全体を指す。母集団は、その手続において監査人が検証しようとするポイントに合致したものであると同時に、対象とする全ての項目を含んでいる必要がある。

サンプリングの種類

サンプリングの種類にはいくつかの分類があるが、代表的なものを例示する。

 

無作為抽出法と有意選出法

【無作為抽出法】

 抽出項目を選択するあたり、クジ引きのように無作為に当てる方法をいう。これは監査手続ばかりでなく、新聞の世論調査や市場調査でも多く用いられている方法である。

 無作為法の利点は、確率論に基づいて、代表性の度合すなわち標本誤差の計算ができるので客観性があるという点である。しかし、サンプル数が少ないと、無作為抽出法は当たりはずれが大きくなるという欠点も有している。

 

【多段抽出法】

 多数の母集団の中から無作為抽出法によりサンプリングを行うにあたり、複数の段階に分けて無作為抽出法を適用する方法をいう。例えば、年間何百万件に及ぶ売上取引から100取引を抽出する場合、証憑書類も膨大な量であり、その中から一度にクジ引きのように選ぶというのは、現実的には困難を伴う。これを容易にするのが、この多段抽出法である。

 このケースを例にとって工夫してみたのが次の3段抽出法である。

 ■ 第1段… 全体母集団から任意の1月を無作為抽出する。

 ■ 第2段… 抽出した月の取引から任意の得意先5社との取引を無作為抽出する。

 ■ 第3段… 抽出した得意先との取引から平均20取引を無作為抽出する。

 これで1月×5社×20取引=100取引が選ばれる。

 この方法の最大のメリットは、先に述べたように、手続の容易性である。しかし一方で、段階ごとに繰り返し抽出することで、十分なサンプル数がないとサンプルの代表性が落ちるおそれがある。

 

【有意選出法】

 無作為抽出法が監査人の主観を全く入れないで、乱数表を用いるなどして確率的にサンプルを抽出するのに対して、監査人の判断を加味し、母集団の特徴を表す(代表性がある)と思われるとサンプルを選び出すのが「有意選出法」である。

 有意選出法においては、サンプルができるだけ母集団全体を代表するように慎重な判断のもとに抽出するか、あるいは予め典型的(代表的)といえるための条件を設定し、それに従って抽出する方法などがある。

 

 <母集団の階層化>

 有意選出法においては、母集団の階層化を行うことにより、各階層に含まれる項目の持つ特性のバラツキを少なくし、それによってサンプル数を少なくすることができるようになる。

 例えば、売掛金の回収可能性を監査する場合、母集団となる売掛金残高をその年令別に階層化し、それぞれの階層ごとにサンプルの抽出件数を変化させることにより、誤謬の発生する可能性の程度に応じて監査の効率化を図ることができる(年令の高い階層のサンプル数を増やし、年令の低い階層のサンプル数を減らす等)。

 

統計的サンプリングと非統計的サンプリング

【統計的サンプリング】

 サンプルの抽出を無作為抽出法を用いて行い、サンプルの監査結果に基づく母集団に関する結論を出すにあたって確率論の考え方を用いるサンプリング手法をいう。

 なお、統計的サンプリングにおいては、サンプル数の決定段階から確率論を利用することにより、一般的にサンプリングの信頼度は向上する。

 

【非統計的サンプリング】

 これに対して、統計的サンプリングの要件を満たさないサンプリング手法は、非統計的サンプリングに分類される。

 

 <サンプリング手法の選択>

 統計的サンプリングと非統計的サンプリングのいずれの手法を用いるかは、監査人が個々の状況に鑑みた判断を行い、最も有効かつ効率的な方法を選択する。このとき、抽出されるサンプル数自体は、統計的サンプリングと非統計的サンプリングの選択を決定付ける判断基準とはならない。

 

その他

【系統的抽出法】

 この方法においては、母集団を構成する項目数をサンプル数で割ることによってサンプル間隔が求められる。例えば、サンプル間隔が50の場合、母集団の初めの50項目の中から最初のサンプルが決定され、その後は50番目ごとの項目がサンプルとして抽出される。

 なお、最初のサンプルはコンピュータによる乱数ジェネレーター又は乱数表を利用して決定することにより、無作為性が高まる。

 

【金額単位抽出法】

 この方法は、取引記録や財務諸表項目など金額属性を持つ母集団の場合において、母集団を構成する項目の金額的に上位の項目からの累計額が一定金額以上になった場合に、その該当項目がサンプルとして抽出される。この方法の利点は、より金額的重要性の高い項目が抽出される可能性が高くなると共に、サンプル数が少なくてすむ点である。

サンプリング・エラー(標本誤差)

母集団すなわち全体から一部のサンプルを抽出して監査手続を行い、その結果から母集団の特性を推定するのが試査ですが、この際に生ずるサンプルの特性と母集団の特性との誤差をサンプリング・エラーという。言い換えると、試査によった場合の結論と、母集団の全ての項目に対して監査手続を実施(精査)した場合に得られる結論とは、異なる可能性がある。

 通常、母集団の特性が未知であることと、サンプルの特性も抽出されるサンプルによって左右されるので、サンプリング・エラーの大きさそのものは分からないが、その範囲は統計値を用いて確率的に推定することができる。

サンプル数の決定

まず、サンプル数の決定にあたっては、サンプリング・エラーの生ずるリスクが許容できる水準まで軽減できるかどうかを考慮しなければならない。言い換えると、サンプル数は、監査人が許容できるリスクの程度に応じて、選択するサンプリング手法や監査対象の特性を考慮して決定される。

 一般的に、サンプリング・エラーはサンプル数を多くするほど小さくなり、また母集団の階層化により母集団内での個別データのバラツキが小さいほど小さくなる。

サンプルの検証

抽出したサンプルを統計処理するにあたっては、簡単なものには表計算ソフト(例えばエクセル)があり、パソコンで手軽に利用できる。目的に応じた手法を選び、統計結果をどのように解釈するかは、監査人の判断となるが、ここではいくつかの表計算や数値計算のアルゴリズム(算法)を紹介する。

 

(1) 集計 度数分布表、相関表、単純集計表、クロス表

(2) 作図 各種グラフ、変数のプロッティング

(3) 基礎統計量 平均値、中央値、最大最小値、範囲、分散、標準偏差、変動係数、相関係数

(4) 検定 t検定(平均値、比率に関する検定)、カイ二乗検定(適合度、一様性、独立性に関する検定)、F検定(分散比に関する検定)

(5) 分散分析 1元配置法、多元配置法

(6) 時系列分析 移動平均法、指数平滑法、EPA法、センサス局法

(7) 回帰分析 単回帰分析、重回帰分析、多項式回帰、曲線回帰、ステップワイズ法

(8) 多変量解析 主成分分析、因子分析、正準相関分析、判別分析、クラスター分析、コンジョイント分析、多次元尺度構成法、数量化I類、II類、III類など

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