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最新動向/市場予測
NGFSによる気候シナリオPhase2:監督上のストレステストで広く参照
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.72
金融規制の動向(トレンド&トピックス)
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
矢吹 正太郎
気候変動リスクが自社にとって重要性を持つと判断する金融機関が増加し、金融監督においても取り組みが進んでいる。2020年7月のメールマガジンでは欧州中銀(ECB)が監督上の対話に利用する気候関連・環境リスクガイドについて紹介したが、今回は監督上のストレステストで広く参照されると考えられる、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)による気候シナリオPhase2について紹介する。
NGFSは6月に気候シナリオPhase2を公表した。このNGFSによる気候シナリオは、同時期に公表されたBOE(イングランド銀行)による、銀行、保険会社を対象としたストレステストの気候シナリオにおいても参照されている。今回のNGFS気候シナリオは、Phase1と枠組みは変わらないものの、シナリオの数がPhase1の8本からPhase2では6本に減少している。シナリオ数の減少は、CO2除去技術の利用に係る仮定で分割されていたシナリオを統合したことによる。
今回のNGFS気候シナリオの主な特徴は2点挙げられる。1点目は、日米欧などの主要国・地域がコミットメントを表明している、2050年ネットゼロ排出目標に沿ったNet Zero 2050のシナリオが示されたことである。Net Zero 2050の世界観を表現したパラメータが少ない中で、各国中銀、金融監督機関が参加するNGFSよりパラメータが公表された意義は大きい。2点目は、マクロ経済モデルによる経済インパクトとしてマクロ・金融変数が追加されたことである。マクロ・金融変数が追加されたことにより、金融機関におけるストレステストでの利用が加速すると考えられる。このマクロ経済モデルは、2018年に蘭DNBがエネルギー移行リスクのストレステストで利用したものである。
グローバル規模の気候変動による被害を抑制するためには、温室効果ガス(GHG)の排出削減に早期に取り組むことが有効とされる。金融機関には自社における取り組みに加え、投融資先との建設的な対話・エンゲージメントを通じて、脱炭素社会への移行を積極的に促すことで社会の変革をリードする役割が期待されている。金融機関が、シナリオ分析や気候関連ストレステストを通じて気候変動を含む環境・社会に係るリスク・機会を網羅的に捉え、体系的に分析するためには監督機関によるストレステストも有効な手段の1つとなる。NGFS気候シナリオという共通の尺度を活用して、グローバルで見た場合の自社の取り組みの進捗、強みや弱みを把握することは、気候変動リスク・機会への対処を一段と高度化するために有効な手段ともなるだろう。
図表:気候シナリオの四象限における世界観と気候シナリオ
index
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執筆者
矢吹 正太郎/Shotaro Yabuki
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター マネジャー
2015年より、リスク管理戦略センターにて気候変動リスクに係る体制構築、地方創生に係る将来人口推計と産業連関分析、金融機関に対するストレステスト・インパクト計測・共通シナリオ分析におけるモデル構築、ALM高度化、外貨調達環境の調査、官公庁のアンケートやコンダクトリスクに係るデータ分析などに従事。主な著書に『気候変動リスクへの実務対応』(中央経済社2020年、共著)がある。