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2021 Directors' Alert 巻頭言

取締役会によるスチュワードシップが拓く新たな時代の幕開け

世界は依然として新型コロナウイルス感染症によるロックダウンなどの影響を受けており、コロナ禍がもたらした経済的混乱からの回復の途上にあります。経済社会全体が大きな変化にさらされる中で、企業の取締役会のあり方も、根本的な変容を遂げようとしています。

取締役会が行われる場所も、重厚な木材やガラス製のテーブルのあるボードルームから、ラップトップPCのスクリーン上の割り付け画像に変わってしまいました。こうした外形上の変化だけでなく、取締役会で取り扱われる議題やトピックも、成長や利益、コスト構造といった従来型の定番のものから、より広範かつ大局的なものに比重が置かれるようになってきています。その中には、事業にとっての新しいリスク、職場の安全性、ガバナンスに対するステークホルダーの関心の高まり、社会や政治の混乱、人種間の不平等などへの対応といったテーマが含まれています。背景にあるのは、企業が社会的課題の解決に向けて率先して行動するべきであるというステークホルダーからの要求の高まりです。先進的な取締役会は、従来からこのようなことを真剣に議論してきましたが、コロナ禍によってこうした取り組みの必要性が誰の目にも明らかになってきたのです。

このことを、気候変動への対応と企業の社会的な存在目的という2つのテーマを例にして見てみましょう。コロナ禍の中にあっても、企業による気候変動への対応やコミットメントを求める圧力は衰えることはありません。欧州では、欧州連合の非財務情報の開示に関する指令によって、気候変動を含めた環境、社会、ガバナンス(ESG)の幅広い分野について共通の報告の枠組みが策定されました。アジアや米国においても、ESG投資に対する投資家の関心が引き続き高まりを見せています。

また、取締役会にとっては、コロナ禍は企業を取り巻く様々なシステミックリスクを再検討するきっかけとなりました。そして、このようなリスクに対処しながら経営の舵取りを行うには、これまで以上に高いレベルの創意工夫や思慮深さが必要であることが改めて示されました。同時に、いかなる企業も周囲から孤立して生きては行けないということも浮き彫りになりました。企業が事業を続けていくためには、「ソーシャルライセンス(社会的な操業許可)」を得ることが不可欠です。広く社会全体に対する企業としての責任を無視するような取締役会は、その危険性を認識しなければなりません。こうしたテーマは、2019年に米経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが発表した「企業の社会的存在目的」に関する声明*の中でも取り上げられていましたが、コロナ禍がもたらした様々な変化の中で、今や企業にとって最も優先されるべき関心事項と考えられるようになってきました。その結果、多くの取締役会において、自社がコロナ禍への幅広い対応にどのように貢献しているか、自社の人材やその健康・安全にどれだけ配慮できているかといったことが真剣に議論されるようになりました。さらに、社会的公正や人種平等を実現する上で企業が果たすべき役割は何か、といったテーマが取締役会で議論される場面も徐々に増えています。

このように、企業の取締役会は、様々な国や地域において、容易に答えが見つからない多種多様な課題に向き合っています。しかしながら、開催される場所がサンフランシスコであれ、上海やストックホルムやスウォンジーであれ、様々な企業の取締役会で交わされる議論の中身は類似性を有しています。これこそ、今という時代の特質を顕著に示すものと言えるかもしれません。なぜならば、現下の危機は、世界のどの地域においても、同時に同じような形で企業や社会に脅威をもたらすものだからです。

従来、プロの取締役と呼ばれる方々は、多くの企業の取締役を同時に兼務することには否定的でした。同じ人が同時に取締役を務めることができる企業の数を制限するよう主張する株主や株主集団もありました。しかし、コロナ禍によって、企業の枠を越えて取締役会同士がつながり合うことが、様々なメリットをもたらす場合があることが示されました。従業員の安全性確保、需要の激減(時には急増)、企業に対する社会的な期待の変化などへの対応について、ある企業の取締役会で生まれた優れたアイデアが、別の企業の取締役会でも採り入れられる、といった現象が多く見られるようになったのです。企業の取締役として活躍する人々が既存の業界や国・地域の枠を超えてつながり合うことで、多くの取締役会の間での「相互学習」の動きが生まれてきています。

デロイトでは、こうした変化の潮流を踏まえながら、クライアント企業の取締役を務める多くの方々と対話を続けてきました。こうした対話は、非常に啓発に富み、相互の理解と信頼を深めるものであると同時に、克服すべき課題を明らかにする上で有益で刺激的な内容を含むものでした。私たちは、この対話を通じて得られた知見や洞察を他の企業の取締役の方々、さらには、企業の経営執行をリードする経営幹部の方々にも共有して役立てていただきたいという想いから、2021年版のDirectors’ Alert シリーズを立ち上げることに致しました。

本シリーズは、豊富な知識や経験を有する現役取締役の方々に関するインタビューや紹介記事などから構成されています。全体として、登場いただく取締役の方々は幅広い業界やセクターを代表し、取締役会のガバナンスやカルチャーの醸成に関して指導的な立場で活躍されている方々ばかりです。今回お届けするのは、シリーズの第一回にあたるもので、後続回を今後数カ月間にわたって発行していく予定です。ご紹介する対話の内容が、皆様にとっても有益で示唆に富むものと感じていただければ幸甚です。多くの混乱と困難に見舞われた2020年は間もなく幕を閉じますが、来る2021年が安定と安らぎにつながることを願っております。


デロイト グローバル ボード議長 Sharon Thorne
デロイト グローバル グローバルボードプログラム担当シニアマネージングディレクター Dan Konigsburg

 

* ビジネス・ラウンドテーブル、「ビジネス・ラウンドテーブルは企業の目的を『すべてのアメリカ人に資する経済』を推進することに再定義する」、2019年8月19日

2021 Directors' Alert レポート全文(英文), 10MB, PDF
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