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Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー

三井物産株式会社 安永 竜夫氏

デロイトでは、取締役会や経営幹部の皆様が共通して関心を寄せる重要なトピックに取り組むべく、「Deloitte Global Boardroom Program」を実施しております。このプログラムの一環として「取締役会議長」にフォーカスをあて、インタビューを実施しました。

<プロフィール>
三井物産株式会社
代表取締役会長(取締役会議長)
安永 竜夫 (Yasunaga Tatsuo)

1983年に三井物産株式会社に入社。2008年にプロジェクト業務部長、2010年に経営企画部長、2013年に執行役員を歴任し、2015年に代表取締役社長に就任。2021年から代表取締役会長に就任(現職)。

“少数意見を拾い上げ事業や経営方針に反映させる議論を深めることで経営・執行・現場それぞれの納得感を得る“

Q. 取締役会議長就任後の意識・役割の変化や、メンバーの意見を引き出すために意識していること

A. 当社の取締役会は1/3以上の社外取締役、また監査役のうち過半数が社外監査役という体制で、様々な角度から当社の事業、ビジョンやあるべき姿に対して応援をいただくこともあれば、建設的な批判や方向転換を示唆されることもあります。豊富な経験値をもとに議論いただくことを前提とし、挙手をとるというよりも少数意見であってもそれをきちんと咀嚼して事業、経営方針に反映させることが大事だと考えています。そのため、社内外を問わずすべての取締役の意見を意思決定にどう反映させるか、結果として取締役会がいわば全員一致の合意形成ができるように持っていくことを理想形にしながら議論を進めています。

 これは私が議長になる前の社長時代のことですが、4年前に石炭案件の追加投資に関して大きく意見が分かれたことがあり、同じ案件を3回議論した上、結果的に実行せずとなりました。1人の取締役が反対されたことで議論が大きく膨らみ、その方の見解が明らかに執行側よりも洞察が深く、その意見をフォローすべきということになりました。1回目の議論を踏まえ、再度議論するためのベースを1週間かけて整え、2回目の議論で詳細再検証を行うため、決定の保留を正式にビジネスパートナーに伝えることを決めました。3回目では2回目までの議論と詳細検証結果を踏まえ、実行せずという結論に至りました。執行側はやはり実施したいという思いがありましたが、事業環境やパートナーの座組、ESGの流れの中で当社が向かう方向などを勘案し、石炭ビジネスについての経営方針を指し示すことで現場の理解を得て、ビジネスの展開を今後どうしていくのかという方向に議論が動きました。

 ビジネスパートナーや相手国政府など、その事業におけるステークホルダーとの関係においては、時間軸の制約があるため、取締役会の議論が長引いて結論が持ち越され相手に迷惑をかけてはいけません。一方で、乱暴に採決に入ってしまうと、少数意見に対してその議論をさらに深掘りするための客観的な情報が不足し、執行側の現場が混乱してしまう。単に取締役会で議決したということではなく、現場も納得させるような情報をきちんと揃えられるよう議論をする必要があります。論点を整理して議論を重ねたことが経営・執行・現場、それぞれの納得感につながったと思っています。

 質の高い議論をするためには、取締役会の議案を、議論すべきものとそうでないものに仕分けし、書面決議もこの数年増やしています。当社の場合、案件の金額が大きいので個別の案件をしっかり取締役会で審議していただいています。指名委員会等設置会社などに移行して個別案件の決定権を執行側に任せてしまうと、逆にこのような議論が起きなくなってしまいます。上位概念としての方針やポートフォリオの方向性だけを議論していると、現場との共通言語がなくなってしまう心配があります。やはり一定レベルの規模の案件、あるいは金額にかかわらず当社が新しくチャレンジしようとしている分野など、個別案件も取締役会で議論していただくこととしています。

 社外取締役の皆さんは多忙なので議案を絞るほか、案件の複雑さをご理解いただくためのブリーフィングをすることが重要と考えています。加えて、コロナ以前は1年に何回か社外取締役、社外監査役の方々に事業現場を回っていただいて、パートナーから見た当社に対する期待、現場で働いているチームの経営方針に対する理解、ビジネスのスケール感やその国の発展にどのように貢献しているかなどをSeeing is believingということで実際に見ていただく機会を設けていました。

Q. コロナ禍前後で中長期の戦略・事業計画についての議論の変化

A. コロナ禍によって、需要が消失して方向転換を余儀なくされた案件や、ポートフォリオの組み換えを急ぐ必要が出てきた案件はありますが、事業の方針そのものに変化はありません。むしろGX、DX、ヘルスケア、マーケットアジアなど当社のStrategic Focusがコロナ禍によってその重要性が浮き彫りにされたので、当社の方針は正しかったということが立証されたという実感があります。

Q. 企業と社会の関係変化、特にサステナビリティ動向・気候変動

A. エネルギー、電力や金属資源など直接的に影響する案件のみならず、全てのドメインでカーボンニュートラルに向けて何をすべきか検討することが、当社ではすでに当然のことになっています。エネルギーの安定供給を支えてきた当事者として、責任をもってデカーボナイゼーションにつながるイニシアチブをとるプレイヤーでなければいけないと思っています。先日、ESG DayとしてESGにかかわる当社のイニシアチブについて、アナリストや投資家の方に説明する機会を設け、どれだけ強い意識を持って会社を変えていこうとしているか、社外取締役、社外監査役の方々にも登壇いただき投資家の方々に直接説明していただきました。

 また、当社では毎年全取締役・監査役でフリーディスカッションを実施していますが、テーマは社外の方々のご意見を参考にガバナンス委員会で決定しています。これは取締役会のように事務局で準備した資料に基づいて執行側の取り組みをAcknowledgeしていただくのではなく、シナリオに沿わない自由な発言によって、会社の考え方を再確認したり、会社が気付いていないことをインプットいただいたり、あるいは軌道修正が必要だということを指し示していただくためです。今年度は、企業価値を高めるうえで中長期的に取り組むべき優先課題について自由に議論しました。その中でESGの「S」、特にD&Iについて明確に目に見える形で進めてほしいとの示唆がありました。現地採用の人材を引き上げるリーダーシッププログラムや、女性幹部候補育成のためのスポンサーシッププログラムを実施しています。これは社外取締役の方々からの、社内の常識は世界では非常識というぐらいの気持ちで取り組むべきだという助言に基づいての取り組みです。

Q. 東証市場区分見直し、コーポレートガバナンス・コードの改訂などガバナンスに関する資本市場の要請

A. ガバナンス・コードの改訂に伴って当社がプロアクティブに動かなければいけないものはないと思いますし、ガバナンス委員会で現在の機関設計で問題ないか、議論しています。一方でコード改訂により外形基準が変わる場合もあるので、今の機関設計を未来永劫是としないで、コードが変わることを前提に今からどのような準備ができるのかという議論をしています。

 独立社外取締役割合を過半数にするといった外形基準をあまりに強化してしまうと、実力のある社外取締役を企業が奪い合っているような現状においては、結果的に当社のように様々な分野と地域で事業を行う会社において取締役の総数を減らすこととなり、本当に最適解なのか、私は疑問に思っています。当社の取締役会では、全員一致を目指しており、社外取締役に拒否権があるのと同じなんですよね。彼らが反対したら徹底的に議論しましょう、少数意見を無視しません、ということは過半数の社外取締役を抱えなくても、社外取締役の影響力を担保することを可能にしていると思っています。

Q. 対面ではなくオンライン形式での議事運営を円滑に進めるにあたって工夫した取り組み

A. オンライン会議に慣れるまでは、指名して1人ずつ発言していただくということをやっていました。現在はオンラインでの議論の習熟度が上がってきていることもあり、自由にご発言いただいています。全員に指名をするとすごく時間がかかり議論の質の高さを求めることと相反してしまいます。もちろん議論によっては意見を促したり、説明者だけではなくCEOやCFOに考え方の根幹を確認しています。

Q. 次世代の取締役会議長に対してアドバイス

A. 社外取締役の意見を、例え少数意見であってもきちんと取り上げ、会社の方向性・施策・事業に反映させることが重要です。取締役会での議論が、執行に反映されている、あるいは実ビジネスの中で生きている、それから会社のD&IやESGの流れが加速されていることを見せることが大事ですし、それに基づいて議論し現場にフィードバックしていきます。要は経営会議の先にある最高意思決定機関が現場から乖離してしまうことを一番避けるべきと考えています。執行、現場を社外取締役の方々に理解いただいた上で議論をし、コンセンサスを取り、その議論を経営に反映させていく、もう単純にそれしかないと思います。

 もう一つ、当社ではフリーディスカッションを年2回と、コロナ禍の前は必ず四半期に1回はボードディナーを実施し、互いの考え方の違いや人となりを含めてしっかり理解しあう場を設けています。自由に発言をしていただくためにはそれだけの相互信頼、相互理解というものは欠かせないので、非常に有意義であると思っています。

Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー : 三井物産株式会社 安永 竜夫氏 (PDF, 918KB)

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