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国際通商ルール(TPP・FTA)対応戦略 第3回

~TPP以外で経営戦略上「最も注目すべき」経済連携~

TPP/RCEP/AECなど、かつてない広範かつ高インパクトの広域経済連携枠組みによって、ビジネス上看過できないほど、世界の通商・産業ルールが激変する可能性がある。「国際通商ルール(TPP・FTA)対応戦略」シリーズ第3回となる今回は、RCEP、日EU EPAなど、その他経営が「最も注目すべき」経済連携について解説する。

はじめに

TPP/RCEP/AECなど、かつてない広範かつ高インパクトの広域経済連携枠組みによって、ビジネス上看過できないほど、世界の通商・産業ルールが激変する可能性がある。「国際通商ルール(TPP・FTA)対応戦略」シリーズ第1回では、このような世界経済連携の潮流と重層化・複雑化する世界の経済連携網を概観し、「なぜいま国際通商ルールが経営課題とされるのか」について、第2回では、TPPの成り立ちから、TPPをめぐる各国の思惑、主な論点について解説した。第3回となる今回は、RCEP、日EU EPAなど、その他経営が「最も注目すべき」経済連携について解説する。 

30億人市場をターゲットとする東アジア包括的経済連携(RCEP)

日本との貿易額や世界人口に占める構成比で見ると、TPPのみならず、中国やインドが参加する東アジア包括的経済連携(RCEP: Regional Comprehensive Economic Partnership)こそ注目しなければならない。RCEPは、日中韓3か国に、インド、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN10カ国を加えた交渉枠組みであり、ASEANが既に締結済みの5つの「ASEAN+1」FTAを束ねる形の広域の包括的経済連携構想である。2011年にASEANが提唱し、2012年11月に正式に交渉が立ち上がっており、実現すれば、人口約34億人(世界の約半分)、GDP約20兆ドル(世界全体の約3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の約3割)を占める広域経済圏が出現することになる。

RCEP交渉は、2013年5月以降、関税や投資・サービスの非関税障壁の削減・撤廃のほか、知的財産権の保護、公正な競争の確保、経済技術協力、紛争解決、法制度問題などの分野を加えて議論が行われている。また、主要な論点である関税削減・撤廃をめぐっては、FTA税率を適用するため、言わば物品の「国籍」(原産性)を決定するルールである原産地規則についても作業部会が設置されており、2015年の合意を目指し、交渉が進められている。

このRCEPについて、企業サイドとして認識すべき点は、TPPと比べると交渉が初期段階にあることから、日本として交渉において確保すべきもの、すなわち日本企業から交渉相手国に対して求めるべき要望を政府に積極的に入れ込むタイミングであるという点である。RCEP交渉では、通常FTA交渉開始時に議論し、合意がなされる関税撤廃目標、すなわち貿易自由化率についても依然合意に達していない段階にある。貿易自由化率をめぐっては、ニュージーランドなどが90%を主張する一方で、インドは40%、中国も低水準を主張するなど、協議は緒についたばかりと言われる。このような交渉初期においては、交渉状況を見守るだけでなく、関税や投資・サービス、その他分野いずれにおいても、日本企業に有利に交渉が進むよう、日本政府に対して要望の的確なインプットを行うことによって、自社に有利なルールづくりに積極的に参加することが得策であろう。

ASEANが関与するその他の注目すべき経済連携-EU-ASEAN自由貿易協定(FTA)交渉

ASEANが関与するもう一つの注目すべき経済連携枠組みとして、ASEANとEUのFTAが挙げられる。これは、後述の環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)とともに、日本が関与しないFTAのうち、「最も注目すべき」枠組みの1つである。

EUとASEAN全体のFTA交渉は2007年に開始したが、ミャンマーの人権問題がネックとなって、2009年に交渉が中断している。これ以降、EUはASEAN諸国との二国間交渉を優先的に進めており、特にEUとの交渉中断を懸念するマレーシアやタイが積極的に対応してきている。

マレーシアとタイがEUとの交渉を重視する背景としては、これまで両国とも、EUが途上国に対して自発的に与える低い税率(いわゆるGSP特恵〔Generalized System of Preferences:一般特恵関税制度〕)の対象国であったが、両国の経済成長に伴い、2014~15年に対象外となるためである。例えばマレーシアからEUにタイヤを輸出する際に、これまで無税で輸出できていたものが、GSP特恵がなくなるために関税率が4.5%に跳ね上がることとなる。このような事態を回避すべく、マレーシアやタイは、EUとのFTA締結を急いでいる。一方のEUからは、低税率維持の見返りに、完成車輸入の税率削減や、安全基準・環境基準でEUを特別扱いするようなルールが要求される可能性もある。

EUとASEAN諸国の交渉は、日本は直接関係がないため、日本政府は関与することができない。EU-ASEAN諸国のFTAで日本企業が不利にならないためには、これら交渉の動向を注視するとともに、ASEAN地域に多額の投資を行ってきている現地企業としての「顔」を活かし、EUに一方的に有利な条件を与えないよう現地政府に要望するなど、戦略を練る必要がある。

ハイレベルなルール形成(1)-日EU経済連携協定(日EU EPA)

TPPに比べて一般的な注目度は低いが、日本とEUの関係も見過ごしてはならない。EUは、日本の輸出入総額の約10%(中国、米国に続き第3位)を占める重要な貿易相手である。また、投資の面でも、EUは日本にとって米国に次ぐ第2の投資先であるとともに、日本への投資元として第1位であり、極めて重要な地位を占める地域となっている。

日EUEPAは、2013年3月の交渉開始以降、2015年中の大筋合意を目指して交渉が進められてきた。特に、関税分野の交渉に加えて、規制分野での協力、非関税措置、知的財産、投資・サービス、政府調達、環境、労働などの幅広い分野でレベルの高い交渉が行われている。

交渉では、日本は、EU市場へのアクセスに関して、既にEUとFTAを締結済みの韓国に劣後していることから、特に自動車、電気電子機器の関税撤廃を強く求めている。一方、EUは、自動車、医薬品、医療機器、食品添加物、政府調達などの分野における非関税障壁の撤廃を求めているほか、EU側から輸出の多い加工農産品やワインなどの品目の関税削減、さらには農産品のブランド保護のため地理的表示(GI)をめぐる法制度の改善などを求めている。

なかでも両国間で特に大きな論点となってきたのが、自動車及び政府調達の分野である。自動車分野では、サブコンパクトカーを日本に売り込みたいEUが、軽自動車の優遇税制を廃止し普通自動車並みにすることや、認証手続きなどの非関税障壁の撤廃を強く要求してきた経緯がある。EUは、日本側の取組みの改善がなされなければ、交渉開始後1年以内に実施する「交渉レビュー」によって交渉打切りも辞さない姿勢を示してきた。日本が軽自動車と普通自動車の課税差を縮小する大掛かりな税制改正が行ったことなどを受け、本年夏にはハイレベルで交渉加速化の方向性が示されたが、依然として残る課題もあり、予断を許さない状況である。また、政府調達の分野では、EUは、外資系企業に対して調達の透明性が低く非関税障壁となっていると主張しており、特に鉄道関連分野において産業間対話などEPA交渉以外での協議を含め、議論を継続している。

日EUEPAについては、ビジネスとしては、通常のEPAで留意すべき関税・投資・サービス分野のほか、自動車・政府調達をはじめとした各種分野で、今後、日EU間でどのような「規制協力」が行われるのか、その動向に注目すべきであろう。すなわち、後述の米EUの交渉枠組みであるTTIPと同様、ハイレベルの二国間の交渉であることから、非関税障壁をめぐる打開策として幅広い分野で規制・基準の調和を目指す「規制協力」の協議が進むことが想定される。後述のTTIPによる米EU間の規制・基準の調和とともに、日EU間の規制・基準の調和は自社ビジネスに与えるインパクトが少なくないことが予測され、その見極めが重要となる。

ハイレベルなルール形成(2)-環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)

環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP:Transatlantic Trade and Investment Partnership)はEUと米国間のFTA交渉である。2013年7月以降、本格的に交渉が開始され、2年以内の妥結を目指して協議が進められている。

日本での注目は決して高くはないが、TTIPの重要性は看過してはならない。TTIPの交渉分野は、(1)関税、投資・サービス、政府調達分野などの市場アクセス改善、(2)規制・基準の調和及び規制協力などの規制課題改善、(3)知的財産、環境と労働などの共通のグローバル貿易課題に対するルール形成、に大別され、交渉の比重は、関税よりも非関税障壁、つまり安全・環境規制・基準などの規制・基準の調和にある。すなわち、米国・EU間の交渉枠組みでは、規制・基準の調和をはじめとするハイレベルな国家間ルールを構築することにより、もはやまとまらないWTOでの議論に代わって世界をリードしたいという思惑がある。両国首脳も共同声明において「TTIPは貿易投資の自由化の推進のみならず、多国間貿易システム強化のため、グローバルルールの発展を目指す」と表明しており、世界をリードするとの認識のもと、大国二者間の既存ルールの調和と新ルール形成が行われている。具体的には、自動車、化学、IT、薬品など多岐にわたる分野において議論が継続している。

TTIPは、米国とEUによる交渉であるため、日本政府が直接関与することができない。他方で、米国・EU間で締結されたルールがグローバルルールへと発展した場合、日本企業への多大な影響は必至である。このため、交渉の状況を注視するとともに、自社にとって望ましいルールが構築されるよう、米国・EUにおける現地企業としての「顔」を利用した情報収集や政府当局に対するインプット、さらには日EU EPAの枠組みを利用することで米国-EU間の取組みに劣後しないよう日本政府と連携し、自社の競争力につながる「規制協力」が実現するよう働きかけを行うなどの対応が重要であると言えよう。

まとめ

経営が「最も注視すべき」経済連携のインパクトは、関税のみに留まらず、規制・基準など多様なルールに及ぶ。これら枠組みの最新動向を読み解いた上で、日本が交渉当事国となっている交渉枠組みに対しては、自社に有利なルールを日本政府に要望することはもちろんのこと、日本が当事国となっていない枠組みにおいても、決められたルールがグローバルビジネスルールへと発展することを視野に入れて、自社ビジネスの競争力を損なわないよう戦略を練るとともに、状況に応じた働きかけを行う必要がある。 

 

コラム情報

著者: デロイト トーマツ コンサルティングレギュラトリストラテジー
リーダー   羽生田 慶介
シニアコンサルタント 白壁 依里

2014.12.17

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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