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ナレッジ
食品用途特許を活用した機能性表示食品の保護
機能性表示食品を権利保護するための、食品用途特許を活用した知財MIX戦略の立案
機能性表示食品の導入を背景とし、公知の食品に含まれる成分について一定要件を満たす場合、『食品用途発明』の特許性が認められることとなった。 機能性表示食品は、近年急速に市場拡大しているが、食品製造業の従来の知財戦略(例:商標やノウハウに依る戦略)では適切に保護することが困難である。 本稿では、機能性表示食品を適切に保護するため、食品用途発明を活用した知財戦略を検討する。
機能性表示食品と食品用途特許
日本では食品販売に機能や効果を原則として認められていない。しかし、特定の手続き・要件を満たすことで、機能や用途の表示が可能となる(表1)※1 ※2。従来、特定保健用食品、いわゆるトクホが存在したが、許可を得るには各種試験などコストが大きく、一部の利用に留まっていた。
その後、平成27年の食品表示法改正にて「機能性表示食品」が導入された。機能性表示食品は特定保健用食品に比べ、コスト・手続きなどのハードルが低く、多くの企業が自社製品の差別化手段として活用を進めている。
上記の機能性表示食品の導入は、食品業界における特許実務にも影響を与えた。具体的には、平成27年の食品表示法の改正を背景とし、平成28年3月に特許審査基準および審査ハンドブックが改定された。当該改定により、公知の食品に含まれる成分について一定要件を満たす場合、『食品用途発明』の特許性が認められることとなった。
本稿では、徐々に明らかになりつつある機能性表示食品の市場・効果、および、食品業界における従来の知財戦略などに触れたうえで、「機能性表示食品における知財戦略がどうあるべきか」について考察する。
機能性表示食品の市場環境
Statistaによれば、機能性表示食品の出荷額は、制度導入から1年目の2016年は出荷額が1,345億円であった。その後、年平均成長率(CAGR)20.6%にて著しく拡大し、2020年には2,843億円に到達している(図1)※3 。
市場拡大に伴い、届出数、および届出主体である企業数も顕著に増加している。届出数は、制度導入の翌年2016年は559件であったが、2020年には991件と約2倍の届出が為されている。プレイヤー数も2015年は190社であったが、約2.5倍の457社が届出を実施している(図2)。
市場拡大とともに、食品メーカーのみならず、様々なバックグラウンドを有する新規プレイヤーの参入が想定され、機能性表示食品の市場環境としては競争が更なる苛烈化を呈すると推察する。
機能性表示の事業への効果
市場環境の激化が見込まれるが、機能・用途を表示することで売上等にはどのような影響があるのだろうか。もし事業面への正の影響が見込めないのであれば、激化する市場へあえて参入する意味合いは少ない。
そこで、従来は機能・用途を表示しない一般食品として販売していたが、途中から機能性表示食品に切り替えた商品を対象として、売上等への影響を調査した(表2)。
伊藤園、カゴメ、キリン、雪印メグミルクの商品・ブランドのいずれも、機能性表示前に比して大幅に販売数量や売上を伸ばしている※4 ※5 ※6 ※7。このことから、機能・用途の表示が事業に与える正の影響の大きさがうかがえる。
機能・用途の表示により事業へ正の効果を生むものの、市場環境はプレイヤーが増加し競争が激化する可能性が高い。そこで、機能性表示食品領域へ参入する際には、自社の事業保護、他社の排除を目的として、知財戦略を立案し遂行していくことが肝要となる。
食品製造業の知財戦略と機能性表示食品の保護
機能性表示食品における知財戦略の重要性について、市場環境(規模/プレイヤー数など)と事業への影響の観点から述べた。本節では、従来の食品業界の知財体制を述べたうえで、機能性表示食品を構成する要素との対比を行いたい。
まず、食品業界における知財戦略であるが、商標、ノウハウが中心であると言われている。実際、特許庁の知的財産活動調査を見ても、知財予算に占める商標の費用割合が、他の製造業に比して突出して多い(図3)※8。
食品業界では、食経験があるものを加工して販売することが多く、特許で保護することが難しいという事情がある。また、食品の購買誘因力やブランド力を構成する要素は、外面的な「名称」、「パッケージ」、そして、味や食感などは「製造方法」に分けられる。その場合、各要素を保護する知財は、名称は商標、パッケージは商標と意匠、製造方法はノウハウ(営業秘密)と製法特許と推察する。そのため、食品業界では、商標に大きく依拠した知財戦略が採られていたと思料する。
しかし、機能性表示食品の場合、購買誘因力やブランド力を構成する要素として上記要素に「機能」が加わる。機能を表示したことで販売数量・売上を大きく伸ばした事例があるように、機能が消費者の購買意欲を掻き立てる要素に該当すると考えられる(図4)。
ここで、「機能」は一般的には技術的思想であり、商標では保護しきれない。また、機能を表示し公知となることから、当然ながらノウハウでは保護することはできない。そのため、機能を保護するには特許が必要となり、かつ、食品自体は公知物である可能性が高いため、食品用途特許で守る必要が出てくる。
まとめ:今後の機能性表示食品の保護の在り方
前述のとおり、機能性表示食品では購買誘因力/ブランド力を構成する要素に、技術的思想である機能が追加される。また、当該技術的思想は、消費者庁への届出、パッケージ等で公知となるため、ノウハウでは保護できず、特許による保護が望ましい。
しかし、機能性表示食品でも「名称」、「パッケージ」、「製造方法」は、購買誘因力やブランド力を構成する要素であることには変わりがない。そのため、食品用途特許のみでの保護では、名称、パッケージ、製造方法等の保護は不完全となる。
機能性表示食品の購買誘因力/ブランド力を構成する各要素を保護するためには、用途特許、商標、意匠、及びノウハウなどを含む知財MIX戦略を立案し、遂行する必要があると推察する。
<出所>
※1 厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-01-001.html
※2 消費者庁
特別用途食品についてhttps://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/
※3 STASTITA
Shipment value of the foods with function claims market in Japan in fiscal
years 2015 to 2020 (in billion Japanese yen)
※4 株式会社伊藤園ニュースリリース(2021/9/1)
https://www.itoen.co.jp/news/detail/id=25774
※5 カゴメ株式会社ニュースリリース(2016/2/22)https://www.kagome.co.jp/company/news/2016/002602.html
※6 キリンホールディングス
ニュースリリース(2015/9/11)
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2015/0911_01.html
※7 雪印メグミルク
平成28年3月期決算説明会資料
https://www.meg-snow.com/ir/news/pdf/20160512-986.pdf
※8 特許庁
令和2年度知的財産活動調査