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成長するIoT市場の動向と知財戦略事例

IoTとは、モノとモノをネットワークで繋ぐ技術であり、近年注目されている分野です。IoT市場の成長は著しく、2015年の世界市場規模は6,000億米ドルを超えていると言われています。変化著しいIoT業界において、どのように知財戦略を考えてゆくべきか、企業の具体的事例を交えて解説します。

はじめに ~IoT業界の概要~

IoTは近年著しい成長を続けている事業分野であり、2015年にはその市場規模は世界全体で6,000億米ドル超にまで達した。総務省の予測では、2020年には1.2兆ドルまで拡大すると見込まれている。

このような急成長分野においては、特許出願戦略が非常に重要となる。近年特許出願件数も増加しており、2011年以降に出願されたIoT関連特許は、アメリカだけでも30,000件を超えると言われている。

今後も成長を続けることが見込まれるIoT事業について、本稿ではその動向と、各社の知財戦略について解説する。

 

II.急成長するIoT市場

IoT業界が成長している背景として、スマートフォンやクラウド型サービスといった通信ツールが一般に広く普及したこと、ビッグデータ分析やワイヤレス通信技術などが高度化したこと、そしてセンサーや通信モジュールの小型化・低電力化が進んだことなどが挙げられる。

技術において現在先行しているのは、Google、Microsoft、IBM、GE、Qualcommなどの大手企業を擁するアメリカだと言われている。2014年にはGEやシスコシステムズなど米大手5社が主導し、IoTビジネスの活性化を目的とした普及推進団体IIC(Industrial Internet Consortium)も設立され、現在では200社超が参加する大組織となっている。

その他にも、各国は政策としてIoT事業を積極的に支援している。例えば製造大国ドイツは世界でいち早く国家プロジェクトとしてIndustrie4.0を打ち出し、IoTやAIを「第4次産業革命」となる重要な技術であるとして、特に製造業におけるコスト削減と製造現場の効率化・最適化を図るためのさまざまな支援を行っている。

日本もそれに追随すべく、総務省は2017年3月に「IoT政策委員会」を設置し、日本におけるIoT事業の促進のため、人材育成や官民による認証連携に向けてさまざまな施策を進めることを決定した。2015年に産学が連携して「IoT推進コンソーシアム」も設立されている。これらをドライバーとして、今後日本においてもIoT事業がさらに発展してゆくことが期待されている。

 

図表1 IoT市場規模
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図表2 IoTデバイス数の推移と予測
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III. IoTにおける知財戦略~Googleの事例

IoT技術の急速な発展に伴い、関連する特許出願数も近年非常に多くなっている。2011年以降のIoT関連の新規出願件数は、米国だけで30,000件を超える。中でもIoTプラットフォームおよび通信に関する特許が一番多く、それぞれ10,000件を超える出願数である。

ここで、IoT最大手の一社であるGoogleの特許戦略を例に挙げる。Googleは、スマートフォンが普及する前の2010年頃までは、年間の特許出願数は1,000件以下であった。これは、当時のGoogleの主要事業は検索エンジンと広告であり、特許はこれに関連するものに限定されていたためと考えられる。しかし、その後スマートフォンが普及し、もう一つの基盤事業としてOS「Android」が確立した2010年頃になると特許出願数は急増、2012年の出願件数は、2010年の3倍以上となる約3,500件にまで増加した。うち2,000件以上はミドルウェアに関する特許である。

 

図表3 GoogleのIoT関連出願件数
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また、Googleは1998年設立と比較的新しい会社であるために、1976年設立のアップル、1911年設立のIBMなどに比べて、当時は保有特許数で遅れをとっていた。これを克服すべくGoogleが行った戦略は、積極的なM&Aと外部からの特許調達による保有特許数の拡大であった。

例えばGoogleは、2014年に米Nest社を32億ドルで買収、スマートホームに適用可能な学習型室温制御装置に関する特許を中心に300件以上のIoT関連特許を取得した。これによりGoogleは競合他社と同等の特許競争力を得て、迅速にスマートホーム事業に参入を果たしたと言える。ただしこの買収によりGoogleは、Nest社がHoneywell社から提訴され、当時継続中であった7件の特許の侵害訴訟も同時に引き継ぐこととなった(2016年に特許クロスライセンスに双方が合意することで訴訟は終結)。M&Aによる特許取得には、当然このような負債的事項も含まれる。

 

IV.オープン&クローズ戦略と標準化

IoTにおける知財戦略を考えるうえで、今後キーとなるのは通信規格やセキュリティの標準化である。現在は複数の標準化規格が乱立している状態であり、いずれの企業も自社の技術をグローバルでの標準化技術とすることを狙っている。IIで述べたようなIoT業界団体が各国で設立されている目的の一つは、国全体での技術競争力を高めることで、自国の技術を標準化することだと考えられる。

標準化規格を取得するためには、ライセンスやパテントプール等による技術の普及推進、すなわちオープン戦略が重要となってくる。例として、2015年にパナソニックはIoTに関連する特許50件を無償公開した。この特許は端末とクラウドサービスを繋ぐソフトウェアに関する特許であり、スマートホーム等に活用可能な技術である。このオープンイノベーションにより、パナソニックは通信規格の標準規格化と、自社の端末・サービスの販売拡大を狙う考えである。

経済産業省も日本におけるオープン戦略を推進すべく、ADR制度(標準必須特許裁定。標準必須特許をめぐる紛争を対象として、行政が適正なライセンス料を決定する制度)の導入の検討を行っており、今後もオープンイノベーションの流れは継続するものと予想されている。

標準化された特許は、ライセンスのほか、パテントプールとして活用されるケースも見受けられる。アメリカにおいては2016年、Qualcomm、Ericsson、InterDigital、KPN、ZTEといった業界トップの企業が協同して、IoT関連技術のパテントプール「Avanci」を設立した。これはコネクテッドカーやスマートメーター向けの通信技術に関わる標準化特許を集約し、FRAND条件で他社にライセンスすることを目的としたものである*1

*1出所:Avanciプレスリリース(http://avanci.com/release/avanci-launches/

 

V.おわりに

Googleの例のように、IoTの特許戦略において、自前での出願にこだわらず外部からの特許調達やM&Aを行うことは、特許競争力を得ながら事業を拡大していく手段として有効である。また、今後市場のシェアを得るためには技術の標準化を考慮することが必須であり、そのためのオープンイノベーションを積極的に行ってゆく必要があると考えられる。

総務省の統計によると、米国では全業種において40%以上の企業が何らかの形でIoTを導入しているのに比べ、日本ではその割合は20%程度に留まる。日本はIoTにおいて出遅れているともいえるが、一方で今後の伸びしろが大きいとも言える。今後もIoT企業が特許戦略をうまく活用しつつ成長してゆくことで、日本における我々の生活もより利便性が向上してゆくことを期待したい。

 

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