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地政学動向がもたらす世界経済の構造変化

国際貿易への影響と企業戦略への示唆

米中貿易摩擦、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスとの戦闘等の地政学イベントが、世界経済に歴史的な構造変化をもたらしている。モノとサービスの流れは大きく変わり、企業の競争環境は複雑性を増している。経営者は、如何にして市場の“新しい常識”を捉え、グローバル競争を勝ち抜くべきか?日本とドイツのDeloitteの専門家が、独自の視点で分析する。

※このページは、Monitor Deloitteの柴田 宗一郎ディレクターが執筆した、Global trade and the new geoeconomic reality | Deloitte Insights (英語)の和文要約です。

 

歴史的転換点を迎える世界経済

日本ではバブル崩壊で経済が揺るがされていた1990年。世界経済では東西冷戦が終焉を迎え、かつてないスピードで政治と経済の自由化が推し進められるグローバリゼーションの時代が幕を開けていた。その後約30年間、関税の引き下げ等の貿易障壁の撤廃により、国境を超えるマーケットとサプライチェーンが形成され、いつでも・どこでも・何でモノが手に入る生活が当たり前となった。しかし、太平洋を跨ぐ大国間の対立と競争が激化し、欧州では戦争という現実が蘇る中、世界経済は再び大きな岐路に立たされている。地政学動向がモノやサービスの流れを大きく変え始めており、企業は新たな戦い方の模索を強いられている。
 

世界経済を揺るがす3つの構造変化

足元の世界経済では、経済合理性から強靭性や持続可能性、競争優位性から絶対優位性といった言葉に象徴される、3つの構造変化が同時で進行している。

① 安全保障と経済成長の戦略融合による国と企業の関係の複雑化

② 先端技術の覇権競争の激化に伴う保護主義の台頭

③ 脱炭素社会の追求による国家間の依存関係の再編

これらの構造変化は、国際貿易の前提にある国と国、及び国と企業の相互関係が大きく変わりつつあることを意味している。
 

国際貿易に出現する3つのトレンド

このような構造変化は、国際貿易の規模に大きな影響を及ぼしているとは未だ言えないかもしれない。一方で、貿易の内容や経路には、既に以下3つの変化をもたらしている。

① 新たな貿易回廊の形成

② デジタル貿易の普及と分断

③ 戦略鉱物の貿易の勃興と歪み

これらのトレンドは、市場の競争環境に大きな影響を及ぼし、企業戦略の立て直しを強いる可能性を秘める。
 

新たな競争環境を勝ち抜くための企業戦略

国家間の対立と競争で変貌する世界経済と国際貿易。経営者には、これまでの“常識”が通用しない市場環境を勝ち抜くための戦略構築が求められている。特に、以下の3つの視点を持つことが重要だと考えられる。

① 国と国の関係を意識した多様化戦略を取る

② デジタル領域を中心とした規制強化に備える

③ 部品や技術を加味した製品単位の意思決定をする

地政学動向が世界経済に新たな障壁をもたらす中、企業は「攻めか守りか?」といった戦略の葛藤を抱え続けることになる。しかし、市場の歪みは新たな価値提供の機会であることを忘れてはならない。新しい時代を勝ち抜くために必要なのは、長期的な競争力を構築するための成長戦略と、事業の持続性を確保するためのリスク管理戦略の両立だと言える。

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