最新動向/市場予測

世界最大級のエンタメ・メディア、テクノロジーの祭典から見える世界のトレンド

米国テキサス州オースティン市で毎年3月に開催されるエンタメ・メディア・アート・テクノロジーのコンバージェンス(複合)イベント。音楽ライブや映画祭などのエンターテイメントに始まり、現在から未来の在り方、トレンドを示すキーノートセッション、新コンセプト品が多く展示されるエキスポを求め、数十万人が世界各地から参加するこのイベントから見える世界のトレンドを紹介します。

イベント概要

イベントの名称であるサウスバイサウスウェスト(以下SXSW)は、米国テキサス州オースティン毎年3月に開催される音楽・映画・インタラクティブ・コメディをテーマに組み合わせた、世界最大級のクリエイティブ・ビジネスカンファレンス&フェスティバルである。1987年に音楽祭として始まったが、後に映画祭が加わり、インタラクティブやコメディといったテーマも入りながら規模を拡大してきた。このイベントには世界から数十万人の来客があり、約380億円の経済効果をもたらすとされる(参照1)。2024年は開催34回目(コロナ期除く)を迎え、3/8から3/16まで9日日間に渡り開催された。

エンタメコンテンツだけでなく、テクノロジーをはじめ各業界の最新動向を追うことができる約1500もの“キーノート・セッション”や、2009年から続くシード・アーリー期のスタートアップの登竜門とされる“スタートアップピッチ”、革新的、創造的なプロジェクト/サービス・テクノロジーを表彰する“イノベーションアワード”、 コンセプトプロダクト展示を主とした“クリエイティブエキスポ”、市内で展開される企業や各国政府のプロモーションなど、あらゆるコンテンツがひしめき合っており、様々な顔を見せる稀有なグローバルイベント・カンファレンスである。

 

SXSW注目のキーノート

今年のSXSWのキーノートには24トラック(カテゴリー)が設定された。AIやXR、スぺ―シャルコンピューティング、モビリティをはじめとする話題のテクノロジー関連だけでなく、2050、ダイバーシティ、カルチャー、政治、クリエイターエコノミーなどの多様なテーマについて、会期中に約1500ものセッションが市内各所会場で開催された。

そのなかでも話題になったトラック、セッション概要を紹介する(参照2) 。

 

<宇宙>Explore Space & Poetry With NASA & Poet Laureate Ada Limón

今年のオープニングキーノートとして、Lori Glaze氏(NASAディレクター)とAda Limón氏(米国詩人)により、2024年10月に打ち上げが予定されている木星の衛星エウロパ探査計画「エウロパ・クリッパー」を軸とする、宇宙探査と詩という2つの異分野の融合が披露された。未知に飛び込む宇宙飛行士にインスピレーションを与える言葉としての詩の重要性や、地球外生命体とのコミュニケーション手段としての詩の可能性など、科学と文学の交差点の役割などが議論された。

 

<2050>Amy Webb Launches 2024 Emerging Tech Trend Report

毎年SXSWで披露され今年で17回目を迎える、未来学者Amy Webb氏による人気セッションEmerging Tech Trend Reportでは、約1000ページにも及ぶ膨大なレポートから2024年に追うべき技術トレンドデータに基づく分析がなされ、未来に対する見方を変えるシナリオが提示された。今年は「スーパーサイクル」をテーマに、マクロトレンドとして「AI」「バイオテクノロジー」「常時接続型ウェアラブル」を挙げ、昨今のAIの強化・進化からオルガノイドインテリジェンス*やジェネレーティブバイオロジーの未来像が提示された。“不確実な将来のビジネス環境に備え、変化する技術環境に企業が適応しリスク回避できるよう、バリューネットワーク効果を見直し、戦略的な将来予測、シナリオ構築をすること”が推奨され、締めくくられた。

*人間の脳を模した「脳オルガノイド」を搭載した知能システム

 

<AI>AI and Humanity’s Co-evolution with OpenAI’s Head of ChatGPT Peter Deng

OpenAIのChatGPT責任者であるPeter Deng氏が、AIと人類の共進化について語った。“AIは人類の役割を奪う存在ではなく、より創造的な活動に集中することを促すパートナーとして共に進化していく存在である”と説き、“AI企業が安全基準と倫理的観点を優先する製品を市場に出すこと、また消費者が安全性と責任を重視する製品を選択すること”を奨励した。

 

<Spatial Computing>XR in the Age of Apple Vision Pro

MagicLeap創業者で現Sun and Thunder CEOのRony Abovitz氏をはじめとするXR関係者4名によって、2024年2月に米国で発売されたAppleVisionPro(以下AVP)を軸にXR、スぺ―シャルコンピューティングの未来について議論が交わされた。”XR界にとってゲームチェンジャーと期待される新端末であるAVPの登場は歓迎すべきことであり、体験の高度化は特筆すべきものではあるものの、ヘッドセットとしての機能性や、他機種やプラットフォームとの互換性やコンテンツ拡充への懸念についての指摘も目立った。またAVPの対比として盛り上がりを見せるAI搭載スマートグラスの有用性、将来性についても言及された。

 

<Diversity>Meghan, The Duchess of Sussex, Katie Couric, Errin Haines, Brooke Shields, and Nancy Wang Yuen

3/9の国際女性デーを記念して開催されたセッションでは、サセックス侯爵夫人のメーガン妃を含む業界関係者によるパネルディスカッションが開催され、メディアとエンターテイメント業界における女性の未来をテーマに議論された。“これらの業界の中で女性はマイノリティの立場であり、昇進機会の少なさや低報酬などの課題や差別に直面している。業界で成功するために必要なこととして、強い意志と忍耐力、仲間とのネットワーク、自身を信じること、自分の声を発信すること”が挙げられた。メディアとエンターテイメント業界を、現状よりもインクルーシブで多様性のあるものにするための取り組みとして、女性向けのメンタリングやトレーニングプログラム、女性経営者や起業家の支援団体設立、ジェンダー平等に関する意識啓発キャンペーン等が紹介された。

 

<Technology/Government>Margrethe Vestager on Technology, Leadership, Geopolitics and the Future

欧州連合で欧州デジタル化政策、競争政策担当を務め、欧州における大手テック企業に対する規制措置と消費者保護政策を進めてきたMargrethe Vestager 氏は、テクノロジーと地政学、リーダーシップと未来をテーマに語った。幅広いトピックがカバーされ、データの蓄積やネットワーク効果が市場動向に与える影響、デジタルサービスの安全規制の重要性、消費者データに関するプライバシー課題、アルゴリズムの偏り、倫理的なAIの利用、環境への影響などについて語られた。Vestager氏は、これらの多様な課題に緊急性をもって対処すべきである“と強調した。また、”若者のメンタルヘルスやオンラインセーフティに関する規制の必要性“も主張した。同氏はSXSW Innovation Awardで様々な業界で未来を切り開く功績を残したトレンドセッターを表彰する“Hall of Fame2024”も受賞している。

SXSW2024注目の展示

SXSWの企業出展は、屋内展示を主とするCREATIVE INDUSTRIES EXPO、XR EXPERIENCE EXHIBITION、ポスターアート展FlatStock、INNOVATION AWARDS、海外政府や企業プロモーションを目的とした屋外展示に分類される。注目を集めた展示をカテゴリ毎にいくつか紹介する。

CREATIVE INDUSTRIES EXPO米国陸軍をはじめ、Central Intelligence Agency (CIA、中央情報局)やNational Reconnaissance Office(NRO、国家偵察局)など米国政府機関からも数多くの出展があった。こうした機関は、日頃の革新的な活動の周知や、人材獲得などを目的に出展しており、他のテック関連イベントとの地域性やその性質差異を感じさせた(参照3)。米国でオンライン処方薬事業を展開するアマゾンファーマシーはヘルスケアカテゴリでの出展となったが、工夫を凝らしたユニークな展示が話題を集めた。米国の人気スポーツ「ピックルボール」のコートを用意してプロアマエキシビジョンマッチを開催し、試合展開の速さを同社の即日配送のサービス速度と掛け合わせて紹介した (参照4)。日本企業からは、TBSや日本テレビ放送網が自社通信技術サービスや他社協業の新規開発事業を紹介した(参照5)。住友金属鉱山は、太陽光をコントロールする素材を用いたダウンレスジャケットなどアパレル製品を海外初披露注目を集めていた(参照6)。American Honda Motor Co., Incは、パーソナルモビリティとXRを組み合わせた新モビリティ体験を出展した(参照7)。米国ラスベガスで毎年1月に開催されるCES(Consumer Electric Show)のように、国別での出展スペースが大々的に設けられている訳ではないが、韓国はCES同様に政府主導でエンタメ、XR領域のスタートアップを中心に出展し、会場内でその存在感を示していた。

多くの出展者は、完成品よりもまだ試作段階に近いコンセプトモデルを早いうちから披露することで、参加者からのフィードバック収集やテストマーケティングを意識した出展をしているとのことであった。

INNOVATION AWARDS Showcaseは3/9 午後2時~5時(現地時間)の3時間のみ展示され、大手企業からスタートアップ、NPOによる革新的なプロジェクト/サービスを実践する11部門からファイナリスト55候補が展示された。グランプリにあたるBest In Showは、Community Empowerment部門からDotPad(韓国/米国) が受賞した。同社は画像や文字情報を触覚情報に変換することが可能な触覚グラフィックディスプレイタブレットの開発販売により、視覚障害を持つ人々がデジタルコンテンツ体験をもたらすことが評価された(参照8) 。日本から唯一のコホートであったProject Humanityは筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者であるDJの筋電入力活用したアバターによりメタバース上でコミュニケーションを実現する取り組みを出展した。英国政府との共催により実際に日米を繋ぎリアルタイムでバーチャルDJパフォーマンスライブが披露され、現地でも盛況であった(参照9)。

屋外展示では、エンタメ・メディアの祭典らしく企業、海外政府関連の大型・娯楽的なプロモーションが市内各所で展開された。娯楽コンテンツプロモーションは活況であり、パラマウントピクチャーズはオースティン市内各所で巨大屋外広告で存在感を示しつつ、特設店舗スペースでは、今春配給・配信される新コンテンツをテーマとした没入型プロモーション展開した(参照10)。アマゾンはプライムビデオで配信される新作ドラマのアクティベーション(体験ゾーン)をホテル施設内で設け、来場者をドラマの世界感に引き込んでいた(参照11)。ネットフリックスは、三月配信開始予定の大作ドラマのため、屋外特設ステージにて番組出演キャストとともに立体視ディスプレイ技術を用いた3Dホログラムコンテンツを披露し、そのままプレミア試写会への導線へとつなげる一体型プロモーションを展開し話題を集めた(参照12)。メインスポンサーの1社であるポルシェは、5日間に渡り店舗型イベントスペースにて初公開となるEV車両や総合チューンアップ体験、飲食可能なラウンジを用意し、来場者エンゲージメントを高めていた(参照13)。

これらのプロモーションは期間・時間限定での開催となっており、事前告知からSNS、ネットを通じた拡散など、ネットワーク効果も緻密に設計されているように感じられた。

まとめ

エンタメ・メディア・最新テックの祭典やコンバージェンス(融合)イベントなどと称されるSXSWであるが、現地での印象として、今年の主役はやはり「AI(生成AI含む)」であったと言えよう。また、AIの進化とともに応用が期待されるロボティクス、ヒューマノイドやBCI(ブレーンコンピュータインターフェース)、バイオテクノロジーなど、AI基点に拡張が期待されるAI×業界、AI×機能に関するトピックも盛り上がっていた。また技術観点のみならず、AI利用にあたっての倫理に関する議論や、政治・規制などのガバナンスの在り方も盛んに討論されていた。加えて「2050」に焦点を当て長期目線でテクノロジーや世界情勢を踏まえた「未来」について様々な観点で語るセッションでも「来るAI時代に抗わずに準備をすること」、「AI時代においても人間的価値を見出すこと」が強調されていることは今後のテクノロジーと社会のあり方を象徴しており印象深かった。

 

来年2025年3月はメイン会場のオースティンコンベンションセンターが拡張建替工事のため、当地で開催される最後のSXSWとされており、どのようなテーマに注目が集まるのか期待が高まっている(参照14)。

本文内容の留意点と、情報の参照について

本文内容の留意点

  • 資料作成は、現地情報や公開情報を基に記載しておりますが、正確性を保証するものではありません。情報の採否はご自身で判断ください。
  • SXSWイベントは2024年3月開催、本稿は2024年5月時点での情報を基に執筆

概要参照

1.

SXSW Japan Office / VISIONGRAPHInc.公表値より
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000027643.html

2.

各キーノート参照SXSW公式YouTubeチャンネル

展示参照

3.

SXSW出展者一覧

CIA公式サイト https://www.cia.gov/sxsw/

4.

Amazon Pharmacy SXSW特設サイトより
https://pharmacy.amazon.com/samedaysxsw

5.

TBS、日本テレビ放送網プレスリリース
https://www.tbs.co.jp/tbs_sxsw/
https://lab.ntv.co.jp/topics/2024/02/sxsw-2024.html

6.

住友金属鉱山プレスリリース
https://www.smm.co.jp/news/release/2024/03/001815.html

7.

American Honda Motor Co., Incプレスリリース
https://www.prnewswire.com/news-releases/honda-combines-personal-mobility-and-vr-in-worlds-first-extended-reality-mobility-experience-to-debut-at-sxsw-2024-302073950.html

8.

Dot Incorporation. ニュース
https://www.dotincorp.com/61/137?sca=News

9.

Dentsu Creativeニュース
https://www.dentsucreative.com/news/dentsu-labs-tokyo-takes-project-humanity-to-sxsw

10.

IndieWireニュース
The Lodge Returns to SXSW with Popular Paramount+ Properties (indiewire.com)

11.

Austin American-Statesman記事
https://www.statesman.com/picture-gallery/entertainment/2024/03/08/prime-video-fallout-sxsw-2024-photos/72899267007/

12.

ネットフリックス新作ドラマプロモーション
https://venturebeat.com/games/netflix-premiers-the-three-body-problem-sci-fi-series-at-sxsw/

13.

Porsche プレスリリース
https://newsroom.porsche.com/en_US/2024/company/U.S.-debut-of-the-new-all-electric-Porsche-Taycan-and-Macan-will-take-center-stage-at-South-by-Southwest.html

14.

SXSW2025案内
https://www.sxsw.com/news/2024/see-you-next-year-sxsw-2025-dates-announced/

執筆者

執筆:

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社/Deloitte Consulting US San Jose, Manager,青木光政

協力:

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社/Deloitte Consulting US San Jose, Manager,Mina Hammura

監修:

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 COO,木村将之

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