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調査レポート
広がる5Gと今後の展望
デロイト『Digital Consumer Trends 2021』日本版
1. 日本の消費者の5G利用は順当に伸びている
日本では2020年3月から消費者向けの5Gサービスが開始されたが、同時期にCOVID-19の感染が拡大し、MNO各社の基地局整備、店舗運営、またプロモーションも制限を受ける形となった。そのような状況にありつつも、2021年に日本では「既に5Gを利用している」回答者は10%、「利用可能になり次第乗り換える」という乗り換えに積極的な回答者は9%に至った(図1)。5G商用サービスを開始しているUKなど他国との調査結果に比べると若干低いものの、2020年の日本では「既に5Gを利用している」という回答はわずか1%であり1 、COVID-19による影響下にあることを考えると、順当な伸びを見せていると考えられる。 なお中国は今回調査対象となっていないが、2020年の時点で10%が利用しており、各国が追いかける形となっている2 。
図1: 5Gの利用状況と乗り換え意欲(各国)
Q. 5Gネットワークに対するあなたの考えに最も近いものを次からお選びください。回答を1つだけ選んでください
N=日本 2020(1,791) 、 2021(1,844)、UK 2020(3,841)、2021(3,839)、オランダ 2020(1,953)、2021(1,960)、オーストラリア 2020(1,915)、2021(1,911)、中国 2000(1,880)、2021年は中国では調査を実施していない
注:18-75歳の従来型の携帯電話またはスマートフォン所有者
出所:Digital Consumer Trends 2020、2021
2. 5Gへの期待値は緩やかに上がっているが、消費者の半分は5Gを未だ「よく知らない」
日本の消費者は5Gを実際にはどのように認識しているのだろうか。5Gに対する認識を、スマートフォンおよび従来型の携帯電話3を所有する全回答者と、そのうちの5G非利用者と5G利用者にそれぞれ尋ねた(図2)。
まず、全回答者の54%が「5Gについてよく知らない」としており、これは2020年の59%より減ったものの、依然半数以上を占めている。ただ5G非利用者の55%が「現在利用している4Gよりもネットワーク接続がよくなる」と回答している。2020年は50%であり、5Gに対する期待値がゆるやかだが増加している。また5G利用者(図1にあるように全回答者の10%にあたる)の、実際に5Gを使ってみた感想を聞くと、47%が「4Gとの違いがわからない」と回答している。ちなみに日本に限らず、他調査対象国でも同様の傾向が見られ、例えばUKでも51%が「4Gとの違いがわからない」としている。これは2つの理由が考えられる。
1つは、消費者が実感している5Gの速度の問題である。日本では2021年3月末までに、MNO4社は全都道府県でサービスを提供し、合計で約2万1千の基地局を整備したが4、5Gが使えるエリアはいずれの事業者も局地的で、基地局の整備計画に遅れが出ている事業者もいる。さらに利用者のスマートフォンには「5G」と表示されているのに実際には4G程度のスピードしか出ていないケースがあるとされる5。もう1つは、キラーアプリケーションやサービスが未だに存在せず、5Gならではの体験を実感しにくい状況にあることが理由と考えらえる。この点についてこの後調査結果を見ていく。
図2: 消費者は5Gをどのように認識しているか(日本)
Q. 日本における5Gの展開について、次の記述にどの程度同意しますか
N=日本 18-75歳の従来型の携帯電話またはスマートフォン所有者 2021(1,844)、うち5G非利用者(1,657) 5G利用者(186)
出所:Digital Consumer Trends 2021
3. 有料・無料を問わなければ、5Gならではのサービスに消費者の半数近くが関心がある
日本の消費者の5Gで提供される各種サービスへの関心についても見ると(図3)、「使ってみたい」「使っている」という回答が、有料・無料を問わなければサービスによっては5割を超えていることから、一定の関心を集めているといえる。関心の高い活動の上位3つは動画に関連し、やはり5Gならではのコンテンツとしての魅力は動画にあると消費者が感じているようだ。
一方で有料でも「使ってみたい」「使っている」という層はいずれのサービスでも1割に満たず、やはり「追加料金がなければ使ってみたい」という回答者が多い。5Gが利用可能な通信事業者各社での実際の月額利用料金は2,000円〜8,000円台と容量や回線にもより幅広く異なるが6、まだサービスが実験段階であることから、すでに基本プランにこうしたサービスの利用が含まれているケースが多いことも影響していると考えられる。
図3 5Gで提供されるサービスへの関心
Q. 以下のサービスは5Gで提供されている/今後提供される可能性があります。これらのサービスについて、あなたの考えに当てはまるものはどれですか。あてはまるものを各サービスについて一つ選んでください。
N=日本 2021(924)
注1:18-75歳の従来型の携帯電話またはスマートフォン所有者。全回答者の半分を対象に調査
注2:注:この調査では実際には5Gで提供されていないサービスについても「使っている」 (「追加料金なしですでに使っている」
「5Gサービスとして数百円の追加料金を払ってすでに使っている」)という回答が数%ずつ含まれている。
4Gでのサービスを想起した誤答と思われるが、関心を示すものとして、そのまま掲載している
出所:Digital Consumer Trends 2021
4. スマートフォンの利用料金の値下げと今後の5Gの展開
2021年は日本の消費者のキャリア選択の動向が転換した年になったと考えられる。総務省の要請を受けて2021年3月から3キャリアがオンライン専用のプラン(NTTドコモ ahamo、au Povo、SoftBank LINEMO)を開始し、日本でも契約当たりの単価が下がった。総務省の調査では、2021年3月時点で調査対象6都市の中で日本の5GスマートフォンのMNOでの月額支払額は、2GB、5GB、20GBで2位の安さとなった7。
今回の調査でも2021年に「スマートフォンの契約プランを変えた(オペレーターそのものを変えた、あるいはスマートフォンを使い始めた)」という回答がスマートフォン利用者の32%を占めており(2020年の調査では、調査1年前の2019年に変更した回答者が27%と最も多く、当年2020年に変更したのは17%にとどまった)、さらに乗り換えの意向を聞く質問でも、積極性を示す回答(「他の携帯電話会社のより有利な契約を探し、自分に合った契約を見つけたら携帯電話会社を変更する」)が25%を占めた。
エリアの展開や5G端末の保有が前提条件になるが、MNOはもちろんMVNO各社でも順次契約内容に5G利用を含んでおり、スマートフォンの利用料金の低価格化は5G利用者増加に貢献すると思われる。
一方、値下げの影響でMNO3社は2021年上期に減益となり、今後の基地局の投資が抑制される可能性も指摘されている。また現在はNSA(ノンスタンドアローン)方式で5Gサービスを提供しているが、今後は5Gの本来の性能を活かせるSA方式のネットワークへの投資が必要となる。MNO各社は2021年末までにSA方式のサービスを開始もしくはトライアルする予定であり、SAが広まって5Gのキラーコンテンツが発展していけば上記のような「4Gとの違いが判らない」という回答は減っていくと想定される。
5Gは新しいテクノロジーへの期待値がピークアウトする、いわゆる「幻滅期」に入っていると考えられる。GSMAは2025年までに日本のモバイル接続の68%が5Gになると予測している8。2022年以降も5Gの成長は期待されるが、MNO各社はインフラとB2B, B2Cのユースケース開発を両輪で進めることが必要な中で、5Gビジネスの投資のバランスを考えていくべき時期に来ているのかもしれない。
脚注
1 5Gの各国消費者への浸透状況と日本の現在地|Digital Consumer Trends 2020|デロイト トーマツ グループ|Deloitte, 2020:
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology-media-and-telecommunications/articles/digital-consumer-trends-2020-5g.html
2 中国、5G接続端末が4.5億台に 昨年末比で2倍強に拡大, 日本経済新聞 (nikkei.com), 2021/10/19: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM197CN0Z11C21A0000000/
3 フルキーボードまたはタッチスクリーンではなく数字キーパッドと小さな画面だけの基本的な携帯電話(例:ガラケー、フィーチャーフォン、折りたたみ式携帯電話)
4 「情報通信行政の最新動向~5Gからその先の世界の展望~」, 竹内 芳明 総務省 総務審議官 2021年度情報通信講演会報告会, 2021/10/29:
www.fmmc.or.jp/Portals/0/resources/ann/pdf/koenkai/20211029_kichoukouen.pdf
5 さらにこの回答とは異なる問題として、5Gの通信そのものが止まってしまう「パケ止まり」も21年春以降指摘されている; 5G固執で落ちた罠、ドコモ・ソフトバンクらが「パケ止まり」対策, 日経クロステック(xTECH),2021/10/19:
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01273/00021/
6 Op cit. 総務省
7 総務省, 電気通信サービスに係る内外価格差調査, 2021/5/25:
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban03_02000713.html
8 GSMA, The Mobile Economy Asia Pacific 2021: https://www.gsma.com/mobileeconomy/wp-content/uploads/2021/08/GSMA_ME_APAC_2021_Web_Singles.pdf