調査レポート

デジタル時代のニュースソース

デロイト『Digital Consumer Trends 2021』日本版

消費者の「メディア利用行動・情報との接点の多様化」が指摘されている1。実際、私たちの生活に深く関わるニュースの仕入れ先や仕入れ方法は、大きく様変わりしているのではないだろうか。従来のように、放送や紙の新聞だけではなく、インターネット上のニュースサイト・個人のブログ・各種SNSなどから社会の動きを知るという行為も、私たちの日々の情報行動の大きな一部分を占めるようになっている。こうした状況を踏まえ今回は、日本の消費者がどのような媒体や方法で情報を得ているか、それらをどの程度信用しているかなどのデータから、今後のニュースソースの在りようを考察することを試みた。

1. ニュースソースとしての「テレビ」の存在感~ニュース番組には一定の支持も、ネット上での存在感は不振~

最新のニュースや社会の動きに関する情報を入手するために、最も選択されている方法は何か(図1)。

回答者全体でみると、「テレビのニュース番組」が最も好ましいと回答した人が最多であった(28%)。次いで、「インターネット由来メディア」が運営するウェブサイトやアプリが選択され(17%)、三番目のYouTube(9%)以下は1桁台となった。
 

図1: 最新のニュースや社会情勢に関する情報を入手するために使用する方法(日本、年代別)

Q. 最新のニュースや社会情勢に関する情報を入手するために、あなたが使用する方法は何ですか。最も好む方法を選んでください

図1: 最新のニュースや社会情勢に関する情報を入手するために使用する方法(「最も好ましい」と回答された割合)(日本、年代別)
画像をクリックすると拡大版をご覧になれます

N=日本 2021(2,000)注1:18-75歳の回答者 注2:「ー」は回答者なし 出所:Digital Consumer Trends 2021
*1:例:おはよう日本・ニュースウォッチ9(NHK)、News Zero(NTV/NNN) 、報道ステーション(EX/ANN)、 NEWS 23(TBS/JNN)、ワールドビジネスサテライト(TX/TXN)、LIVE News α(CX/FNN)
*2:例:スッキリ、アッコにおまかせ!、ひるおび!?、情報ライブ ミヤネ屋、シューイチ、モーニングショー、ワイドナショー
*3:例:あさイチ、真相報道バンキシャ!、News every.、Nスタ、Jチャンネル、イット!、各局が放送する朝・夕方の情報番組
*4:例:NewsPicks、スマートニュース、Yahoo!ニュース
*5:例:NHK、日経電子版、朝日新聞デジタル
*6:例:俳優、テレビ番組司会者


「インターネット由来メディア」によるウェブサイトやアプリは、回答者全体においては2番目に選択されていたが、35〜44歳では「テレビのニュース番組」以上に選択されており、こうしたニュースソースの存在感を示す結果となった(当該年代で「テレビのニュース番組」を選択した人は19%、「インターネット由来メディア」によるウェブサイトやアプリを選択した人は25%)。一方、同じ「ウェブサイトやアプリ」でも、テレビ等の「従来型メディア」が運営するインターネット上のサービスが最も好ましいと回答した人は6%に留まった。従来型メディアは、「テレビのニュース番組」というサービス・コンテンツでは「最も好ましい」と認識されているものの、ウェブサイトやアプリというインターネット上のサービスでは存在感を発揮できていないことが伺える。

2. 日本の若い世代では、いかなるメディアへの信用も高くない

次に、各サービスの運用母体であるプロバイダーへの信用度合いを見ていこう。ここで取り上げる2つの設問は、日本とUKの状況を比較しながら紹介したい。UK は受信料によって運営される(UK の場合は受信許可料)公共放送があるという点で、日本とメディア環境が似ているためである。

まずニュース番組や新聞などの「従来型のニュースプロバイダー」が信用できるか聞いたところ(図2)、日本の回答者全体で39%の人が「強く同意する(6%)」または「やや同意する(33%)」と回答した。「(強く/やや)同意する」と回答した人を年代別に見ると、65〜75歳で最も多く、44歳以下の比較的若い層で全体平均を下回っていることが分かる。

一方UKでは、回答者全体で53%の人が「強く同意する」または「やや同意する」と回答した。(強く/やや)同意するという回答の割合を年代別で見ると、65~75歳で最も高く(60%)、44歳以下で全体平均を下回った。この傾向は日本と重なるが、UKの場合は44歳以下でも、約半数程度の人が(強く/やや)同意すると回答している点は特徴的だろう。
 

図2: 従来型のニュースプロバイダーへの信頼(日本/UK、年代別)

Q. 「通常、従来型のニュースプロバイダー(例:ニュース番組、新聞) は信用できる」という記述にどの程度同意するかをお答えください。回答を1つお選びください。

図2: 通常、従来型のニュースプロバイダー(例:ニュース番組、新聞)は信用できる
画像をクリックすると拡大版をご覧になれます

左グラフ:
N=日本 18-75歳の回答者 2021(2,000)うち男性(983)、女性(995)、18-24歳(188)、25-34歳(303)、35-44歳(398)、45-54歳(361)、55-64 歳(346)、 65-75 歳(405)
出所:Digital Consumer Trends 2021

右グラフ:
N=UK 16-75歳の回答者 2021(4,160)、16-17歳(141)、18-24歳(472)、25-34歳(762)、35-44歳(709)、45-54歳(763)、55-64歳(688)、65-75歳(624)
出所:Deloitte Digital Consumer Trends, UK, Jun-Jul 2021


同様に、「ソーシャルメディアのプラットフォーム上の情報」が信用できるかを尋ねたところ(図3)、日本では「強く同意する(2%)」または「やや同意する(12%)」と回答した人は14%だった。年代別でみると、18〜24歳で、(強く/やや)同意すると回答した人の割合が最も高い(合わせて21%)。とはいえ、同じ18〜24歳の中で(強く/やや)同意すると回答した人の割合は、「全く同意しない」または「あまり同意しない」と回答した人の割合(合わせて34%)を下回っていることは付け加えておくべきだろう。

UKでは「強く同意する」または「やや同意する」と回答した人は回答者全体で14%だった。年代別でみると、16〜34歳という比較的若い層で全体平均を上回るが、それぞれ同じ年代内で、「全く同意しない」または「あまり同意しない」と回答した人の割合を下回っており、日本と同様の傾向が見られた。
 

図3: ソーシャルメディアのプラットフォーム上の情報への信頼(日本/UK、年代別)

Q. 「通常、ソーシャルメディアのプラットフォーム上の情報は信用できる」という述にどの程度同意するかをお答えください。回答を1つお選びください。

図3: 通常、ソーシャルメディアのプラットフォーム上の情報は信用できる
画像をクリックすると拡大版をご覧になれます

左グラフ:
N=日本 18-75歳の回答者 2021(2,000)うち男性(983)、女性(995)、18-24歳(188)、25-34歳(303)、35-44歳(398)、45-54歳(361)、55-64 歳(346)、 65-75 歳(405)
出所:Digital Consumer Trends 2021

右グラフ:
N=UK 16-75歳の回答者 2021(4,160)、16-17歳(143)、18-24歳(478)、25-34歳(765)、35-44歳(711)、45-54歳(759)、55-64歳(684)、65-75歳(620)
出所:Deloitte Digital Consumer Trends, UK, Jun-Jul 2021


以上を踏まえると、年代が上がるにつれて従来型のニュースプロバイダーが信用できるという回答割合が高くなる傾向にあること(図2、若干の高低はあるが「強く同意する」または「やや同意する」と回答した人が45歳以上で平均以上となり、65〜75歳で最多である)、ソーシャルメディア上の情報が信用できるという回答割合は平均で10%台前半に留まっていること(図3)は、UKと日本で共通している。しかし、UKでは、44歳以下でも約半数の人が従来型のニュースプロバイダーを信用していたのに対し、日本では、従来型のニュースプロバイダーが信用できると回答した44歳以下の人は28%〜35%に留まっている。こうした結果から、日本ではいかなるメディアも、44歳以下という比較的若い層からの信用を勝ち得ていないのではないかと解釈することができるだろう。

3. 存在感と信用の向上のためのニュースソースのありよう

冒頭で述べたように、人々の情報行動が多様化し、テレビの視聴時間は下降傾向にある2。また、40 歳代以下の人々にとって、「いち早く世の中のできごとや動きを知る」ための方法として、「インターネット」が第一選択になっていることも示されている3。こうした状況にあっても、2021年の本調査では、「テレビのニュース番組」というサービス・コンテンツは、一定の評価を維持できていることが確認できた。一方で、インターネット上における「従来型メディア」の存在感や、「従来型のニュースプロバイダー」に対する信用度に関しては、課題が顕在化した。

従来型メディア・ニュースプロバイダーが、ニュースソースとしての存在感を向上させ、人々からの信用を勝ち得るためには、信用に値するコンテンツを出し続けることもさることながら、作られたコンテンツが人々の手元に届けられるプロセスでの変革により、読者・視聴者・ユーザーとの接触機会を増加させることやマネタイズの方法を確立することが不可欠だ。

デジタル時代のニュースソースをとりまくこうした課題は、世界各国でも認識されている。例えばオーストラリアでは、インターネットのプラットフォーム上に掲載されるニュースコンテンツに対し、プラットフォーマーからニュースの取材・制作者(ニュースプロバイダー)への対価の支払いを義務付ける法律(Media bargaining code)が制定された4。コンテンツが届けられるプロセスの課題に、当局が打ち手を講じた事例として注目を集めている。

当局の動きに拠らず、事業体独自で変革を遂げた例として、米ニューヨークタイムズ(NYT)のDX改革が挙げられる。「一般紙による電子版の有料化は難しい」と言われる中、NYTの電子版有料購読者数は500万人を超え5、昨年夏にはそれまでの主要事業であった印刷版の新聞による収益を電子版ビジネスが上回ったと発表した6。この改革を成し遂げたNYTの前CEOは日経新聞の取材に対し、DXという新しい取り組みには、コストが増えたとしても、専門人材を雇うべきであることなどを指摘し、「ある程度の思いきった投資は必要だ。現在の利益率を変えずにDXできると考えてしまうと、投資が不十分になりやすい」と話している7。人材を集め、育てることがDX改革の成功の鍵であるならば、そうした有能な人材を引き付けられる事業(事業体)であることや、集めた人材が活躍できる環境を備えていることも必須だ。このように考えると、DX改革に必要な取り組みはIT投資に留まらない。組織のありよう、処遇や評価を含む人事・採用制度の抜本的な変革はもとより、既存メンバーの意識改革や組織風土改革など、ソフトな取り組みも欠かせないだろう。変革の過程で、事業の根幹を成すコンテンツの取材・制作プロセスの見直しを行うことも考えられる。

このシナリオにはコストも時間も必要だ。NYTがそうであったように、従来の事業(NYTなどの新聞社の場合は紙面の発行が、放送局であればテレビが該当する)に”パワー“があり、ニュースソースとして人々からの信用と支持を失ってはいない今こそ、変革のチャンスなのではないだろうか。

脚注

1 情報通信白書 令和元年版, 総務省:
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd114110.html
新しい生活の兆しとテレビ視聴の今~「国民生活時間調査・2020」の結果から, NHK放送文化研究所, 2021/8: https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20210801_8.pdf
メディア定点調査2021, 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所:
https://mekanken.com/mediasurveys/

2. Ibid.

3. 令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書, 総務省, 2021/8:
https://www.soumu.go.jp/main_content/000765258.pdf

4. News media bargaining code, ACCC, 2021/2;
https://www.accc.gov.au/focus-areas/digital-platforms/news-media-bargaining-code
The media bargaining code has passed Parliament, but don‘t rule out another Facebook news ban yet, ABC, 2021/2:
https://www.abc.net.au/news/2021-02-24/news-media-bargaining-code-passes-parliament-facebook-ban/13186354

5. メディアのDX「投資惜しまず」, 日本経済新聞, 2021/5/9: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71685890Y1A500C2EA3000/

6. “New York Times’ digital revenue tops print for first time in ‘watershedmoment,’ CEO says”, CNBC, 2020/8/5 :https://www.cnbc.com/2020/08/05/nyt-ceo-mark-thompson-on-digital-revenue-topping-print-for-first-time.html

7. Op cit. 日本経済新聞

お役に立ちましたか?