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データセンターのサステナビリティを巡る動向
クラウドコンピューティングの普及、発展に伴い、データセンターの姿も変わっている。広大な敷地に大規模な施設を設置するハイパースケーラーのデータセンターは、消費するエネルギーも大量となる。こうしたことも相まって、データセンターの運用・利用においてサステナビリティの重要性も高まっている。データセンターの運営者、ユーザーは技術面を含めてどのようなことに注意すればよいかについて解説する。
1.データセンターのマーケット環境
データセンターは古くは金融・行政・通信等の重要システムを収容して運用するための拠点として建設・使用され、時代のニーズとテクノロジーの進化にあわせて機能も仕様も変化してきた。デジタル化の進展によってデータセンター市場は世界中で成長基調にあり、地域差はあるが供給量(電力容量ベース)で年平均成長率は5~10%となっている。
日本国内では2010年代前半に、コンピューティングの仮想化を想定した新型データセンターが建てられたが、2018年頃からは新設されるデータセンターは、パブリッククラウドやインターネットを通じた様々なクラウド型サービスのために使われるものの比率が急激に高まっている。この動きはグローバルでほぼ共通しており、特に先進諸国においてデータセンター投資は急速にクラウド用途中心に変化している。Gartner社が予測した企業のIT関連投資の分野別成長率をみてみると、投資の積極領域はソフトウェアや、クラウド等のサービスに集まっている(図1)。
このような変化は、建物の仕様にも影響をもたらす。一般企業向けマルチテナントデータセンターでクライアントの入れ替わりがある場合にはニーズの見通しが立ちにくく、リスクヘッジの観点からあまり大規模にしにくいこともあるが、他方クラウドビジネス用途の場合は建物全体をシングルテナントや少数テナントで使うほか、クラウドサービスに最適で効率的な設計を導入することが可能なため、クラウドサービス大手のデータセンターはハイパースケールデータセンターと呼ばれる大型の設備になる傾向がある。
データセンターは共用設備と冷却効率の観点から規模が大きいほど利用効率は高い。またクラウドサービス大手のデータセンターはエネルギー利用の観点でも独自に様々な工夫をこらし、エネルギー利用効率を少しずつ高めている。データセンターの電力使用効率は、情報機器、冷却設備や電源設備の高効率化によって改善が進んでいるが、データセンター施設の大型化もこれに影響していると思われる。
ハイパースケールデータセンターは世界全体でも日本国内でも開設計画が急拡大している。世界のハイパースケールデータセンター棟数は年成長率10%以上で増加しており、国内では関東・近畿エリアを中心に多くのハイパースケールデータセンターの開設が計画されている。2023年以降、経済の不確実性により需要が軟化することも想定されるが、企業のIT活用の拡大、インターネットビジネスの堅調な成長を考えれば減速は一時的なもので、依然として投資意欲が継続するものと見られる。
ただし、同じハードウェアを大量に集積して作られるクラウドコンピューティングインフラは面積当たりの機器密度が高く、データセンター全体の電力消費量は極めて大きくなる。国内でも開発が進められている大規模データセンターキャンパスの場合、中小型の発電設備1基分の容量に匹敵する100MW(10万キロボルト)の最大受電容量が計画されている。産業施設として見ても1施設でこれほどの電力を消費する可能性のあるものは他になく、それだけデータセンターはエネルギー消費量に与える影響という点で注目されやすくなっている。
2.データセンターの課題とエネルギー消費
最近の新規データセンターは上で述べた通り、ハイパースケーラーを中心とした実需に対応して供給されており、実際の消費電力もデータセンター数の伸びに比例して増加してゆく可能性がある。
そもそもIT企業の事業成長と消費電力の伸びは切り離せない関係にあり、IEAの2022年レポートによれば1 、2015年から2021年までのデータセンターのエネルギー使用量は年平均最大約8%以上で増加したと分析されている。これは仮想通貨マイニング等の極端に電力を必要とするワークロードを除いても同じ傾向にあり、特定のIT領域だけの状況ではない。今後さらに、Web3.0が進展し、ブロックチェーン活用、AI利活用、メタバースといった多くの計算リソースを必要とするアプリケーションが増えてくることを考えると今後の増加率はさらに増大すると考える必要がある。
データセンターはITシステムの一部であると同時に不動産施設でもあり、用地取得からはじまり建設、取得、運用のビジネスプロセスに多くの産業が関係する。トップ4企業の中には、用地取得・建設・不動産保有・サービス運用を自社だけで実施できることもあるが、状況にあわせてアウトソーシングを行うことが一般的である。なかでも、不動産ビジネスが果たす役割は大きい。北米でデータセンター事業を行う大手企業はREITとして上場し、投資家の資金を集めて年にいくつもの巨大なデータセンターの供給を手掛けている。いっぽうで、ESG投資が重要な側面となりつつある中、大量の電力を消費するITサービスについてはこれらREITへの投資家のポジティブ、ネガティブ両面の姿勢が混在する状況ともなっている。冷却には水資源も必要で、データセンターが集積している地域の環境に負担をかける可能性もある。現時点でデータセンター投資に大きな機会を感じている投資家は、市場の成長とESG課題のジレンマ解消に向けて、自らも専門知識を身に着け、できる限りの取り組みを積み上げることで投資の正当性を示そうとしている。
- ステークホルダーが関心ある消費電力データや環境関連データを計測し、ESG報告において開示
- テナント企業が行うエネルギー消費やコスト削減のための方策検討の支援
- 各地域のデータセンター業界団体や環境配慮型データセンター推進団体と連携
- データセンター施設の各種グリーンビルディング認証取得支援
- テナント企業のRE100活動を支援し、各地域における自主的枠組みへの参加を実施、またクリーンエネルギーの調達契約交渉の支援
大手クラウド企業では、10年以上前から温室効果ガス排出に対して意識を向けており、自ら再生可能エネルギーの発電・送電について研究開発をしたり、それに取り組むエネルギー企業に投資をしたりしてきた。また、再生可能エネルギーの購入契約を拡大し、購入量ベースで社内全消費量の100%を再生可能エネルギーで賄う方向で進んでいる2 。当然データセンター内のサーバー、ネットワーク、ストレージ等の装置が顧客にサービスを提供するためのエネルギーも含まれるので、大手IT企業のデータセンターは大量の電力を消費するものの、そのすべてを再生可能エネルギーとしているので炭素排出の観点からは一定の対策ができているともいえる。しかし、それでもデータセンターのグリーン化に関していくつかの課題が残るだろう。
- 大手クラウド以外が使用する企業向けデータセンターでは、資金余力、費用/責任分担の観点で迅速な対応ができず、再エネシフトに遅れが生じる可能性がある。
- 再エネ購入ベースで自社利用の100%以上となっている場合でも、つねにグリーンエネルギーだけを利用しているとは限らず、より本質的なエネルギー効率改善の技術的対策を積極的に採用することが求められる可能性がある。
- 大手IT以外の企業・産業も再生可能エネルギーを必要とするため、全産業でみた場合、将来的に獲得競争になる可能性がある。
データセンターを安定的に運用し、投資の可能性も拡大するために環境・エネルギーの諸課題を解決することは避けて通ることができない。データセンターはサーバー、ネットワーク、ストレージといったIT機器に加え、冷却、セキュリティ、事業継続性技術等、特殊な技術的な側面があり、エネルギー利用の最適化でも、これらの要素すべてが関わったテクノロジカルな検討が求められる。
3.カーボンフットプリント削減に関する多面的な対応
データセンターを使用する企業やデータセンター提供者にとってネットゼロやESG目標達成を視野に入れて消費電力を最適化するためには、技術的な側面も含む多様な選択肢を考えることが求められる。特に近年注目を集めるいくつかのポイントを以下にまとめる。
■再エネ供給能力の開発
まず企業が考えるべき点は、データセンターで使用するエネルギーをどれだけグリーンエネルギー化できるかということになるだろう。米国の大手企業は、米国の大口再エネ購入企業が作るクリーンエネルギー購入者連盟(CEBA)を立ち上げ、再エネ購入に関する情報連携や共同での課題解決のためのエコシステムプラットフォームを形成している。これらの企業の共通認識として、従来と同じく再エネ発電事業者とPPAを結ぶことは重要だが、既存の再エネ設備から環境価値を買い取っていては再エネを新しく増やすことにはつながらず、産業用に新規のリソースを開発することがより重要というものである。CEBAの場合、2025年までに米国で60GW以上の新しい再生可能エネルギー投資を呼び込みたいとの目標を持っている3 。
■IT機器の制御
データセンターの電力消費量の6割以上を使うIT機器・装置の使用効率向上も重要な技術である。これはプロセッサ、半導体のレベルで効率改善することの他、仮想サーバー間で負荷状態を平準化してサーバー冷却の負担を軽減したり、逆に全体的に負荷が低い場合は物理サーバーへのワークロードを集約化してネットワーク機器の電力を節約したりするといった制御アルゴリズムの活用も含まれる。国内では、経済産業省と総務省による「次世代デジタルインフラ構築」プロジェクトにおいて同様の課題設定にもとづくパワー半導体、光電融合、ディスアグリゲーションといった技術開発が2030年までの計画で推進されている。
■冷却方法の変化
データセンターにおいてIT機器が使う6割以外の電力消費の多くを冷却が占めると言われている。単位面積あたりのIT機器が増大し密度が高まると、冷却の問題は大きくなる。冷却装置は、端末冷却機能と熱除去機能に分けられるが、現在は端末冷却として空気冷却が用いられ、空気の流れを分離してサーバールーム内に冷たい空気を送り込むと同時にIT機器の放熱部分から熱い空気を吸い上げる方式が主に用いられている。しかしこのままIT機器の密度と稼働率が上昇し続けると、空気冷却では非効率または能力不足になる可能性が高いとの認識も広がっている。その結果、空気よりも密度が高い液体を用いた端末冷却方式が注目され、各社から様々な液浸冷却製品が市場に投入されつつある。
■オンサイト発電
再エネ供給能力拡大の観点とも関わるが、データセンター内に太陽光等のオンサイト発電設備を設置する動きも現れている。都心部にある敷地が狭く小規模なデータセンターでは十分な規模の設備は作れないが、海外のハイパースケールデータセンターに見られるような、広大な敷地で空地も広い施設では発電容量の大きな太陽光設備が設置しやすい。データセンター製品のスタートアップは、屋外設置のコンテナ型データセンターで、コンテナ上部に太陽光パネルを持ち、コンテナ単位で50%以上の電力をオンサイト発電で得るような製品も見られる。国内では、環境省と総務省による「データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化促進事業」として再エネ活用データセンターの新設・移設・改修を予算面で支援する活動も行われている。
■24/7の100%グリーンエネルギー化を目指して
大手クラウド企業では購入契約ベースで既に100%再エネ化ができていることを先に述べた。現状「再エネ100%」は全社の年間総使用量分の再生可能エネルギー購入契約がありそれが該当企業に当てられている状態を示す。しかしながら、実際には地域・時間帯によって再エネ供給量より使用量が多いことがあることがわかっている。より進んだ100%再エネ化を行うには、このような24時間365日の100%再エネ化も重要となる。このためには、各地のデータセンターにおける1時間ごとの供給電力が再エネ由来かそれ以外かを計測し、どの地域でどの程度の再エネ調達強化が必要かといった検討が必要となるため、機器メーカーや電力企業と密に連携した活動も必要になるであろう。
4.テクノロジーとサステナビリティ
将来的にDXやWeb3の動きが進展すればIT機器の電力消費量は増え続けることになる。現在のIT産業が占める電力消費量は他産業や世帯消費よりも比率は低いが、これが目立って高くなれば環境対策に関する責任も重くなることが避けられない。データセンターにおける様々な対策は、機器メーカー、建物設計から不動産業、投資家、電力会社、送配電網サービスといった非常に幅広い関係者を巻き込むことが求められる。
これからのIT産業、そして企業のIT担当者は、様々な関係者の存在を意識し、その力を集め、また自らの知見を産業界で共有しつつサステナビリティ対策を推進するリーダーシップが求められ、同時に業界横断的なエコシステムの形成も意識することが求められよう。
*1 International Energy Agency, “Data Centers and Data Transmission Networks”, Tracking report, September 2022(https://www.iea.org/reports/data-centres-and-data-transmission-networks)
*2 出典:「令和3年度データセンターにおける再エネ活用促進に係る調査検討委託業務成果報告書」(環境省)(https://www.env.go.jp/content/000077974.pdf)(令和4年3月)
*3 The Clean Energy Buyers Association,” EBA: Energy Customers Announce Record-High of Nearly 17 GW of Clean Energy in 2022, Despite Policy and Market Challenges”,Press Release, February 2023(https://cebuyers.org/blog/ceba-energy-customers-announce-record-high-of-nearly-17-gw-of-clean-energy-in-2022-despite-policy-and-market-challenges)
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