Deloitte Insights

インテリジェントインターフェース

人間、コンピュータ、そしてデータとの関わりを見直す

人々は、タッチスクリーン、音声操作、そしてそれ以上に高度なインターフェースを通じて、テクノロジーを使用していることを意識することなく、より自然で新しい方法を通じて、テクノロジーと関わるようになっている。

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Tech Trends 2019-Beyond the digital frontier

日本のコンサルタントの見解

デジタルリアリティからインテリジェントインターフェースへ

2016年は「AR and VR go to work」、2017年は「Mixed Reality」、2018年は「Digital Reality」と3年続けて取り上げられていたxRに関するテーマが、今年は単独ではなくIoTやAIなど、複数のテクノロジーを組み合わせた「インテリジェントインターフェース」として取り上げられることになった。

インテリジェントインターフェースとはなにか、一言で述べるとどういうことなのか、我々なりに議論し、「現実世界とデジタル世界をシームレスに繋ぐツール」であると定義づけた。IoTの普及に伴い、昨今「デジタルツイン」や「サイバーフィジカルシステム(CPS)」という言い方で現実世界とデジタル世界の融合に関する概念が謳われているが、インテリジェントインターフェースがまさにその両者を結びつけるものであるという解釈である。これまで現実世界とデジタル世界は完全に分離されており、現実世界の情報は入力作業など人手によってデジタル世界にデータを反映させる必要があった。また、デジタル世界で蓄積・処理されたデータも、それを人間が確認・加工し現実世界で利用するという流れであったが、インテリジェントインターフェースにより、人手を介さない両者の融合がより現実的なものへと加速されるものととらえている。ここで、実際の実現イメージを日常生活の1シーンの中で想定してみよう。例えば、冷蔵庫にある食材でレシピサイトを参考(スマートフォンを使い)に料理をしようとした場合、

  •  冷蔵庫にある食材で料理を作ろうと考える
  • 冷蔵庫の食材を確認し、スマートフォンにてレシピサイトを表示して、該当する食材を入力する
  • レシピサイトが材料に合致するメニューを検索する
  • スマートフォンに、レシピサイトで合致した料理が人気順や新着順に一覧表示される
  • 気に入ったメニューを選択し、レシピを参照しながら料理をする

といったように、スマートフォンに必要なインプットを入力して目的のアウトプットを得ることが現状の流れであろう。

一方、インテリジェントインターフェースが日常にも浸透すると、

  • 冷蔵庫にある食材で料理を作ろうと考える
  • スマートフォンで冷蔵庫に接続すると、自動認識している冷蔵庫内の材料で作ることが可能なレシピの候補を表示する
  • 気に入ったメニューを選択し、レシピを参照しながら料理をする

最初と最後は同じだが、データのインプット、コンピュータの処理、アウトプットのプロセスは、人間が介在することなく自動的に実行されることになる。更に、ウエアラブルデバイスなどを通じて本人の身体的な状態に関するデータも活用すれば、体調も考慮した結果を自動的に得られるということも考えられる。また、Microsoft社のHoloLensのようなMR(MixedReality)グラスが眼鏡と同等サイズに進化すればMRグラスを通して冷蔵庫を見ただけで上記のような対応が可能となるだろう。このような世界が実現し浸透することで、日常生活だけでなく、ビジネスの世界においても大きな変化をもたらすことであろう。

インテリジェントインターフェースを構成する要素の浸透状況

本編でインテリジェントインターフェースの要素として紹介されている、「音声認識」、「コンピュータビジョン」、「デジタルリアリティ」、「IoT&センサー」に関する海外・国内動向について簡単に触れてみたい。

まず、音声認識については、本編でも触れられていたAmazon AlexaとGoogle Assistantがそれぞれ搭載されているAmazon EchoとGoogle Homeがコンシューマー向けのスマートスピーカーとして認知されている。デロイトの「世界モバイル利用動向調査2018」調査によると、スマートスピーカーの保有率について海外は10%前後(中国は20%を超える)だが日本では3%に留まっており、日本のスマートデバイスに対する感度が低い状況となっている。また、海外ではビジネスでの活用に関する取組みが開始されているが、日本ではこれからというところであろう。

コンピュータビジョンについては、小売店舗にてビデオカメラで撮影した映像をAIで解析することにより、来店者の属性(年齢層、性別など)や店舗内での行動を分析(来店者数、エリアへの滞在時間などを把握)し店舗オペレーションの効率化などに活かす事例がアパレル業界を中心に活用が進み始めている。また、JR東日本が2018年10月に実施した無人コンビニの実証実験も一例である。AIという広い範囲でとらえると海外に後れをとっている日本だが、無人店舗のような特定のテーマにおいては、海外・国内ともにまだ実証実験の段階にあり、日本が世界をリードできる可能性が十分にある。

デジタルリアリティについては、海外・国内ともにエンターテインメントでの活用が先行している。ビジネス利用においても「通常では経験できないこと、しにくいことを疑似体験できる」という利点を活かし、海外では製造業、医療、スポーツ観戦等で活用範囲の横幅および深度において成長を続けている。一方、国内では毎年、建設現場で発生してしまう重大な事故をストーリー性のあるVRコンテンツを通じて体験する安全教育や、火災や地震等の防災訓練、普段は関係者しか入れない場所や遠隔地の見学を可能にするコミュニケーションツールとして活用が進んでいる。

最後にIoTやセンサーについては、Industry4.0に象徴されるように、海外・国内ともに製造業を中心に実証実験や実用化を進めているケースが増えている。それに加えて、転倒や眠気を検知するなど人間の状態を可視化し、安全や介護などのヘルスケア関係ビジネスへ活用しようとする動きも出始めている。

要素ごとに偏りはあるが、B2C、B2B向けに、それぞれ概念実証から実用化レベルで日々新たな事例が登場してきている。一方、複数の要素を活用し、現実世界とデジタル世界を完全にシームレスに繋いだ実例はまだまだこれからというところであろう。

インテリジェントインターフェースが実現する世界に向けて

インテリジェントインターフェースが実現する世界は、センサーやゴーグルならびにHMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのデバイスの進化とネットワークの進化が必要不可欠である。それらの進化によって、インターネット普及期のダイヤルアップ環境からブロードバンド環境、PCからスマートフォンへの変遷を思い起こさせる程の劇的な変化が想定される。現在は、デバイスとネットワークの進化は過渡期であることは疑うまでもないが、過去を振り返ってみても、すべての進化を待っていては先行した他社による優位性を覆すことができなくなってしまうであろう。

これらの新しいテクノロジーを先行して導入する際は、海外・国内ともに社内で実証実験を実施したうえで本格展開する流れは同じだが、海外では本格展開まで進むところ、国内では以下のような理由から実証実験で止まってしまい、多くの場合は本格展開に進みだせないことが実情である。

  • 持ち合わせている情報に偏りがあるため、検証するユースケースに偏りが出てしまい、実証実験の目的を見失ってしまう 
  • 必要な予算が確保できず、一部の機能しか検証できない
  • 実証実験の結果を、スキルを持ち合わせていない一部の社員だけで評価してしまう

実証実験を実施する際は、KPI等を含め検証の目的を明確に定める必要がある。また、社内のメンバだけではなく外部のエキスパートを活用して最新で必要十分な情報を得ると同時に、実証実験の結果を客観的に評価する仕組みを用意するべきである。また、国内の企業は海外に比べて短期ROIに基づく投資判断がなされる傾向にあるため、5年10年後の自社の姿を見据え、必要十分な投資を実施することが推奨される。

テクノロジーの進化による劇的な環境変化を遂げた過去に習い、インテリジェントインターフェースによる世界の実現を見越して、今からでも自社として達成したい成果や優位性が何かを定め取組むべきであろう。ただし、仮説ベースでのスタートであるため、従来のウォーターフォール型のような段階を踏んで進むアプローチではなく、一つの要素や領域等、小さな単位の検証をクイックかつ複数回実施し、改善を繰り返しながら検証範囲を拡大していくアジャイル的なアプローチがこのテーマにおいては適していると考える。

2018年版でも実例としてご紹介しているデジタルリアリティの領域では、「百聞は一見にしかず」という言葉がふさわしく、説明を聞くよりも”実物を見る”、”実際に体験する”ことが提供価値を理解する近道であるが、インテリジェントインターフェースにおいても同様に、まずは始めてみて「体験する」ということをお勧めしたい。

インテリジェントインターフェース (日本版)【PDF, 2,076KB】

執筆者

松下 和弘 シニアマネジャー

日系コンサルティング会社を経て現職。大規模基幹システム再構築の計画立案から実行など、情報システムのグランドデザインから構築、運用支援まで一貫したプロジェクト推進に従事。デジタル戦略としてデジタルリアリティを活用したコンサルティング領域も担当。

田中 大地 マネジャー

外資系ITメーカーを経て現職。金融・アパレル業界を中心に、経営統合、システム統合等の多数の大規模でグローバルなプロジェクトをビジネスとITの両面から手がけている。デジタル戦略としてデジタルリアリティを活用したコンサルティング領域も担当。

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