Tech Trends 2022 日本版 ブックマークが追加されました
Deloitte Insights
Tech Trends 2022 日本版
日本版全文(PDF)
過去2年間にわたり、世界はパンデミックの衝撃に揺さぶられてきた。そして私たちは今、皆で力を合わせて「新しい日常(ネクストノーマル)」を方向づけようとしている。デロイト グローバルの「Tech Trends」チームは、この動きがより良い未来を作る機会、つまり単に従来のITを表面的に見直すだけではなく、どうすれば皆が一緒に前進できるかを、根本から考え直すことにつながると信じている。
2022年の「Tech Trends」では、基本的なオペレーションを維持・高度化するための重要な鍵として自動化を位置づけ、それがどのように従業員の労力をバリューチェーンの上流にある高付加価値の課題解決にシフトさせることにつながるのか、その歩みをたどっていく。
Tech Trends 2022各章の概要/PDF
データシェアリング時代のはじまり
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インダストリークラウドの潮流
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ブロックチェーン:ビジネス利用への期待
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IT 部門の再構築:加速する自動化
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サイバーAI:真の防御
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技術スタックは物理化する
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未来のフィールドノート
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日本版発行に寄せて
「Tech Trends」では、毎年、今後1年半から2年の間に、ビジネスに大きな影響を与えるであろうテクノロジーのトレンドを考察しており、今回でグローバル版は13回目、日本版は8回目の発行となる。2022年版では、最初の3章で“Advancing the enterprise”つまり企業がテクノロジーをいかに戦略的に活用し、新たな価値を創出していくかにフォーカスしている。その中では、データやブロックチェーンを活用した、企業の枠を超えた新たなビジネスモデルの可能性や、クラウドを活用した競争優位獲得について考察する。次の3章では、”Optimizing IT”つまり企業が高度な自動化によって事業運営を最適化することや、デジタル化によって企業が新たに考慮すべきガバナンスについて考察する。前者が「攻め」であるとすれば、後者は「守り」であるともいえるが、それはただの効率化や、現状の延長線上にあるものではなく、新たな視点であり、人と機械が協働する世界で人をより付加価値の高い業務にシフトしていくことを狙いとしたものである。そして、最後の1章では視点を少し先に延ばし、今後数年の間に普及期を迎えるであろうテクノロジーの方向性を考察する。
2022年版で取り上げたトレンドの特徴としては、過去のものと比してよりテクノロジーそのものに着目したトレンドの割合が多い印象である。この数年はMLOps(機械学習をスケールするためのDevOps)やエシカルテクノロジーなど、テクノロジーそのものよりも、テクノロジーに対する組織としての構え方・考え方を考察した章の割合が多かった。その背景を考えると、3点が想像できる。
1つ目として、テクノロジーの成熟度が増し、新興と呼ばれていたテクノロジーの多くが実用に耐えられる段階(PoC(概念実証)の次のステージ)まで進化している。例えば、第3章で取り上げたブロックチェーンはもはや新しい技術ではないが、これまで金融業界を中心に活用が模索されていたものが、幅広い業界においても活用事例が見られるようになり、普及期に入りつつある。非金融分野でのブロックチェーン活用は海外企業が先行するが、国内でもデジタルIDや、NFT(Nonfungible Token、非代替性トークン)を活用したエンターテインメント事業など、徐々に事例が増えてきている。
2つ目として、パンデミックの影響でテクノロジー利用が加速し、利用する側の組織も成熟度が増してきた。コロナ禍で新たな経営スタイルやワークスタイルへの急速なシフトを進めた、あるいは強いられた企業は多く、結果としてシステム環境や体制の変革が一定程度進んだ企業も多い。日本企業も例外ではなく、手続きの電子化、業務の遠隔化・自動化や、営業・販売活動のオンライン化といった新たなチャレンジを進め、それに合わせてITガバナンスの見直しやテクノロジー人材のリスキルなど、テクノロジー機能の強化を図った例が多く見られた。コロナ禍という想定外かつ不確実な状況の中で、システム老朽化や人材不足だけではなく、意思決定の遅さなど、コロナ前から認識されつつも先送りされていた課題に対しての危機感が増し、投資計画の具体化が進んだ企業も多いのではなかろうか。
3つ目として、企業戦略とテクノロジーがより密接となり、むしろテクノロジーの活用が戦略そのものになってきていることが挙げられる。「Tech Trends 2021」の第1章「新たな戦略への舵取り」においても考察された通り、テクノロジーは市場開拓や新製品開発など、戦略として掲げた事項の重要な実現手段である以外にも、戦略を策定するための環境理解や、戦略の実行状況の把握に至るまで、必要不可欠なものになっている。それは、1~2年前から急速に注目度が高まっているESGといった取り組みも例外ではない。「2030年までのカーボンゼロ」など、ESGを戦略上の優先事項として経営計画に組み込んでいる企業が増えているが、環境や社会にやさしい新製品の開発(製品そのもの、あるいはR&Dプロセスでのテクノロジー利用)、バリューチェーン・サプライチェーンにおけるGHG排出のモニタリングや最適化、ESG情報開示に至るまで、実現手段としてテクノロジーは欠かせず、逆にテクノロジーの選択において戦略的意図は不可欠になっている。
日本のテクノロジー活用は出遅れているといわれているが、実際はどうなのであろうか。さまざまな調査や、日本企業の方と接している中では、日本企業のDXもキャッチアップが進み始めているように感じている。社内のデータ基盤を刷新し、データドリブン経営にシフトする取り組みや、AIを活用した新規サービスを開発する取り組み、サブスクリプションによる新たなビジネスモデルの開発など、我々がクライアントを支援する機会も増えている。一方で、IPAが発表しているDX推進指標の自己診断結果からは、成熟度に偏りが見られる点は気になる。2019年と2020年のDX推進指標の平均値を比較すると若干の上昇が見られるが、DXに未着手あるいはほぼ実施できていない(成熟度1未満)とする企業の割合は約3割と変化がないことから、キャッチアップしている企業とそうではない企業の二極化が進んでいる可能性はありそうだ1。
海外に目を向けてみると、昨年IPAから発行された「DX白書」からは、日米におけるDXの取り組み状況の差が依然として大きいことが分かる。全社戦略、あるいは個別部署でDXに取り組んでいる企業は米国で79.4%に対し、日本では55.8%にとどまっているが、差はどこにあるのか。特に大きい差が出ている取り組みとしては、全社的なアジャイル型アプローチ・協調体制の有無、顧客体験といった関連指標の評価への反映、IT基盤の整備状況などが挙げられていたが、興味深かったのは、リーダーにあるべきと考えるマインド・スキルが日米で大きく異なっていた点である。米国企業ではリーダーの「顧客志向」(49.3%)、「業績思考」(40.9%)、「変化思考」(32.0%) に次いで「テクノロジーリテラシー」(31.7%)が重視されているのに対し、日本企業では「リーダーシップ」(50.6%)、「実行力」(48.9%)、「コミュニケーション能力」(43.8%)が重視されており、「テクノロジーリテラシー」を挙げたのは9.7%に過ぎない2。海外企業の経営層が日本企業と比べてテクノロジーに明るく、テクノロジーへの関与が高い傾向は、デロイトの「2020 Global Tech Leadership Study」からも読み取れ、我々はそれを、DXの推進力に影響している重要なポイントの1つと捉えていた3。これは、日米企業の間だけではなく、前述の二極化においても差として存在すると推察される。DX自体は目的ではないが、経営戦略を実現する重要な手段である。したがって、経営層がそれを理解し、コミットし、全社的な取り組みとすることが、本来は重要である。また、経営上の意思決定にもテクノロジーが活用される中では、意思決定者がその考え方を理解することも重要であろう。日本的な企業文化に鑑みると、リーダーシップや実行力などが上位に来ることは想像に難くないが、今後のDX推進を加速するにはリーダーが一定程度のテクノロジー知見を持つことも必要である。それは、テクノロジーそのものの仕組みを理解し、作り上げるための専門性ではなく、テクノロジーを客観的・俯瞰的に理解し、ビジネスへの影響を把握し、適用領域を想像することである。そして、本レポートはその手助けができると考える。
デロイトが「Tech Trends」をまとめることにあたっては、2つのこだわりがある。
他社が発行するトレンドの中には2030年の世界観を描いているものもあるが、「Tech Trends」は5~10年後も見据えながら、1年半から2年先に敢えて注目している。5~10年後だと先過ぎてアクションにつながらず、1年半から2年後というスパンであれば、今から着手すべき課題として現実感を持って捉えられる上、1~2年前のトレンドを振り返っても陳腐化しない。
また、技術論ではなく、事業・組織への潜在的なメリットやリスクなど含め、ビジネスの視点でテクノロジートレンドを考察している。そのために、毎年、デロイトのリサーチャーやフューチャリストだけではなく、現場にいる各国のコンサルタントが幾度となく議論を重ね、先進的なクライアント事例も参照しながら数ヶ月をかけて、できるだけリアリティのあるものを作成している。トレンドとしては普遍的なものとなるよう考慮しているが、当然、国・業界によって状況は異なるため、各国で必要に応じて考察を加えており、日本版には日本特有の状況を踏まえた「日本のコンサルタントの見解」を加えて編集している。テクノロジーへの造詣の深さに関わらず、自社においてテクノロジーをどう活用すべきかを考えるきっかけにしやすい内容ではないかと考える。
「Tech Trends」を手に取っていただいた日本の読者は、その事業環境やDXの成熟度など幅広く、すべての企業にすべてのトレンドが今すぐ必要であるということはない。一方で、それぞれのトレンドの背景にある「変化」は多くの企業にとって、今目の前で起きていることであり、どこかのタイミングで何らかの対応は必要になるであろうと考えられる。その「変化」を読み解き、自社の状況と照らし合わせ、今どうすべきか、ビジネス戦略を実現する上でのヒントとして捉えていただきたい。「Tech Trends」では毎年さまざまな視点からトレンドを選定しているため、状況によっては、過去のトレンドを振り返ってもいいであろう。本レポートが貴社のDX推進の一助になれば幸いである。
参考文献
1. IPA, “DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート(2020年版), DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート(2019年版),” accessed Feb 22, 2022
2. IPA, “DX白書 2021,” accessed Feb 22, 2022
3. Deloitte, “2020 Global Technology Leadership Study,” Nov 27, 2020
川嶋 三香子
デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー
リサーチ&インサイトリーダー
Technology Strategy and Transformation
>> グローバル版(Deloitte Insights:英語)はこちら <<
Tech Trends 2022
日本版発行責任者
山本 有志 執行役員 パートナー
Japan Leader
Tech Strategy and Transformation
多様な業界に対して、IT戦略立案、IT組織改革、グローバルITガバナンス強化、IT投資コストマネジメント高度化などのテクノロジー ストラテジーに関するコンサルティングに従事。企業の戦略実現を左右する大規模ITプロジェクトのマネジメント経験も多く、戦略から開発・運用までITライフサイクル全般の知見を活かし、CxOに対してアドバイザリーサービスを提供。
千田 章貴 執行役員 パートナー
Asia Pacific Leader
Tech Strategy and Transformation
主に国内及び外資系金融機関に対して、各種改革やデジタルトランスフォーメーションプロジェクトに多数従事。ビジネス戦略立案からシステム化構想及び導入、定着、アウトソーシングを含む広範囲なコンサルティング領域を経験。アジアマーケットを中心とした海外戦略やグローバルオペレーションシステムの最適化等を含むグローバルプロジェクトに強みを持つ。