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【専門家がみる生成AI最新動向】生成AIに関する政府のガバナンス政策
自由民主党の生成AIに関する提言を読み解く
岸田政権が発足してから2023年の10月で2年が経ちました。生成AIについては、技術進歩が目まぐるしく進んでいる中で、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の成長のエンジンとして捉えられていることが、政策からも見て取ることができます。そのため、本稿では、与党である自由民主党(以下、自民党)の生成AIに関する提言の側面から、詳しく読み解いていきます。
自民党のデジタル政策
自民党のデジタル政策
自民党の政務調査会デジタル社会推進本部は、デジタル政策に対して継続的な提言を行っています。「デジタル・ニッポン」シリーズというデジタル政策の提言は、2010年から開始され、民間からの知見を踏まえながら提言がまとめられています。
そして、2023年5月に公表された「デジタル・ニッポン2023」では、前年に比べて「AI」という単語が30倍、つまり226回も登場しています。これにより、自由民主党がAIに対してどれだけ力を注いでいるかが明らかとなっています。
自由民主党 提言 | “AI”のワード登場数 |
---|---|
デジタル・ニッポン2022 | 7 |
デジタル・ニッポン2023 | 226 |
出典:自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部「デジタル・ニッポン2022~デジタルによる新しい資本主義への挑戦」、「デジタル・ニッポン2023~ガバメント・トランスフォーメーション基本計画~」 より筆者調べ
今回のデジタル・ニッポン2023には以下の5つのPT(Project Team)の提言が盛り込まれました。
PT名称 |
---|
防災DXPT |
AIの進化と実装に関するPT |
Web3PT |
デジタル人材育成PT |
デジタルセキュリティに関するPT |
出典:2023年5月16日 自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部「デジタル・ニッポン2023~ガバメント・トランスフォーメーション基本計画~」 p.39 「デジタル・ニッポン2023」によれば、「デジタル社会推進本部が5分野のプロジェクトチームを立ち上げたのは本年度が初の試み」と記載されています。これはまさに、国際情勢やテクノロジーの劇的な動きに対応した取り組みと言えるでしょう。 その中でも、「AIの進化と実装に関するPT」は、2023年2月にデジタル社会推進本部に設置されたもので、有識者に対するヒアリングが7回にわたって行われました。そして、AI分野に高い専門的知見を有する弁護士などの外部専門家から成るワーキンググループにて、論点の整理などを行いました。その結果、2023年4月には「AIの進化と実装に関するPT」からの政策提言が「ホワイトペーパー」としてまとめられ、発信されました。 自民党が、わずか3か月という短期間でこれだけの内容をまとめて発表したことは、画期的な出来事であり、国の危機感と本気度がうかがえます。
2023年4月の自民党政務調査会デジタル社会推進本部「AIの進化と実装に関するPT(ホワイトペーパー)」からの提言
自民党からの提言が示す大きな方向性としては、まずはAIを活用することを前提とした提言であることが特徴的です。ホワイトペーパーの内容は以下のとおりです。なお、本稿は当該PT提言から重要な部分と筆者が考える部分を記載したものであり網羅的な記載ではないことに留意いただきたいと思います。
本ホワイトペーパーでは、欧米における人権や安全保障上の取組や相互乗り入れしやすい法制度の方向性などを紹介しながら、中国におけるネットワーク安全法、データ安全法など複数の具体的な法規や管理規定が既に施行されている旨について述べたうえで「日本では2019年にAIに対してはイノベーションを阻害しないようAIの開発・利用にはなるべく法規制を課さず、ソフトロー1によって官民共同で政策ツールを策定していく方向での議論が重ねられてきました。しかし、GPTなど基盤モデル2の開発が進展し、AIの社会実装が想定外の速度で進む現在、これまでの政策議論の前提が大きく変わりつつある」とし、国境を跨いだAIの利活用が進んでいく中、AI新時代に即した新たなAI国家戦略を策定する必要があると提言しています。個別提言事項については以下のとおりです。
1.国内におけるAI開発基盤の育成・強化
1.1基盤モデル等のAIモデル開発能力の構築・強化
本ホワイトペーパーでは「基盤モデルを含むAIモデルの研究・開発に関する政策目標とアプローチを明確する必要」を提言しています。まずは先行している海外の基盤モデルを活用しつつ、将来的には若手研究者・技術者の育成の観点からも日本としてどこまで投資していくのか政策目標を設定していく必要性を説いています。また、「基盤モデル以外のAIモデルの研究・開発においては日本が技術的優位性有している分野も少なくない」とし、「顔認証や物体識別などの画像認識分野などでは、国内企業が競争力ある技術を有している」と論じています。これらの検討を前提とした主な提言として①海外プラットフォームの積極的な利用②国内における基盤モデル等の基礎的な技術開発能力の構築・強化に向けた投資と支援の継続③デジタル人材育成④企業と技術者のコミュニティ組成の必要性等をあげています。
1.2データ資源の集積と連携
AIの利活用の観点から十分な質と量のデータによる学習が欠かせないが、まだまだ日本を軸としたデータは世界には浸透していない現状があります。国際的な日本の競争力を高めるためには文化的背景も含む日本関連データを提供できるような取組が必要であることから、主な提言として①包括的データ戦略の見直しを行い、データ利活用を推進するための環境づくりをすること②政府や地方公共団体が保有している公共データについてのアーカイブ化を実施すること③政府主導で国内外の基盤モデルについて適切な日本関連データを積極的に提供していくこと等を挙げています。
1.3計算資源の強化・活用
基盤モデルAIの構築・利活用に要する膨大な計算資源については、膨大なコストを要するため、「日本において企業や研究機関が独自に確保することは容易ではない」という前提から、国内基盤整備と官民の各主体が共有して活用できる新たな枠組みを整備するとともに、計算資源を安定的に確保するためにも半導体産業の育成を強化することについて提言しています。
2.行政における徹底したAI利活用の推進
欧米等の行政機関で先行する具体的な事例を調査するとともに、まずは「国会答弁の下書き作成等」の直ちに着手しやすいものから導入していく方向性を提言しています。
3.民間におけるAI利活用を奨励・支援する政策
本ホワイトペーパーでは「日本の民間事業者におけるAIの利活用について諸外国に比べ遅れている」と論じ、日本の経済競争力の大きな制約となる懸念をあげたうえで、①基盤モデルのAIが国内産業に与える影響に関する調査の実施②AIを活用した取組の推進・支援③CDO(Chief Digital Officer)の設置を提言しています。
4.AI規制に関する新たなアプローチ
本ホワイトペーパーによれば重大なリスク分野として以下3類型をあげています。
- 「人権や人の健康・安全等を侵害するリスク」
- 「AIによる安全保障上のリスク」
- 「民主主義プロセスへの不当介入のリスク」
日本においては、2019年に統合イノベーション推進会議において「人間中心のAI社会原則」を策定して以降、AIに注目したハードロー3の規制は十分に議論されてこなかった背景があります。そのため①EU、米国、中国など諸外国のAI規制の検討状況を分析し、法規制を含む対策が必要と考えられる分野につき具体的な検討を行うこと②G7サミットを含む国際協議の機会を活用しAI利用を巡る国際的なルール作りに参画することを提言しています。
今後に向けての取組
2023年5月に開催されたG7広島サミットの結果を踏まえ、G7メンバー及び関係国際機関が参加し、生成AIについて議論する場「広島AIプロセス4」が立ち上がり、2023年9月7日にもG7広島AIプロセス G7デジタル・技術閣僚声明5が発表されている。本声明においては2023年4月29日~30日に開催されたG7デジタル・技術大臣会合での責任あるAIとAIガバナンスに関する議論及びG7広島AIプロセスでの作業を踏まえ、今後以下についてG7に首脳に提示するとしています。
- 「OECD報告書6に基づく優先的なリスク、課題、機会の理解」
- 「高度なAIシステムの開発者向けの国際的な指針及び行動規範」
- 「プロジェクトベースの協力」
また、自由民主党デジタル社会推進本部AIの進化と実装に関するプロジェクトチームでは本提言を発表した後も、議論を進めている。本PTの事務局長を務める塩崎彰久衆議院議員のNote7によれば、内閣府主導で進める「AI戦略会議8」や国際的な会議体となった「広島AIプロセス」と連携を図りながら精力的にAIによるリスクや更なる利活用、第三者認証の可能性など幅広い議論が行われていることが分かります。国際情勢も刻一向と変化している中、日本としてイノベーションとリスクの兼ね合いをどのように図っていくのか今後の取組に注目です。
【引用文献・参考文献】
塩崎彰久衆議院議員Note(2023年7月27日), 「自民党AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」、2023年9月7日閲覧,自民党AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム|衆議院議員 塩崎彰久(あきひさ) (note.com)
自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部(2022年4月26日),
「デジタル・ニッポン2022~デジタルによる新しい資本主義への挑戦」,2023年9月7日閲覧
デジタル・ニッポン 2022~デジタルによる新しい資本主義への挑戦~ (jimin.jp)
自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部(2023年6月1日),
「デジタル・ニッポン2023~ガバメント・トランスフォーメーション基本計画~」,2023年9月7日閲覧、デジタル・ニッポン2023~ガバメント・トランスフォーメーション基本計画~ (jimin.jp)
自民党デジタル社会推進本部AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム(2023年4月),「AIホワイトペーパー~AI新時代における日本の国家戦略~」,2023年9月7日閲覧
AIホワイトペーパー ~AI新時代における日本の国家戦略~ (jimin.jp)
総務省ウェブサイト(2023年6月28日),「G7デジタル・技術大臣会合/G7広島サミット」p.5 ,2023年9月7日閲覧,https://www.soumu.go.jp/main_content/000889472.pdf
総務省ウェブサイト(2023年9月7日),”G7 Hiroshima AI Process G7 Digital & Tech Ministers’ Statement (September7,2023)”, 2023年9月7日閲覧,
https://www.soumu.go.jp/main_content/000900470.pdf
内閣府ウェブサイト(2023年9月8日)、「AI戦略会議」, 2023年9月7日閲覧,
AI戦略会議 - 科学技術・イノベーション - 内閣府 (cao.go.jp)
OECDウェブサイト(2023年9月7日),”G7 HIROSHIMA PROCESS ON GENRATIVE ARTIFICIAL INTELLIGENCE(AI) TOWARDS A G7 COMMON UNDERSTANDING ON GERATIVE AI REPORT PREPARED FOR THE 2023 JAPANESE G7 PRESIDENCY AND THE G7 DITITAL AND TECH WORKING GROP” 2023年9月7日閲覧,