Posted: 05 Sep. 2019 3 min. read

世界が注目する代替肉は日本の食生活に新風をもたらすか

「代替肉」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

代替肉とは、植物由来の材料を使い、肉のような味や食感を再現した加工食品である。

8月より米大手バーガーチェーンで代替肉のハンバーガーが販売されるなど、最近注目が集まっている。

金融機関Barclaysの試算では、代替肉市場は10年以内に最大1400億ドル(約15兆円)まで成長し、なんと世界の食肉の約10%を占めると見られている。

 

代替肉市場が成長する背景には、三つあると私は見ている。

一つは消費者の意識の変化である。健康志向の消費者が増え、カロリーや脂質が低いが、美味しいものを求める傾向にある。二つ目は環境への負荷軽減である。従来の牛肉を1kg作るのに必要な水の量は、同量の穀物を育てる場合の約10倍必要という試算があり、実は環境への負荷が高いのである。三つ目は将来の食糧不足への対応である。人口が増加し、2050年にはタンパク質の需要が現在の2倍になるという予想があり、それを支える食糧の一つとして代替肉が注目され、代替肉ベンチャーへの投資も盛んに行われている。

 

私は、代替肉はフード・バリューチェーン(食の付加価値の連鎖)そのものを変える可能性を秘めていると考えている。

従来の肉の場合、「飼料の調達⇒家畜の飼育⇒食肉の加工⇒流通・販売」というバリューチェーンのもと、大量の飼料や水が使われ、広い土地も必要である。

しかし、代替肉の場合、これまで家畜のために使われていた飼料や土地を人間の食糧用にまわし、別の食物を生産することができる。

また、バリューチェーンのうち、「家畜の飼育⇒食肉の加工」のプロセスが「代替肉の製造」に置き換わり、植物工場のように限られた土地や飼料、水で製造することができる。つまり、スタートアップを含む異業種からの参入障壁が下がり、これまでにはないプレーヤーが覇権を握る可能性もある。

 

代替肉市場の成長が見込まれる一方、日本ではまだ「代替肉」という言葉に馴染みがないのが正直なところだ。中には抵抗感を持つ消費者もいるかもしれない。

しかし、代替肉の多くは大豆由来である。もともと日本の食文化は大豆加工食品が多く、日本食との相性が良い。日本人の食生活に新風をもたらし、マーケットの広がりが出ることを期待する。

 

関連するリンク

▼見た目も味も本物そっくり 全米でバーガー販売開始 拡大する”代替肉” 市場

https://www.fnn.jp/posts/00047670HDK/201908102359_livenewsdays_HDK

 

D-nnovation Perspectives その他の記事はこちら

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

プロフェッショナル

松江 英夫/Hideo Matsue

松江 英夫/Hideo Matsue

デロイト トーマツ グループ 執行役 CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)