台風15号と台風19号は日本に甚大な被害をもたらした。私も被災地域に住んでおり、あらためて自然の脅威を感じた。今回のような急発達する台風の強度、竜巻の発生時期はまだ予測が難しい。メカニズムが解明されていないことに加え、海洋や地形的な影響も考慮が必要だからだ。
そのため「天気予報ってやっぱり当たらないよね」こんな印象を持つ方もいるが、短期の降水有無や気温については実は結構当たっている。東京地方の明日の予報に関しては、降水の有無は87%の適中率、気温の予報誤差は1.5℃程度であり、1990年と比較して、それぞれ10%と0.6℃程度向上している(気象庁)。これは、従来のアメダス等の観測データに加え、気象衛星画像の高解像度・高頻度化、スーパーコンピュータの性能の向上、そして画像処理などのデータ分析技術の発展によるもので、近年「ウェザーテック」と呼ばれている。
中長期的な観点では、1週間より先の天気予報は依然として難しい。日々の天候を左右するような移動性の低気圧や高気圧の予測が困難だからだ。さらに長期の気候変動問題は予報だけでなく、適応策も含めて世界的な課題となっている。
「次世代にツケを回している。私たちは絶滅の淵にいる」と環境活動家の16歳のグレタさんは、今年9月の国連が各国の首脳を集めて温暖化対策を議論する「気候行動サミット」で訴えた。後戻りできない気候変動、地球環境変化に対し、次世代にツケを回さないために私たちはどのように適応し、行動していけばよいのだろうか。12月には第25回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP25)が開催されるが、残念ながら国レベルでの議論で統一感をもった方向性が示される可能性は低いだろう。
こうした中、期待すべきは個別企業の取り組みだ。現在、企業は単に収益をあげるだけでなく、事業を通じて社会問題を解決することが求められている。気候変動問題に対しても、企業は財務に影響のある気候関連情報を開示し、投資家も企業を選別する際に気候変動問題への取り組み姿勢を考慮する動きが活発化している。
ここでもテクノロジーの貢献が望まれる。気候変動問題に背を向けている米国でGoogleやMicrosoftなどの研究者らが共同で「Tackling Climate Change with Machine Learning」という50ページ超の論文で機械学習の気候変動問題への貢献可能性を提示している。電力や輸送などの個別産業への応用だけでなく、太陽放射管理や二酸化炭素除去などの人為的に惑星環境を直接改変する新しい技術「気候工学(ジオエンジニアリング)」の可能性にも触れている。新技術が与える影響について慎重な評価は必要であるが、まったなしの状況の中、世界中の企業が協調して行動に移すことが急務だ。
次世代に持続的な地球環境を繋ぐために、短期的な気象災害の減少と長期的な気候変動問題に対し、個々人が自分事としてとらえ、倫理感を持ちながらテクノロジーを如何に活用するのか知恵が求められている。私は、天気の専門家かつデジタル領域の企業コンサルタントとして、企業がデジタルを活用して気候変動問題に取り組むことを働きかけるカタリストとなって行動していきたい。
有限責任監査法人トーマツ パートナー。物理学の研究員、コンサルティング会社を経て、2002 年から有限責任監査法人トーマツに勤務。 金融機関、商社やエネルギー会社を中心にデリバティブ・証券化商品の時価評価、定量的リスク分析、株式価値評価等の領域で、数理統計分析を用いた会計監査補助業務とコンサルティング業務に多数従事。 現在は金融、エネルギー、製造、小売、医薬、公共等の領域で、デロイト トーマツ グループが提供する監査およびコンサルティングサービスへのアナリティクス活用を推進すると共に、データ分析基礎技術開発を行う研究開発部門をリードしている。 東京工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻 客員准教授