2020年注目の「STO」。新たな資金調達手段として確立するか|D-nnovation Perspectives|Deloitte Japan ブックマークが追加されました
今年、新たな投資・資金調達の方法として日本でも「STO」が注目を集めるだろう。昨年5月、STOのルールを定めた資金決済法・金融商品取引法の改正法が成立し、今年春には施行される。既に北米を中心にSTO市場は広がるが、日本ではまだなじみも薄い。法施行を前にSTOとは何か、特にそのメリットについて、解説したい。
まず、STOとは「Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)」の略称であり、ブロックチェーン上で発行されたトークンを用いた資金調達方法のことを指す。ここで言うセキュリティは「証券」という意味であり、STOは「有価証券の機能を付与されたトークンによる資金調達」ということになる。
有価証券とは「法律上における一定の財産権利や義務に関する記載がされた証書」の事を表しており、その種類は株式や債券以外にも為替手形や小切手、不動産など様々だ。
STOはこうした株式や債券などの上場取引、さらにはクラウドファンディングに次ぐ新たな資金調達手法として、事業主および新たな投資機会を探る投資家の双方から期待されている。
STOが新しい資金調達手段として注目されているのには、次のようなメリットが挙げられる。
ブロックチェーンを活用した資金調達では、2017年には仮想通貨の高騰を背景に、独自発行の仮想通貨(暗号資産)を用いた資金調達手法(ICO:Initial Coin Offering)の世界的な流行が記憶に新しい。しかし資金調達後に事業そのものが失敗し消失したり、そもそも詐欺まがいの事案が多数あったりしたため、今日ではICOそのものが各国規制により厳しく制限されている。
これに対しSTOは債権や不動産のような現物資産をデジタル証券として発行する。法規制が整備される以前に横行したICOとは異なり、実施国の法令に遵守した資金調達手法になる点で安全性が高い。冒頭に述べた法改正でも、STOは「電子記録移転権利」と定義され、従来の仮想通貨を引き継ぐ「暗号資産」とは区分されている。
一般的な証券取引所の場合、取引時間は平日9:00〜15:00までとなり、取引時間が限られてしまうのがほとんどである。セキュリティトークンはブロックチェーンの仕組みを活用し、技術的には証券取引を24時間365日稼動させられるため、暗号資産の取引と同様にいつでも売買することが可能になる。あわせて即時決済が図られる点も特長だ。現状、証券取引においては受渡しが行われる決済日は売買が成立した約定日から3営業日後となる。この決済までの期間が短縮されSTOでは即時決済が可能になる。
STOにスマートコントラクトという契約を自動執行する技術を組み込めば、証券の小口化や配当の支払いといった作業を自動化することができる。結果として大幅なコスト削減が実現する。また、契約の自動執行が可能になれば、今までの証券市場で参加していたディーラーなど様々なプレイヤーの仲介を経ることなく取引が行われるようになりコストと時間の大幅な削減につながる。
金融資産を分割することは管理コストが上がってしまうため、従来あまり行われていない。しかしセキュリティトークンを用いて資産をトークン化することで、従来取り扱いのできなかった小さな単位の所有権の分割を行うことができるようになる。こういった分割は不動産やアートの分野で注目を集めており、所有権の分割を視野に入れたSTOの活用が期待されている。
ここまでSTOの主なメリットを挙げたが、STOの問題点として各国で金融商品取引法等の法律が異なっている点や、ハッキング、システム管理の問題等、解決すべき点は残されている。
日本においては金融庁がセキュリティトークンを「電子記録移転権利」と定義し、原則、第一項有価証券の扱いとなることを公表した。第一項有価証券の取扱いは第一種金融商品取引業の登録業者のみ可能であり、いわゆる証券会社やFX業者が該当する。
実際にセキュリティトークンを販売するとなると、勧誘に関する規則が必要となるが、法令ではなく大手証券会社が集う自主規制団体で規定される予定である。
今後の日本におけるSTO市場は自主規制団体が牽引し、急速に規定の整備や市場拡大が見込まれる市場であると言える。
STOは株式や不動産など、投資対象資産の値付けが容易である分野から広がり、非上場株式や債券などの今まで個人で投資することが難しかった分野にも広がることが考えられる。
法規制やシステム面の整備が進み、投資家にとって安全な投資先という認知が進めば市場は拡大し、STOは新たな資金調達手段として確立していくと言える。
フィンテック / ブロックチェーン領域リーダー。 金融新事業開発、Fintech活用、デジタル戦略、業務・組織改革、ガバナンスなど様々なプロジェクトに従事。金融機関だけでなく、消費者接点の強い異業種サービスが金融機能を組込み提供する組込型金融(Embedded Finance)や、ブロックチェーン・Web3 / デジタルアセットなど成長領域に対するグローバル動向分析や戦略立案を担当。 また、環境や人権問題などサステナビリティに対する社会的要請の高まりに対応したデータ・プラットフォームの社会実装に向けた取組みなどの支援も手掛けている。 共著に『デジタル起点の金融経営変革』(2021年)、『パワー・オブ・トラスト』(2022年)等、著書・寄稿多数。