Posted: 28 Sep. 2023 5 min. read

「環境」「人権」に次ぐ「動物福祉(アニマルウェルフェア)」の潮流

2015年のSDGs、パリ協定を機に日本企業はグローバルで押し寄せる「環境」「人権」の潮流に飲まれた。当時多くの日本企業は「急に来た」と口を揃えたが、蓋を開けてみれば2000年代から欧米先進企業が虎視眈々と築いてきたルールへの対応を強いられる構図だ。


そして今、「動物福祉(アニマルウェルフェア)」で同じ事が起きようとしている。「動物福祉(アニマルウェルフェア)」とは、動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態を重視する考えで、特に畜産動物を対象に議論が進んでいる。国内企業の現状は「規制が無いから」「他社が動いてないから」と、まさに2015年以前の環境・人権に対するそれそのものだが、一方で、総額400兆円を超える機関投資家がアニマルウェルフェアの宣言文書に署名し、グローバル先進企業が既に座組を形成し民間主導のルール形成を仕掛けている動きを見逃してはならない。

本稿では、国内外の動物福祉(アニマルウェルフェア)動向の概要を示すと共に、日本企業の今後を考察したい。



事業の競争力強化に繋げるグローバル企業

欧州では、豚のストール飼いや鶏のバタリーケージ等、日本国内でここ数年議論に挙がりはじめたこれらの飼養方法は、既に法令・規制等で禁じられている。さらに2023年末までには、より高いアニマルウェルフェアを目指し対象範囲を広げることを目指し、新たな法案が提出される(法令が制定されれば、欧州で製品を販売している日本の事業者にも影響が及ぶ可能性あり)。前述のようにルール形成も含め先行的に仕掛ける企業は、そのような法令・規制に対しては当たり前に対応したうえで、自社の取組みを差別化し、事業の競争力強化に繋げている。

例えばグローバル大手食品メーカー10数社は、GCAW(Global Coalition for Animal Welfare)を組成、中国では現地政府機関や有力NGOと連携したケージフリーエッグ(平飼い卵)の基準作り・生産者支援を進めている。基準を高めながら良質なサプライヤーを育成・囲い込み調達力強化に繋げる、まさに環境・人権で幾例も見てきた常套手段が展開されている。

また、アニマルウェルフェアトップ企業の一社として知られる英大手小売り企業は、アカデミアと組んで畜産動物のストレスなど“アニマルウェルフェア度”を評価・可視化する試みにも着手している。このモノサシのデファクトを獲り、アニマルウェルフェアを高めていくことは、競争戦略上大きな意味を持つことが想像できるだろう。


 

「様子見」の日本企業に見る変化の兆し

対して国内は法規制の進みは遅く、現場の自主努力に委ねられている。令和5年7月に「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」が公表され、指針の実施状況のモニタリング、実施が推奨される事項の達成目標年の設定が示されるなど前進は見せるが、実質的な効果を持つには時間が掛かる。

また多くの国内企業も、現状はポリシー作成やマテリアリティへの組み込みに留まり、冒頭に挙げた機関投資家が参照するBBFAW(Business Benchmark on Farm Animal Welfare)の6段階評価においては最低評価に留まる。まさに「様子見」で、アクセルを踏み切れていない状態だ。

一方で、直近では極一部の先進的な日本企業が定量目標を設定し、取組みを本格化させている。また、株主総会等も含め外部からの指摘を受け、徐々にアクセルを踏む企業も増えてきている。少しずつだが、潮目の変化を感じ取ることが出来る。

 

 

「対応」から「戦略」へ転換できるか

環境・人権と同じ轍を踏むか、それともアニマルウェルフェアで新たな競争力を築くか、その分水嶺は「対応」に留まるか、「戦略」へ昇華できるか、に尽きる。

具体的に言えば、①自社のアニマルウェルフェアを圧倒的に高めながら、②それを市場の競争優位に変える青写真を描き、③パブリックセクター・ソーシャルセクター含む“トライセクター”でエコシステムを組み、青写真を具現化する。この3点をスピード感持って並行して進めていくこと、即ちCSV(Creating Shared Value)戦略の発想と実行が求められる。特に、②を早期に描けるか否かが重要だ。

 

 

終わり

そしてアニマルウェルフェアは、本稿で対比してきた「環境」「人権」と切り離された別テーマでは無い。この度の新型コロナウイルスで人獣共通感染症が改めて問題視されたことで、One Health(「生態系の健康(=環境)」、「ヒトの健康」、「動物の健康」が繋がったものとする考え方)の概念が広がっている。

企業のサステナビリティの本流にアニマルウェルフェアが組み込まれる日は、すぐそこまで来ているのだ。

 

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