Posted: 30 May 2023 3 min. read

チャイルド・セーフティ~子どもを守る社会をビジネスで創るには~(前編)

1. いま、あえて「子どもの安心・安全」に立ち返る

「教育」、「人権」など、子どもを巡るテーマは多岐に渡る。その中で、「安心・安全」というテーマは「何をいまさら」と思われるかもしれないが、果たしてそうだろうか。バスへの置き去り、ベランダからの転落、交通事故や連れ去りなど、メディアから伝わる痛ましい事件は後を絶たない。

しかも、これらは氷山の一角に過ぎない。子どもが事故などで死亡した際に、その経緯を検証して再発防止につなげるCDR(Child Death Review)で言及されるように、1人の死亡の背景には25人が入院し、925人が救急外来を受診し、数えきれない数の軽度な症状が生じている。社会課題としての、見えない裾野は極めて広い。

日本では、2023年4月には子ども家庭庁が新設され、子どもと関わる仕事をする人の犯罪歴をチェックするDBS(Disclosure and Barring Service)や前述のCDR、虐待やいじめ対策など、国としての取組みは、今後ますます加速していく見込みだ。

我々が日々多くの時間と労力を投じているビジネスにも、もっと子どものために貢献できる余地があるのではないだろうか。SDGsの時代、企業が社会課題を解決しながら事業を成長させる方法論が急速に進展する中で、ビジネスが「子どもの安心・安全」というテーマに積極的に取り組む可能性を探ってみたい。

2. 子どもの安心・安全に関する市場のいま

グローバルで見ると、子どもの安心・安全に関する市場は伸長傾向にある。例えばベビーセーフティ市場は2022年時点で130億ドル規模で、今後5年でCAGR 5.6%、36億ドルの成長が見込まれる有望市場だ。

世界のベビーセーフティ市場は、2022年から2027年にかけて約36億ドル増加し166億ドル規模になると見込まれている。

日本国内でも、子どもの安心・安全に関する市場の規模を示すデータは限定的だが、直近の大企業による参入事例は数多く確認出来る。例えば、電子部品メーカーによるバス置き去り防止ソリューションや、総合電機企業によるGPSを用いた見守りサービスなど、特に報道等により世間の関心が高まるテーマに応えるような動きが目立つ。命に関わるような深刻な課題・ニーズに改めて注目が集まり、少しずつ市場が動き始めていることが分かる。

子供の安心・安全に関する市場は、「安心・安全」を脅かす要素という視点から、「健康」・「犯罪」・「事故」の3カテゴリに大別でき、さらに「ヘルスケア」・「メンタルヘルス」・「虐待」・「近隣での犯罪」・「いじめ、ネット上の犯罪」・「学校・保育現場の事故」・「家庭内・交通事故」の7領域に分けられる。いずれも、子どもの人生や命に深く関わる領域だ。

子どもの健康を守り、事件・事故を防ぐために、「子どもの安心・安全」関連の7つの領域が考えられる。それぞれに対し、企業が価値を提供できる余地は大きい。

こうした深刻且つ多領域にまたがる「子どもの安心・安全」の問題を解決することは容易ではない。解決のためのアプローチには従来とは異なる規模のリソースや問題解決能力だけでなく、それらが持続的に投入されうる社会的な循環構造(エコシステム)が必要になる。

筆者らは、企業のCSV(Creating Shared Value)における市場創造のノウハウを持ってすれば、そうした構造を作り出しながらビジネスの成長に繋げることができると考える。

次章(後編)では、そのような戦略を着想する為のヒントとなる3つの視点を紹介したい。

 

執筆者

田中 晴基/Tanaka Haruki
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター

本井 中庸/Motoi Nakanobu
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

 

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