<特別寄稿>【OVER ALLsを通じて実現したい社会】後編 ブックマークが追加されました
今の僕たちOVER ALLsのパーパスは「表現し続ける」だが、最初から高尚なパーパスやビジョンがあったわけではない。友人だった現副社長・画家の山本から、肖像画をオーダーで受注する仕事を手伝ってほしいと誘われたから起業したに過ぎなかった。山本と二人で生活のために絵を売り始めたのが始まりだった。
最初はオーダーを受けて肖像画を描いていた。家業を継ぐことを決意した友人の誕生日に親子の肖像画を送りたい、仕事で大きなステージに挑むからこのタイミングで肖像画が欲しい、といった気持ちから依頼される。僕たちは依頼者の表現のお手伝いをしていることに気付いた。オーダー肖像画は贈り物でも自分用でも依頼者の感情表現だ。
そんな中、会社の壁に絵を描いて欲しいと依頼を受けた。僕たちは社長の気持ちを根掘り葉掘り聞いた。最初は驚かれた。ただデザイン的にそこに絵が欲しかっただけなのにと。でも話をしていくうちに社長の顔が変わっていく。起業した時の思いを話しながら泣き出す社長もいらっしゃった。会社の歴史や理念には思いがある。その思いを受け止めて僕たちは壁画にする。僕たちは社長や会社で働く人の表現をお手伝いしているのだ。
今では会社の表現だけでなく働く人の表現のきっかけ作りもしている。
「null(ヌル)」と呼んでいるプログラムだ。
白いキャンバスを配り自由に絵を描いてもらう。自由にだ。みんな声を揃えて言う。
「自由に絵を描いたのは幼稚園や保育園以来です」と。小学生でも図工の授業があるが与えられたテーマで絵を描き上手か下手か、つまり「正解不正解」で成績表がつけられる。だから自由に絵を描くなどしたことがない人が大半なのだ。
「null」の場では面白いことが起きる。長方形のキャンバスを配るのだが、仕事が出来る人や役職が高い人ほど、この質問をする。
「すみません。これって縦ですか?横ですか?」
突然、自由に絵を描いてと言われても混乱されるのだ。課題は?K P Iは?と。
心を解きほぐしていくと、そんな質問をしていた方も描くのに夢中になり最後には「時間もっと欲しい」「もっと描きたい」と言われるようになる。
こういった活動を通じてこの国に表現出来る人や会社を増やしているのがOVER ALLs
だ。この国を変えるという最大級のアート作品・表現に挑戦していると思っている。
僕たちが「表現し続ける」を掲げているのには僕の経験が大きく影響していると思う。
僕の人生は、ずっと表現することに費やしてきた。小学生では口にガムテープを貼られるくらい手を上げ、中学生では漫才とコント、高校生になるとバンドをやった。
そんな僕が社会人になると、”7 minutes PITCH”というプレゼンイベントを始めた。色々な会社のビジネスパーソンが集まり、自分の好きなものをプレゼンしあうイベントだ。ある人は旅行先で出会ったスコットランド3部リーグのサッカーチームの話を語り、ある人は春画の歴史や魅力を語り、ある人は大好きなセミの見分け方について語る。マニアックな話も多かったが、話す方も聞く方もみんな笑顔で最高の時間だった。僕は表現することの大切さ、表現する場所への渇望、正解不正解のない表現を認め受け入れることの素晴らしさ、可能性を僕はこのイベントで確信した。
かつてビジネスパーソンの表現の場を作っていた僕は、今、会社の表現を壁画を通じてお手伝いしている。
この趣旨に賛同して協業しているのがデロイトトーマツコンサルティング(DTC)だ。DTCを始めOVER ALLsは今では多くの人に応援していただいている。支えられている。
僕たちの価値とは何なのか。考える。
僕もかつてはサラリーマンだった。スーツを着て、月給をもらっていた。ファッションが好きだった僕も、社会人としてふさわしい服装と髪型をしていた。スーツを着て、月給を受け取るようになった僕は、だんだん表現できなくなっていた。そんな自分が嫌だった。
だから、僕は会社を辞めた。スーツを脱いだ。月給を拒否した。そして山本と一緒にOVER ALLsを始めた。アートというよくわからないもので会社を始めた。髪も金髪にして好きな服を着た。そして日本中に絵を描いて発信し続けた。2020年には情熱大陸にも出演した。
「いつも二人の姿を見ては励まされている」
「いつか一緒に仕事がしたい」
「日本をもっと楽しくしてほしい」
そんな声を頂くたびに大きな期待とプレッシャーを感じながら考えた。
僕たちアーティストは表現のリーダーなのだという事だ。
だからアーティストが社会に溶け込んでいき、個人や会社の中から沸き起こる表現をお手伝いするのは表現のリーダーとして自然な事だし、もっとやっていかないといけない事なんだと。
などと偉そうに言ってみたが表現することなんて当たり前のことだ。
「好き嫌いを言おう」「自分の気持ちを表現しよう」「好きなものを着よう」なんて当たり前のこと。日本人だけが妙に抑えつけられているに過ぎない。
同世代の仲間たちも、先輩も後輩も、子供たちも。当たり前のことを当たり前にできるように。より人間らしく生きられるように。自らの人生に絶望することなく生きられるように。
僕はそういう社会をつくりたくてOVER ALLsをやっている。
執筆者プロフィール
株式会社OVER ALLs 代表取締役社長
OVER ALLsを副社長画家の山本勇気とともに2016年創業。「楽しんだって、いい」を企業理念とし、正解を追求する“HOW”ではなく、心の感動に従う“WOW!“を追求し、「楽しい国、日本」の実現を目指す。オフィスアートを中心とするオーダーアートの企画制作を実施。2020年よりデロイト トーマツ コンサルティング社と協業を開始し、アートを活用した組織変革を展開。「情熱大陸」や「news zero」等、メディア出演多数。アート=WOW(好き)=EMOTION(気持ち)。アートには正解がない。「個人的に好き」や「感覚的に良いと思う」というビジネス上は否定されがちな感覚こそ、今の日本社会には足りていないのではないか。「Revolution, not ART」をスローガンとして、多種多様なプロジェクトを推進している。
※下記リンクのとおり、OVER ALL社とデロイト トーマツ コンサルティングは、2021年5月より、「アートを活用した組織変革プログラム」での協業を開始しており、この取組みの一環で特別寄稿をしていただいております。
【シリーズ】
HOW経営からWOW経営へ:
アートで個の想い・ポテンシャルを引き出し、イノベーションを起こすことを楽しもう
[vol.1] 面白く、新しい未来(WOW!)を描こう!
[vol.2-1] <特別寄稿>【OVER ALLsを通じて実現したい社会】前編
[vol.2-2] <特別寄稿>【OVER ALLsを通じて実現したい社会】後編