Posted: 25 May 2023 5 min. read

社会課題解決への”熱狂”を生み出す「アート」の力

経済波及効果約180億円。なぜ今、地域でアートが注目されているのか

熱狂を生むイネーブラーとしてのアートの可能性

地域におけるアート活用が加速している。コロナ禍前、香川県・岡山県で開催された国内最大級の芸術祭である瀬戸内国際芸術祭の経済波及効果は約180億円を記録した。アートマーケットの概要や企業によるアート活用戦略については、「文化GDP10兆円、アートを活用したイノベーションの新戦略」の中で考察しているため、そちらを参照いただきたい。

 

地域でのアート活用効果に関して、日本では特に、芸術祭の開催などによる地域の人口減少・過疎化の緩和や、アーティストの招聘・交流人口拡大等によるまちの高齢化対策にも有効であると言われている。また、観光客が減少する閑散期対策にもなるという。

 

 

地域の魅力を”リフレーミング”するアート活用戦略

では、実際に地域でどのようにアートを活用しうるだろうか。地域におけるアートの活用方向性について、「地域の独自性の発掘」「点と点の接続・拠点づくり」「地域活性の為の同志集め」「地域ブランディング」の4つの視点が挙げられる。実際の事例とともに紹介していきたい。

 


地域の独自性の発掘

例えば、三重県伊勢市は、アーティストインレジデンス事業の中で、地域の魅力の再発見を目的の一つとして英国のアーティストを6組招聘し、彼らを2週間現地に滞在させた。伊勢神宮への訪問をはじめ、現地の工芸作家や一般市民の方々などと交流し、作品作りに昇華させた。600名を超える応募者がいたという。

 

点と点の接続・拠点づくり

同様に、長野県は「長野県立美術館を中核とした文化観光拠点計画」を策定した。海外からの来館者が少なかった中、美術館が県内外を結ぶ観光拠点になりうるのではないか、というアイデアから生まれた計画だ。インバウンド需要などを取り込む考えである。

 

地域活性の為の同志集め

また、新潟県山古志(:旧山古志村)は、NFTによる錦鯉アートを販売し”デジタル村民”を増やすことで、地域の課題解決に繋げた。山古志は、2004年の中越地震により、村民が約800名程度の限界集落となっていた。デジタル村民は900名以上となっており、リアル村民の数を超えている。アートが懸け橋となって同志を集め、地域内外の越境を巻き起こしたのだ。

 

地域ブランディング

さらに、山梨県は、県開発の水素技術をテーマにした近未来の漫画を制作し特設サイトで公開、ラストシーンのセリフを募集するユーザ参加型PRを実施した。コンテンツ制作にはNFTを活用しており、水素・燃料電池産業の研究開発拠点が集まっている山梨県の先進性をアピールする考えだ。

 

アートの民主化・活用促進に向けて

アートはどうしても、美術館で眉間に皺を寄せながら鑑賞しなければならないとか、一部の熟練者しか芸術家・表現者になれないと思われがちである。しかし、アートは自由で開かれたものであり、本来、行政の事業やビジネスの面でも一層活用されるポテンシャルを有している。ポップアートの旗手であるアンディ・ウォーホルが「私を知りたければ作品の表面だけを見てください。裏側には何もありません」という言葉を残しているように、深い造詣が伴わないとアートと関わってはいけないという先入観や固定概念から脱却し、今後より官民の取組への、アートのイネーブラーとしての活用が促進されることを期待したい。

 

執筆者

奥田 浩征/Hiroyuki Okuda

デロイト トーマツ コンサルティング、モニター デロイト所属。
イノベーション戦略を軸に、幅広い業界において新規事業の構想策定やアイディエーション等の戦略コンサルティングに従事。社会課題起点の新規事業開発も複数経験。

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