Posted: 29 Nov. 2024

生成AI時代の人材育成のために、企業がすべきこと

「生成AIが現場に与えるインパクトと人材育成の在り方」セミナーレポート 前編

 

瞬く間にビジネスシーンならびに日常に浸透した生成AI。開発や導入を急いだり、利用したりする企業も少なくない。一方、効果的な活用法やリスクに対する考え方、人材の役割や育成法など、考えるべき課題も多い。

そこで、デロイト トーマツ グループは2024年10月21日、生成AI業務に携わるメンバーに加え、関連団体や企業の有識者を招聘し、「生成AIが現場に与えるインパクトと人材育成の在り方」と題したオンラインセミナーを実施した。その内容を前編・後編にわたりレポートする。

※期間限定で本セミナーのアーカイブ配信を実施しています。視聴ご希望の方はページ下部よりお申込みをお願いします。

 

生成AIが仕事に与える3つのインパクト

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 Decision Analytics & Technology ディレクター 山本 優樹  

最初に登壇したのは、世界的な電機・エンターテイメント企業のR&D部門で、AI・機械学習技術の研究開発に10年以上携わった後、デロイト トーマツ グループに加わった山本優樹だ。現在も引き続き、多くのAI関連プロジェクトに携わっている。

山本ははじめに、昨今のAIのトレンド、特に生成AIと従来型のAIとの違いや特徴を紹介した。従来型AIは、大量のデータを元にコンピュータが予測・判定していくもので、例えば従来は人が行っていた価格の予測やローン審査の判定などを人間に変わって実行する。基本的に各用途に応じて専用AIの開発が必要な「用途特化型」だ。

一方、生成AIは「言葉」で振る舞いをコントロールできる汎用性を持つ。入力する言葉(プロンプト)を変えるだけで、さまざまな役割を持たせることができるため、「どこでも・誰でも・簡単に」最先端のAIを活用できる時代になった、と山本は指摘する。

続いて山本は、仕事への影響として3つのポイントを挙げた。1つ目は「知的生産のための思考方法」への活用だ。知的生産には「フレームワーク思考」「仮説思考」「抽象化思考」の3つの思考方法があり、生成AIは高い言語処理能力から、これらの思考を高度に行える。よって、ビジネスや業務を含む、あらゆる知的生産において、生成AIが影響を与えうるということだ。

2つ目は、「業務への即時的なカスタマイズ」だ。私たちは基本的に言葉を用いて業務を行っている。このため言葉を理解する能力が非常に高い生成AIは、業務との親和性が高い。

例えば社内規定文書などの既存文書を組み合わせることで生成AIの回答精度を向上させる「RAG(Retrieval-Augmented Generation )」の活用がある。RAGは、ユーザーの生成AIへの指示(プロンプト)において、必要となりうる情報を自動的に補ってくれるので、ユーザーがそのような情報を手動で探さなくても、ユーザーの質問に対してより精度が高い返答が期待できる。

また最新の生成AIはテキストだけでなく、画像や音声データなど幅広い形式のデータを扱えるマルチモダリティを持っており、業務に必要な多様なデータを包括的に扱えるようになっている。さらに「人事管理システム」「在庫管理システム」といった社内の複数システムをまたいだ連携やデータ処理について生成AIが自動的に行う、エージェントのような役割を担うようなことも、原理的には可能であることが示されており、今後早いタイミングで社会に導入されるだろうと山本は言う。

生成AIの仕事への影響の3つ目は「生成AIに対するフィードバックの蓄積」だ。生成AIが出力した結果を人間が適切に評価したり修正したりすることでフィードバックし、生成AIを成長させていくことが、今後人間が行う重要な業務のひとつになるだろう、と山本は予測する。

生成AIは人材や組織、業務システムなど、企業の中でも包括的な取り組みが必要な領域に大きな影響を与える。またビジネス導入においても短期・中期・長期でそれぞれ異なる影響があることが想定される。このため「包括的かつ長期的流れも視野に入れた上で、どのような人材が必要になるのか、どのように対応するのかを戦略的に考える必要がある」と山本は指摘し、セッションを締めくくった。

 


AIの運用に必要不可欠な「AIサービスディレクション機能」を考える

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 Human Capital シニアマネジャー 山本 亜希

続いてデロイト トーマツ コンサルティングで組織開発や採用・育成・配置といった人事領域の業務に取り組む山本亜希が登壇した。

山本は昨年度より「AI×人材育成」の領域で研究調査を行っており、その結果をNECや東京大学と共同で論文としても発表している。本セッションでは、その論文の中心テーマである「AIサービスディレクション機能」について解説した。

生成AIは急速に社会実装が進んでいるが、一方で人間が厳密に制御するのが難しい。そこで各国、各機関がガイドラインを作成するなど、体制の整備を進めている。開発面ではある程度ルールが確立してきたものの、「運用面ではまだ途上」だと山本は指摘する。AIサービスをリリースしたあと、ユーザーニーズや各国法規・ガイドラインが日々変わる中で、AIを安全に使うためにはどのような体制を企業が持たなければならないのか、その指針となるのが「AIサービスディレクション機能」の考え方だ。

AIサービスディレクション機能は、4つの機能で構成される。技術革新やOSのバージョンアップなど幅広い要因のAIへの影響や変化を洞察を含めて認識する「インテリジェンス・センシング機能」。事業戦略の見直しや法規制・ガイドラインの変更時などに、AI活用の目的やリスクを再度アセスメントする「パーパス&アセスメント機能」。

そして「ステークホルダーコミュニケーション機能」は、関係各所とどうコミュニケーションを取るか、プランニングも含めて検討・実施する機能だ。生成AIサービスでは、情報システム部門など技術部門に加え、実際に利用するビジネス部門、さらに外部にサービスを提供している場合にはステークホルダーとの連携も必要となり、想定よりも多くのステークホルダーが関わるケースも少なくない。

最後に「タイムリーファシリテーション機能」は、インシデント発生時の対応に力点を置いた機能だ。この4つの機能を意識すると共に、それぞれの機能をサイクルとして回していくことが重要だと山本は述べた。

さらに山本は、社内AIサービス導入を例に、会社の中で生成AIを導入してから利用を拡大し「AIサービスディレクション機能」を用いて運用するまでの流れを紹介するとともに、同業務を担う人材育成も重要だと強調した。

 

生成AIの普及による「デジタルスキル標準」改訂のポイント

独立行政法人 情報処理推進機構 デジタル人材センター人材プラットフォーム部 部長 高橋 伸子氏

続いて独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)デジタル人材センター人材プラットフォーム部 部長の高橋伸子氏が登壇し、IPAが経済産業省と共同で策定した、DX時代における人材像を定義する「デジタルスキル標準(DSS)」について解説した。DSSは生成AIの急速な広まりを受け、2023年8月および2024年7月に改訂を実施している。

デジタルスキル標準とは、すべてのビジネスパーソンに対してのスキルやマインドを示した指針の「DXリテラシー標準(DSS-L)」。DXを推進する人材の役割(ロール)や習得すべきスキルを定義した「DX推進スキル標準(DSS-P)」の2つから構成される。

DX人材の不足が叫ばれる昨今、同人材の確保や育成において、各企業が具体的にどのようなスキルを習得したり、どのような職種の人材を確保したりすればよいのか、企業の意思決定の参考となるガイドラインだ。

当初は1~2年の頻度で改定していく予定だったが、生成AIに関してはChatGPTのユーザー数が瞬く間に1億人を突破するなど生成AIツールの利用が急速に普及しため、短期間での改訂となったと高橋氏は説明した。

高橋氏はDX推進スキル標準の改訂のポイントを詳しく紹介した。

すべてのビジネスパーソンに対してのスキルやマインドを示したDSS-Lについては、主に生成AI利用において求められるマインド・スタンスを補記として追加した。

一方、DXを推進する人材の役割や必要スキルを定義したDSS-Pでは、より大きな改訂が加えられている。DX推進人材の人材類型やロールは変更されていないが、「新技術(生成AIを含む)への向き合い方や行動の起こし方」が新たに定義された。また生成AIに対するアクションとして、活用、開発・提供それぞれの考え方や詳細定義、具体例などが追加されている。またDX推進人材に求められる共通スキルリストの学習項目例にも追加・変更がなされた。

「新技術(生成AI含む)への向き合い方や行動の起こし方」では、社会に影響を与える技術は生成AIだけにとどまらず今後も登場することが想定されることから、新技術全般への態度として定義された。新技術がもたらす変化を自身で捉え、適切に用いながら変革につなげることが重要だと指摘している。

 

「生成AIが現場に与えるインパクトと人材育成の在り方」セミナーレポート(後編)はこちら

 

■期間限定アーカイブ配信のご案内

期間限定で本セミナーのアーカイブ配信をご視聴いただけます。この機会にぜひご視聴ください。

アーカイブ配信を視聴する

※申込期間:2024年12月2日(月)~2025年2月28日(金)12:00
※視聴には事前登録が必要となります。
※視聴後アンケートに回答いただくと、一部の講演資料のPDFを提供いたします。
 

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小野 隆/Takashi Ono

小野 隆/Takashi Ono

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デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社 執行役員 人事領域の機能・組織・業務・人材の変革について、HRテクノロジー、デジタルHR、エンプロイーエクスペリエンス、BPR、SSC・BPO、チェンジマネジメント等の観点から支援している。グローバルヒューマンキャピタルトレンドサーベイに関する講演多数。グループ組織再編・M&Aにおける人事PMI等に豊富な経験を持つ。著書に「最強組織を作る人事変革の教科書(日本能率協会マネジメントセンター)」がある。 関連するサービス: ・人事機能変革(HR Transformation)(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ

神津 友武/Tomotake Kozu

神津 友武/Tomotake Kozu

デロイト トーマツ グループ パートナー

有限責任監査法人トーマツ パートナー。物理学の研究員、コンサルティング会社を経て、2002 年から有限責任監査法人トーマツに勤務。 金融機関、商社やエネルギー会社を中心にデリバティブ・証券化商品の時価評価、定量的リスク分析、株式価値評価等の領域で、数理統計分析を用いた会計監査補助業務とコンサルティング業務に多数従事。 現在は金融、エネルギー、製造、小売、医薬、公共等の領域で、デロイト トーマツ グループが提供する監査およびコンサルティングサービスへのアナリティクス活用を推進すると共に、データ分析基礎技術開発を行う研究開発部門をリードしている。 東京工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻 客員准教授