Posted: 14 May 2020

スマート化する街と多様化する移動体

今のクルマの機能は本当に必要か?スマートシティにおける移動体の在り方を問う

多様なモビリティサービスの登場

都市が持つ機能の中でも、移動分野は欠かすことのできない存在である。なぜならば、働く・学ぶ・娯楽・医療を受ける等、都市居住者が生活シーンにおいて行う活動の多くが移動を伴うものであるからだ。
また、従来の都市では生活シーン毎に個別機能が存在していたのに対し、スマートシティでは、それら機能が複合的に連携し都市全体を効率的に稼働させる。とすると、生活シーンと不可分な移動は、スマートシティにおいて各機能を横断的に繋ぐ連携機能そのものともいえる。
スマートデバイスの登場や位置情報を活用したICT技術により、従来の移動手段である公共交通機関やタクシー・レンタカーは、オンデマンドバス・ライドシェア・カーシェア・シェアサイクルといった移動を支えるモビリティサービスへと変化を遂げ、さらに移動のプラットフォームとしてMaaS(Mobility as a Service)、病院送迎や食品の宅配といった生活を支えるモビリティサービスが登場することで、モビリティサービスはスマートシティにおける要衝となりつつある。

 

モビリティサービスに供される移動体

一見するとこれらモビリティサービスには従来の移動体-すなわち─クルマ・バスといった輸送機器-がその形を変えることなくサービスに供されているとも取れる為、サービスが多様になったからといって移動体そのものに変化が起こるとは考えにくい。
しかし、複数のモビリティサービス事業者やその関係者へインタビューを行ってみると、モビリティサービスの多様化が移動体そのものにも影響を及ぼし、その移動体の形状や性能にも多様な変化を生じさせることが判明してきたのである。

 

多様化する移動体

その最たる例が自動運転機能を備えたオンデマンドバスだろう。
居住性・稼働率最大化に向けて形状は箱型となり、歩行者・自転車等との交通混在下において安全性を確保するためにも平均車速は15~20km/hと極めて遅くなる。
これらの移動体は都市内部を走行することを目的としており、日本の高速道路や米国のフリーウェイを100km/hで走行するための空力形状やエンジンなどは必要ないのである。仮に従来の自動車をこれらのモビリティサービスに適用してしまえば、完全なオーバースペックになってしまう。
移動体の変化として、もう1つ象徴的なものはパーソナルモビリティの登場である。海外ではeスクーターと呼ばれる電動のキックボードが登場し、その安全性については賛否両論あるものの、都市居住者のラストワンマイル移動に便益をもたらしている。さらに平日の自動車ユーザーの多くがドライバー1名のみで移動していることを考えると、日本の軽自動車をさらに簡略化したシティコミューターの登場も期待される。
ラストワンマイル物流の人的負荷を軽減するために、物流向けのUGV(Unmanned Ground Vehicle:無人地上走行車両)も登場するだろう。Eコマースの登場以来、宅配取扱個数は2008年度〜2017年度の10年間で32%増加し、すでに日本国内でも年間40億個以上の宅配物が届けられている。しかし、物流業界の就業者数は横ばいで、拡大しつづける需要に足りていないのが現状である。このラストワンマイル物流の需給不均衡は海外でも大きく変わらず、カナダのトロントや中国の雄安新区等では物流向けの専用通路を構築する案が検討されている。
自動運転オンデマンドバス、パーソナルモビリティ、物流向けUGV、これらはいずれも都市内の末端移動を担う移動体としてサービスに供されることになる。かつて都市内から都市間の移動のすべてをカバーしていた自動車は、スマートシティ時代には過剰な性能をもつ製品となり、逆に都市内の環境に合わせて形態を適合・分化させた移動体が新たな移動の担い手となるのである。

ロボタクシー・デマンドバスの運行形態と使われ方・運用

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輸送機器製造者の構え

モビリティサービス事業者へのインタビューにより、スマートシティ─時代の移動体が多様化することがわかってきた。そして同時に、モビリティサービスに供される移動体へのニーズは、従来の自動車等へのニーズとは大きく異なることも明らかとなった。
今後の輸送機器製造事業者や部品製造事業者には、モビリティサービス事業者の視点に立って新たなニーズを見極め、そのニーズに合致した製品やソリューションを提供していくことが求められるだろう。
ソリューションとはすなわち単なるモノの提供ではなく、モビリティサービス事業者の事業課題に寄り添い、経済合理性を最大化するサービスの提供である。
価値の高いソリューションを提供できる輸送機器製造事業者や部品製造事業者が、スマートシティ時代における生存競争の勝者となるだろう。

※本稿は2019年10月に執筆しています

 

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