地域の足となる公共交通の重要性は近年、都市部(主に三大都市圏)地方部(都市部以外を指す)を問わず高齢化の進展等によって一層増しているが、中でも地方部は買い物難民対策や高齢ドライバー対策をはじめとした社会課題を抱えており、これらの解決のためにも地域公共交通の利便性・機能向上が求められている。
しかしながら、地方部の公共交通を取り巻く環境は依然として厳しい状況にある。公共交通の利用者数は、都市部では鉄道・バスともに近年増加傾向にあるのに対して、地方部では長期的な減少傾向が続いており、今後も人口減が進む中で公共交通利用者数が下げ止まる兆しは見えない。また、公共交通を支える人手の不足、特にバスドライバーの不足が都市部以上に地方部では深刻であり、仮に補助金等の財政支援があったとしても、交通事業者の運行体制が整わないために路線を維持できずバスが廃止となってしまうケースも発生している。
このような状況の中で、地方部において地域公共交通を改善し今後も維持するために、スマートシティ時代において下記3点のような取り組みの実現が期待される。
1. 散逸している交通関連データの集約
民間の路線バスが廃止となる際、多くの場合に自治体主体のコミュニティバスや乗合タクシーなどへの転換が行われる。こうした転換後の公共交通に関する情報(時刻表や運賃等)は、各市町村のホームページや広報誌等に点在してしまい、複数市町村にまたがる横断的な検索が困難な場合が多い。また地方部では、商業施設や病院、旅館・ホテルといった各種施設が独自で送迎サービスを提供しているケースも多い。これらのサービスも含めた移動にまつわる情報を集約することで、路線バス等と送迎サービスを組み合わせた移動について簡単に検索することができ、マイカーに頼らない便利な移動ルートを発見することも可能となる。
2. 利用データの交通計画へのフィードバック
地方部の限られたリソースで効率的な地域公共交通を運営していくためには、住民の移動ニーズを把握する必要がある。しかし地方部では交通系ICカード等のシステム整備が進んでいない場合も多く、その場合に各自治体は時間と費用をかけたアンケート調査等を数年に一度行い、それを基に交通計画を検討することとなる。
各種公共交通の利用データを一元的に管理し、それを自治体の担当部門が利用できるようになれば、例えばコミュニティバスの運行改善等を高頻度かつ容易に検討可能となる。
また自治体主体の公共交通は各市町村の中に閉じた路線網となることがほとんどであるが、例えば県内の公共交通利用データを一元管理できれば、広域移動ニーズへの対応といった課題についても検証可能となり、複数市町村にまたがるバス路線のルート設定など住民が本当に求めている公共交通サービスの提供につながるといえる。
3. 新たな交通手段を含めたネットワーク再構築
上記のようなデータ関連のシステム整備と合わせて、新たな交通手段を導入し、鉄道・バス・タクシーといった既存の交通手段では対応できない需要へ対応していくことも求められる。
中でもオンデマンド交通は地方部での活用が期待される交通手段の1つである。地方部では各種施設が都市周縁部に広がり、交通需要が薄く面的に広がっているケースが見られるが、そうした場所では定時定路線の鉄道・バスでは効率が悪く事業が成立しにくい。このような構造となった地方部では、広範囲の薄い需要を効率的に取り込んでいけるオンデマンド交通の特性を発揮できるといえる。
またオンデマンド交通の車両として10人乗り程度の車両を採用する場合には、普通二種免許のドライバーでも乗務できるようになるため、バスドライバー不足への一助となることもメリットの1つである。
地方部の地域公共交通を改善するためには、他地区の事例をそのまま持ち込むだけでは効果を発揮できないという点に留意したい。1990年代後半以降に全国でコミュニティバスの導入が進められた際、「循環ルート」「小型車両」「ワンコイン」といった成功事例の要素を検証なくそのまま取り入れ、結果として利用が伸び悩むケースもあった。スマートシティ時代における各種取り込みにおいても、たとえば「MaaSアプリの構築」や「オンデマンド交通の導入」といった取り組み自体が目標に据えられることとなっては本末転倒である。
必要なのは、まず地域の交通ニーズと向き合い、各種交通手段を適材適所で配置したネットワークを構築することである。それはまさに、「地域公共交通網形成計画」で描くべき「地域にとって望ましい公共交通網のすがた」であり、各種先進技術はそれを実現するための1ツールとして使いこなすことが求められる。