農林水産業分野では、もともと高齢者比率が高く、他産業以上に担い手(農業経営者)の減少・高齢化が進んでおり、労働力不足は産業としての存続が危ぶまれる深刻な問題となっている。
の農業生産量や耕作面積を、減少していく担い手で維持していこうとするならば、一人当たりの経営耕地面積を拡大するしかなく、一人当たりの作業面積の拡大を実現し得る技術革新が求められている。しかしながら農林水産業の現場では、依然として機械化が難しく人手に頼らざるを得ない作業や若者参入を妨げる熟練者でなければできない作業が多く、機械化による省力化、ノウハウのデータ化、人手の確保が重要な課題となっている。
上記の課題を解決するための技術動向に関し、その動向を5つの技術観点で整理する。
1.自動化技術
・農業ロボット、自動運転、農業ドローン等が該当
‒ 自動収穫機がほうれんそう等軟弱野菜向けに拡大
‒ 自動運転ロボットトラクターの販売開始、センサーや自走機能など従来の農機の高機能化が進行
‒ 農薬散布用とリモートセンシングのドローンの研究開発が進行
2.センシング技術
・ 環境モニタリングシステム、生育診断装置等が該当
‒ ハウス内の温度や湿度などを計測し、環境制御装置と連動する形で自動環境制御を実現
‒ 作物の生育情報の取得方法が確立
3.管理技術
・ 農機管理、生産管理、販売物流管理システム等が該当
‒ 農機メーカーによる農機と連携した農機管理システムおよび生産管理システムの登場
‒ データを活用するための、農業データ連携基盤事業がスタートした段階
4.予測技術
・ 気象予測システム、生育予測システム等が該当
‒ 農業用気象予測システムが出現、収穫予測技術の研究が進行
‒ 環境制御装置・生産管理システム等との連携を試行中
5.アシスト技術
・ アシストスーツが該当
‒ 介護用アシストスーツの農業転用が確立
加えて、農林水産省ではスマート農業実証プロジェクトとして最先端技術の導入・実証を全国で行い、スマート農業の実現を支援するとともに、新技術を現場に実装させていくためのプログラムもあわせて企画するなど、スマート農業の実現は日本の農林水産業の今後を描くうえで欠かせない要素となっている。
しかし、課題もまだ多い。上記のように個々の技術観点においては進展がみられているものの、個々の技術だけで農業が成り立っているわけではない。スマート化のメリットを最大限発揮するためには生産から加工・流通、販売に至るまでのバリューチェーンを一気通貫したスマート化の実証がいま急がれているのである。
繰り返しになるが、スマート農業自体、研究・実証段階の技術が多く、農業の現場での実装にはまだ時間がかかるものではある。しかしながら、将来的にはスマートシティの文脈の中で環境・エネルギーや生活・健康といった各テーマと連携したまちづくり・地方創生に進化していくだろう。
一例を挙げるならば、スマートシティでのデータプラットフォームに蓄積・活用される情報の中には気象データ等、農林水産業でも活用されるものがあり、クロスインダストリーな取り組みに発展すべきであり、消費者(顧客)のオーダーが生産者に共有されすぐに農産物が届くといった需給のリアルタイムな連携も可能となるだろう。
現状、これらのプラットフォームを実現している自治体・企業はまだ現れておらず、ゆえにスマートシティ・スマートアグリシティをいち早く実現できるかが、今後の自治体の生き残り戦略になり得、またソリューション提供側の企業にとってもビジネスチャンスとなるだろう。