UvanceとKozuchiを融合させた富士通のAI戦略 デロイト トーマツとのアライアンスで描く新たな社会創造 ブックマークが追加されました
さまざまな社会課題の解決には、企業の枠を超えたエコシステム形成や新たなビジネスモデルの構築が必要であり、その仕組みを支えるテクノロジーの実装が欠かせない。その意味で、日本を代表するテックカンパニーである富士通が、その存在感を示すべき領域はこれまで以上に広がっていると言える。あらたなAI(人工知能)戦略を明らかにした富士通は、デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)との協業に何を期待し、両社のコラボレーションの進化によってどのような社会の創造を目指しているのか。富士通の岡田 英人氏と土井 悠哉氏、DTCの首藤 佑樹と井出 潔の4人の対談から、そのビジョンを導き出す。
富士通は先端AI技術を試せるAIプラットフォームであった「Fujitsu Kozuchi」を、クライアント企業のサステナビリティ・トランスフォーメーションや事業課題解決と社会課題解決を支援する事業モデル「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」と融合させてビジネス展開する、新たなAI戦略を2024年から始動させた。
岡田 富士通は30年以上にわたってAIの研究を続けており、現在の富士通研究所所長の岡本青史(執行役員EVP)もAIの専門家です。研究開発費ではビッグテックに及びませんが、研究者一人ひとりが強いウィル(意志)に基づいて究めた“尖った”要素技術がたくさんあります。
しかし、そうした優れた技術をお客様に十分届けられていない。これは何とかしないといけないということで、富士通のAI技術を一つのブランドにまとめ、クラウドベースで試していただけるようにしたのが、Fujitsu Kozuchi(以下、Kozuchi)です。
Kozuchiの提供を始めた2023年4月以降、「富士通がこれほどAIの研究をしていたのか」「富士通のAIでこんなこともできるのか」と多くの反響がありました。Kozuchiは7つの領域で構成されていますが、特にGenerative AI、for Vision(AIによる画像分析・画像処理)、AutoML(自動機械学習)などは多数の引き合いをいただきました。
富士通
SVP
技術戦略本部長
岡田 英人氏
土井 7つのコア技術をお客様が直接単体で活用できるほか、当社の技術と他社の技術やツールを組み合わせたコンポーネントとしても提供しています。例えば、工場の作業者分析や不良品検出、店舗での購買行動分析、都市空間や建物内での不審行動検知といったユースケースをカバーしています。
岡田が言ったように引き合いは非常に多く、お客様と話しているとわれわれが想定していなかった業務領域でも富士通のAI技術がお役に立てることが分かってきました。ですから、より多くのお客様と対話を深めていけば、富士通の尖った技術で貢献できるユースケースを、もっともっと増やせる手応えを感じています。
富士通
グローバルソリューションBG
JAPAN統括部長 兼 テクノロジアドプション部長
土井 悠哉氏
岡田 逆に当社がイチオシだと思っていた技術に対して、お客様の反応が今ひとつということもあります。研究として最先端、技術として一番であっても、お客様にとって価値が最も大きいとは限りません。研究開発の優先順位を整理する上でも、お客様と直接対話することが重要だと再認識しています。
首藤 御社が研究開発とビジネスの両面から、AI戦略を推進しようとしていることがよく分かりました。
2022年末からChatGPTの普及が加速し始めて、まず興味を持ったのがビジネス部門の人たちでした。次に、技術的に何ができるのか、できないことやリスクは何かといったことをIT部門が中心になって検証する期間がありました。そして、2024年に入ってからビジネスの本丸で生成AIを活用し、応用問題をどう解いていくかという議論が盛り上がっています。単純に生成AIを導入するだけでなく、ビジネスとして価値を出していくには、テクノロジーとビジネスの両輪でAI戦略を組み立てていく必要があります。
井出 Fujitsu Uvance(以下、Uvance)のオファリングにKozuchiを融合させる戦略は、ビジネスの成果に直結するものであり、クライアント企業にとってはとても理解しやすいという印象を持っています。
われわれは、インダストリーエキスパートと、各業務領域やテクノロジーのプロフェッショナルが組んで、ユースケースをつくり出すことが得意ですので、御社の戦略とは非常に親和性が高いと考えています。
土井 当社もコンサルティングを強化していますが、技術を応用してお客様に価値を届けるという部分では、リソースが足りません。そのために、やりたくてもできていないことがたくさんあります。ぜひ御社との連携を強めて、お客様への価値提供を広げていきたいと思っています。
富士通は、Uvanceの7つの重点分野のうち、事業課題と社会課題を解決するクロスインダストリーの4分野、すなわちサステナブル・マニュファクチャリング(Sustainable Manufacturing)、コンシューマー・エクスペリエンス(Consumer Experience)、ヘルシー・リビング(Healthy Living)、トラステッド・ソサエティ(Trusted Society)のオファリングに、Kozuchiを組み込んでいく。
首藤 2010年代半ば以降、企業はプロボノやCSRではなく収益事業として社会課題の解決を強く意識するようになりました。ただ、そのためには、企業の枠を超えて連携する仕組みの構築が必要であり、その仕組みを支えるテクノロジーの実装が欠かせません。
われわれはこれまで、クライアントの社会課題の解決支援をプロジェクトとして数多く手掛けてきましたが、テクノロジーの実装まで至らないことの方が多かったのが実情です。それにはさまざまな理由があるのですが、ここにきて技術的な解まで含めて実践的な解決を図ろうという機運が盛り上がっており、テックカンパニーが存在意義を示せる領域がますます広がっています。
特に先進的なAI技術と大規模な計算技術は、さまざまな事業課題と社会課題の解決に具体的な道筋を示すことができるテクノロジーであり、御社とコラボレーションできる機会は、今後飛躍的に増えると思います。
デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹
岡田 おっしゃる通りです。AIとHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)によって、これまで解決できなかった課題を解決できるようになったケースが次々と出てきています。
例えば、米国だけでも年間200万〜300万人の高齢者が罹患するせん妄(*)の診断は、従来、患者への問診の結果から臨床医が判断するしかありませんでした。富士通はスタンフォード大学の篠崎元先生と共同研究を進めた結果、AIで脳波の異常を検知し、せん妄の発症を正確に予測する研究結果を挙げました 。篠崎先生は、後にDelight Health社を設立され、当社のAI技術を活用してせん妄に苦しむ患者の救済に取り組まれています。
*せん妄:混乱や注意力の欠如のほか、時間や場所、状況についての感覚の喪失を伴う精神の急激な変化を示す疾患。
また、燃やしてもCO2(二酸化炭素)を排出しないアンモニアは次世代のクリーン燃料として注目されていますが、現在主流のアンモニア合成手法であるハーバーボッシュ法では、合成過程で大量のCO2を排出してしまう課題があります。富士通ではアイスランドのベンチャー企業Atmonia社と共同で、AIとHPC技術を使って高速な量子化学シミュレーションを行い、クリーンなアンモニア合成を可能にする触媒の探索を行っています。
井出 そうした先進的な研究開発から生まれたコア技術やユースケースを、クライアントに提案できるのが御社の強みだと思います。生成AIに関しても、富士通社内で実際に課題解決に応用した上で、その成果をUvanceのソリューションに組み込んでいますね。
土井 グローバルの全従業員約12万4,000人が生成AIをセキュアに使用できる環境を整備し、2023年5月から社内実践を推進してきました。その中から、プログラミングコード開発におけるコード生成工数の平均約20%の削減、商談情報分析と経営レポート作成の完全自動化といったユースケースが生まれており、これらをお客様にソリューションとして提供しています。
富士通自身が日本の大企業に共通する課題を多く抱えていますから、その解決の取り組みについては成功例も失敗例も全て公開して、お客様に役立てていただきたいというのが当社のスタンスです。
DTCでは、社会課題を起点にしながらテクノロジーの実装によって新たな事業課題解決と社会の創造を目指す「SMART X」の取り組みも進めている。これは、Uvanceを通じて富士通が目指す姿に重なる。両社の強みを組み合わせたアライアンスの深化によって、さまざまなユースケース創出の可能性が大きく広がる。
首藤 われわれはAIの導入について相談を受けたとき、AIだけではなく「AI×データ」で変革を起こすことが重要だと提案しています。社内にあるデータを独自資産として活用することで、新たな価値を創出できる。AIはそのための手段の一つだということです。
ですから、データの整備、データ活用基盤の構築、特化型LLM(大規模言語モデル)のファインチューニングやRAG(検索拡張生成)の導入などを含めて、システム全体のインテグレーションを見据えた変革シナリオを描くことを基本としています。
土井 AIを使って大きな成果を出している企業に共通するのは、おっしゃるようにデータマネジメントの仕組みまでしっかり構築していることです。したがって、われわれもUvanceのオファリングメニューとして、AIとデータ基盤、ブロックチェーン基盤を組み合わせたクラウドサービス「Fujitsu Data Intelligence PaaS」(以下、DI PaaS)を開発し、その中にKozuchiを組み入れています。
DI PaaS は、組織内外に散在する膨大なデータを意味の理解できる形に統合して意思決定を支援するもので、分断されたデータを統合的に連携・分析し、課題解決を支援します。
実際に、この DI PaaS を活用し、データの統合から蓄積、可視化に加え、業務システムまでオールインワンで構築されたお客様がいらっしゃいます。大手製造業の同社では、事業部、部門、拠点ごとに製品、部品を異なるデータ形式で管理していましたが、 DI PaaS を基盤とした新しいシステムによって全拠点で約20万品番に及ぶ部品の在庫や発注情報を見える化すると同時に、AIを使った高精度な需要予測を実施できるようになりました。
デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
井出 潔
岡田 KozuchiのAutoMLは、高精度な機械学習モデルを短時間で生成することができます。このお客様のケースでは、データ基盤に統合された情報から、過去5年分の主要部品の販売実績をもとに300種の予測モデルを生成し、部品カテゴリーごとに精度の高い重要予測や機会損失の予測が可能になりました。
こうしたユースケースをどんどん創出して、 DI PaaS の上にソリューションとして実装していきたいのですが、われわれだけではできることに限界があります。クライアント企業とテクノロジーの両方に精通している御社のお力添えをぜひお願いしたいと思っています。
井出 当社では、「SMART X」という形で、スマートシティやスマートモビリティ、スマートファクトリーなどさまざまなアジェンダに業界横断で取り組んでいます。
私もSMART Xに関わる一員として、企業や業界をまたぐエコシステムの形成やルールメイキング、ビジネスモデルの構築、テクノロジーの実装などに携わっています。そうしたSMART Xを実現するテクノロジー基盤の一つが DI PaaS だと、私は捉えています。
御社のUvanceとわれわれのSMART Xが目指している方向性は一致していますので、これからアライアンスを深め、共に企業変革と社会変革の実現に取り組んでいきたいですね。
岡田 企業や業界をまたぐ取り組みは、井出さんがおっしゃったエコシステム形成やビジネスモデル構築、そしてマネタイズのあり方などがカギになります。その全体設計の部分を御社と一緒に進めていければ、われわれとしては心強い限りです。
首藤 例えば、広告ビジネス一つを取っても、スマートシティの中を移動する生活者がさまざまな広告媒体に接するとき、バックエンドで個人を認識して、行動履歴などをリアルタイムで解析し、一人ひとりにカスタマイズされたコンテンツを生成・掲出することで広告の価値を高めることができます。そうした次世代のCX/UX(顧客体験/ユーザー体験)を構築する上でも、御社のAI、HPC技術が活躍する場面がますます増えるはずです。
社会課題を起点として、テクノロジーの実装によって新たなビジネスモデルの創造や街づくりを目指す。そうした大きな取り組みを、ぜひ一緒に進めていきましょう。
富士通
SVP
技術戦略本部長
岡田 英人氏
富士通
グローバルソリューションBG
JAPAN統括部長 兼 テクノロジアドプション部長
土井 悠哉氏
(※記事中の役職名は対談当時のもの)
デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹
デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
井出 潔
テクノロジー・メディア・通信インダストリー アジアパシフィックリーダー メディア/総合電機/半導体/システムインテグレータ/ソフトウェア等の業界を主に担当し、事業戦略策定、組織改革、デジタルトランスフォーメーション等のプロジェクト実績が豊富である。Deloitte USに4年間出向した経験があり、日系企業の支援をグローバルに行ってきた。 関連するサービス・インダストリー ・ テクノロジー・メディア・通信 ・ 電機・ハイテク >> オンラインフォームよりお問い合わせ
約20年のコンサルタントキャリアにおいて、コーポレートビジョン策定・浸透推進、事業戦略立案・実行推進、マーケティング戦略立案・実行推進、グローバル経営管理機能の強化・再構築、R&D領域のナレッジマネジメントスキーム構築、販売・アフターサービス領域のオペレーション改革、シェアードサービスセンターの設立・再構築など、戦略立案から現場変革まで様々なプロジェクトに従事。 製造業を中心に、特に自動車業界については自動車メーカー、自動車部品サプライヤー、販社・ディーラー、モビリティ関連など幅広い企業とのプロジェクト経験を有する。 20ヶ国以上でのプロジェクト経験や5年にわたる東南アジア駐在経験を活かして日本目線と非日本目線の融合、グローバル本社目線と現地法人目線の融合を図り、長年続く価値ある変革を世界中で実現させる事を目指して、日々の業務に取り組んでいる。 著書に『モビリティー革命2030 自動車産業の破壊と創造』(共著:日経BP社)、『自動車産業ASEAN攻略』(共著:日経BP社)がある。 関連サービス ・コンシューマー ・自動車 >>オンラインフォームよりお問い合わせ