Posted: 27 Aug. 2024 10 min. read

AI導入からAI変革へ 企業の未来を拓くGoogle CloudとDTC

デジタル・トランスフォーメーションの真の目的が変革であるように、生成AI(人工知能)もその導入ばかりを議論するのではなく、それを道具として活用し、企業変革を達成すること、すなわちAIトランスフォーメーションこそが真の目的であることを忘れてはならない。世界最先端のAI技術を活用した変革支援に手を携えて挑むグーグル・クラウド・ジャパンの寶野(ほうの) 雄太氏、デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)の首藤 佑樹、中村 旭が、AI変革への勝ち筋を議論した。

 

「大胆かつ責任あるAI」活用を技術とガバナンスで担保する

Google Cloudは、単に世界最先端の生成AIを提供するだけでなく、企業の責任あるAI活用をサポートする技術開発やガバナンスの整備にも多額の投資をしている。安心・安全な環境の下で企業が生成AIをビジネスで存分に利活用し、成長機会を大胆につかめるようにするためである。

 

寶野 私たちGoogle Cloudは、「大胆かつ責任あるAI」を基本理念としています。生成AIは、事実に基づかない情報を生成するハルシネーション(幻覚)を起こす可能性があり、「ビジネスに活用して大丈夫なのか」という不安を多くの企業が抱えています。また、AIが生成した文章や画像などが著作権を侵害するリスクもあります。こうした不安やリスクを抱えたままでは、AIを活用して大胆にビジネスチャンスをつかむことはできません。

このような課題に対処するため、Google Cloudはさまざまな取り組みを行っています。まず、ハルシネーションについて、私たちはこれを抑制するグラウンディングという技術に大きな投資をしています。グラウンディングは、生成AIを利用する企業や組織が信頼できる情報ソースを指定し、それを参照することで回答の正確さを高める技術です。チャットAIに情報源を付与するRAG(検索拡張生成)もグラウンディングの一例です。

私たちが提供するグラウンディング技術を使えば、ボタン一つで生成AIに企業独自のデータなどの情報源をひも付けることができます。また、Google検索で回答の根拠付けを行うことも可能で、参照した情報ソースへのリンクを提示しますから、ユーザー自身が回答結果を検証することができます。

次に、万が一、AIに関連する著作権侵害でユーザー企業が訴えられた場合、その損害などを当社が補償します。補償の対象は、生成AIの学習に使ったデータと、AIによる生成物の両方です。それを規約として定めています。当社では、責任あるデータ活用を徹底しており、例えば、トレーニングで使うデータも厳格に管理し、仮に使ってはならないデータでトレーニングしていた場合は、モデルを一から作り直します。こうしたデータガバナンスに自信を持っているからこそ、万が一のときの補償ができるのです。

こういった取り組みを重ねることで、企業の皆さんに安心して生成AIを使える環境をご提供しています。

 

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
テクノロジー部門統括技術本部長 兼 AI技術日本統括
寶野 雄太氏

 

首藤 大企業ほど情報の取り扱いに不備があった場合の経済的リスクやレピュテーションリスクは大きいですから、機密性の高い情報や自社固有のデータが第三者によってAI学習に利用されることには、神経質にならざるを得ません。このため、ガイドラインを整備するなどしてデータガバナンスを強化する企業が増えていますが、御社のように責任あるAI活用、データ活用のための仕組みや技術を構築し、経済的な補償まで約束されているとなれば、ユーザーにとって非常に心強いことです。

 

中村 われわれデロイトはグローバルで「Trustworthy AI」というポリシーを掲げており、AIの設計、開発から運用までライフサイクルの各工程にガバナンスと規制遵守を組み込むフレームワークを構築し、それに基づいて透明性や公平性、安全性の高いAI活用を支援しています。

御社と協働することで、技術と仕組みの両面から大胆かつ責任あるAIの活用を支援できますから、クライアント企業にとっても両社のアライアンスが持つ意義は大きいと思います。

 

寶野 例えば、ソースコードを記述するときに、他人が書いたコードをコピーして著作権を侵害してしまうリスクは、人間でもAIでも同じことです。人が行うさまざまな業務プロセスにおける不正の検知や予防、あるいはリスクの特定と回避などについて豊富な知見と実績がある御社と協働することで、AIをより安全・安心に使える技術や仕組みの高度化ができるのではないかと、私は考えています。

 

オープンなエコシステムで、最適なモデル選択やカスタマイズを可能に

Googleは各種の基盤モデルを開発し、生成AIの性能競争で世界をリードする存在だが、Google CloudのAI関連サービスにおいては、オープンなエコシステムを形成し、ユーザー企業が自社にとって最適なモデルを選択した上で、目的に応じてチューニングしたり、カスタマイズしたりできる環境を提供している。

 

寶野 Google CloudのAI関連サービスは、いくつかのレイヤーに分かれています。一番下のレイヤーは、当社が「AI Hypercomputer」と呼ぶインフラ層です。AI向けの半導体としてNVIDIA(エヌビディア)のGPU(画像処理半導体)と自社開発のチップであるTPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)を提供しており、多くの企業がGoogle Cloudのコンピュート・リソースを活用して、LLM(大規模言語モデル)の開発を行っています。日本では、経済産業省・国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構が日本のAI開発力強化を目指したプロジェクト「GENIAC」を進めていますが、当社は同プロジェクトにも計算資源を提供しています。

そのインフラ層の上にあるのが、AIプラットフォームの「Vertex AI」で、自社に適したモデルを選択できる「Model Garden」、ファインチューニングなどによって用途に応じた特化型モデルを開発できる「Model Builder」、AIエージェント(独自のAIアプリ)を構築できる「Agent Builder」という主に3つのレイヤーがあります。

Model GardenはGoogleが開発した「Gemini」や「Imagen」といったモデルだけでなく、AnthropicのClaudeなどサードパーティーのモデルや、オープンモデルなど150を超えるモデルの中から自社に最適なものを選択できます。

Model Builderでは、モデルのチューニングだけでなくプロンプトの管理も行えます。生成AIの回答精度を上げるためにはプロンプトエンジニアリングが重要なカギの一つになりますが、プロンプトの履歴を管理したり、複数のプロンプトによる生成結果を比較したりすることで、より手軽に、高いパフォーマンスで生成AIを使いこなすことができる機能です。

そして、Agent Builderではコードを記述しなくても、自然言語で指示を与えるだけでAIエージェントを簡単に構築できます。先ほど触れたグラウンディング技術を利用することで、生成AIの回答精度を高めることも可能です。

どのレイヤーであってもオープンなエコシステムとなっていることが、Google CloudのAI関連サービスの特徴で、お客様にとって最適なモデルをそれぞれのレイヤーで使っていただければいいと考えています。

 

首藤 当社がVertex AIを使って支援したケースを一つだけ紹介すると、国際的な物流会社の事例があります。もともとGoogle Cloud上でERP(統合基幹業務システム)やBigQuery(Google Cloudのデータウェアハウス)を運用していたのですが、生成AIエージェントを導入して、大胆な業務改革を行いました。

ERPに蓄積されている出荷データやBigQueryに入っている過去のプライシング情報などを全てAIに学習させておいて、荷主から見積り依頼が来たら生成AIエージェントに対してプロンプトを実行すると、価格や納期、輸送ルートなどの最適解を回答してくれるというものです。

従来は、過去の膨大なデータを使いながら経験値に基づいて人が見積りを作成していたのですが、AIエージェントを導入したことで見積り作成の期間が大幅に短縮されただけでなく、精度も向上しました。最終的には人間が意思決定しており、微調整を加えることもありますが、業務の迅速化と利益貢献の両面で大きな成果を挙げています。

 

デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹

 

非構造化データの活用で、価値創造は次のステージへ

企業のデータ活用といえば、これまでは主に整形された構造化データの利活用を意味した。だが、テキストや画像、動画といった非構造化データを取り扱えるAIが登場したことで、データ活用の意味とポテンシャルが大きく変わりつつある。

 

寶野 Geminiもそうですが、最近はテキストだけでなく音声や画像、動画など異なる情報を統合的に学習したり、処理したりできるマルチモーダルAIが開発され、さまざまな分野で応用されるようになっています。マルチモーダルAIを使うと、エージェントとして顧客や従業員からの問い合わせに対応できるだけでなく、今まで活用されていなかった非構造化データを分析したり、機械学習に生かしたりできるようになります。

例えば、大手放送局のTBSさんは、Gemini1.5 Proを使用して大規模なメディアアーカイブのメタデータのタグ付けを自動化し、制作プロセスでの資料検索の効率を大幅に向上させることを検討しています。

放送局には膨大な映像資料がありますが、これまでは録画したデータの何分何秒のところにどんな映像が記録されているかを人間が確認して、手動でタグ付けしていました。1時間の動画をタグ付けするのに人間がやると4時間も5時間もかかりますが、Geminiなら1分くらいで終わってしまいます。作業が大幅に効率化されるだけでなく、タグ付けが終わるまで使えなかった映像素材がすぐに使えるようになるので、報道などの即時性が高まります。

データレイクに非構造化データを大量に蓄積したものの、使わずじまいという企業が少なくないと思います。マルチモーダルAIの登場によって、非構造化データから価値を生み出せる時代がようやく来たと感じています。

 

デロイト トーマツ コンサルティング
ディレクター
中村 旭

 

中村 非構造化データの活用という点で言えば、当社の海外チームがGoogle Earth Engineの地理空間情報と生成AIを使って、自治体の都市計画を支援している例があります。従来の都市計画では、人口動態とか、地価の変動など構造化データの活用が中心でした。しかし、地理空間情報という非構造化データを使えば、どの場所に太陽光発電パネルを何枚設置できるかとか、植樹できる余地がどれだけあるかが分かります。それに生成AIを組み合わせれば、CO2(二酸化炭素)排出量がどれくらい減るかといったシミュレーションも簡単にできます。災害による被害がどの程度広がるのか、それを防ぐためにどういったインフラ整備を行うのが最も効果的かといったシミュレーションも可能です。

そのように、たくさんの仮説・検証を実行するためのデータと技術は揃ってきているので、あとはそれらをどれだけフル活用して人間の意思決定を高度化していくか、そのために意思決定プロセスやマネジメントの仕組みをどう変えていくかという問題だと思います。

 

寶野 AIの活用で一番の壁になるのが、人や組織、社会の受容性です。例えば、いきなりAIで自動化しようとしてもうまくいきません。自動運転のようにレベル1から始めて、レベル2、3と段階的に進み、特定の条件下でAIが全ての運転を行うレベル4が受け入れられ、完全自動運転のレベル5が見えてくる。その過程でチェンジマネジメントを行うことが重要ですし、カルチャーやマインドセットの変革も必要です。御社と一緒であればその道のりを安心して走ることができると考えています。

 

首藤 私たちは今、クライアントに対してAI導入ではなく、AI変革を提案しています。AIという道具を使いこなして、いかに企業変革し、持続的成長を実現するかということです。そのために、クラウドベースのインフラストラクチャーやデータベース、機械学習プラットフォーム、AIエージェントなどをトータルで組み合わせて、総合的な提案を行うことを私たちは求められています。

Google CloudとDTCの組み合わせであれば、企業が変革目的を達成するためのトータルな提案をすることができます。御社と一緒にクライアントのAI変革を実現させ、新たな社会価値、経済価値を創出していければと思います。

Google Cloud の生成 AI

 

 

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
テクノロジー部門統括技術本部長 兼 AI技術日本統括

寶野 雄太氏

 

デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹

 

デロイト トーマツ コンサルティング
ディレクター
中村 旭

Google Cloud導入支援サービス

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プロフェッショナル

首藤 佑樹/Yuki Shuto

首藤 佑樹/Yuki Shuto

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 Chief Growth Officer

テクノロジー・メディア・通信インダストリー アジアパシフィックリーダー Chief Growth Officerとして戦略・アライアンス・イノベーション・AIを含む先端技術等を統括する。また、テクノロジー・メディア・通信インダストリーのアジアパシフィックリーダーを務め、事業戦略策定、組織改革、デジタルトランスフォーメーション等のプロジェクト実績が豊富である。米国への駐在経験もあり、日系企業の支援をグローバルに行ってきた。 関連するサービス・インダストリー ・ テクノロジー・メディア・通信 ・ 電機・ハイテク >> オンラインフォームよりお問い合わせ