Posted: 24 Jul. 2024 10 min. read

AIでビジネスプロセスとデータをつなぐ SAP ® とデロイト トーマツが描く企業変革のビジョン

企業の基幹システムとその周辺ソリューションが生成AI(人工知能)と融合したとき、ビジネスプロセスはどのように進化するのか。SAPジャパン株式会社(以下、SAP)が示した「SAP Business AI」戦略からその具体像が見えてきた。SAPの本名 進氏との対談から、デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)の首藤 佑樹と内田 真治がビジネスプロセスの未来形を深く掘り下げる。

 

「SAP Business AI」が目指す世界

SAPは2023年5月、米国フロリダ州で開催したフラッグシップイベント「SAP Sapphire 2023」において、「SAP Business AI」戦略を発表した。ERP(統合基幹業務システム)を核とするビジネスプロセスのさまざまなレイヤーで、AIを活用した変革を実現できる環境を整えつつある。

 

本名 SAPはこれまでもERPのデータを統計分析したり、それに基づいた予測を行ったりするために、機械学習などのAI技術を活用できる機能を提供してきました。

一方でここ1~2年、生成AIが急速に普及したことで、実際のビジネスプロセスで生成AIを活用したいという要望が高まっていました。ビジネスで利用するAIには高い実用性や信頼性が求められ、企業としてはセキュリティーや倫理にも十分配慮した責任あるAI活用を進めていかなくてはなりません。

ビジネスプロセスにAIを組み込む、そのようなビジネスに特化したAIで、ビジネスプロセスやデータをつなぎ、企業が変革を実現できるようにする。それが、「SAP Business AI」が目指しているところです。

 

SAPジャパン
APJ カスタマーアドバイザリ統括本部 SAP Business AI Japan Lead

本名 進氏

 

首藤 今、企業経営に生成AIをどう組み込んでいくかという実践フェーズに移りつつあります。その中で注目が高まっているのが、AIエージェントです。本名さんがおっしゃったようにビジネスプロセスやデータをつなぐ上で、生成AIをエージェントとして活用する概念です。バックエンドのシステムやデータがつながっていて、一般のビジネスユーザーは生成AIを介してそれを利用できるようにする。他社に先駆けてそういう仕組みをつくり上げた企業は、劇的に生産性を高めることができ、競争力が向上します。

 

本名 SAPが実現したいのは、まさにそういう世界です。SAP Business AIは大きく分けて、デジタルアシスタント、組み込みAI機能、AIファンデーションという3つのレイヤーで構成されます。一番上のレイヤーに当たるデジタルアシスタントが、いわゆるAIエージェントであり、「Joule(ジュール)」と名付けた生成AIがビジネスユーザーのアシスタント役を果たします。

Jouleに自然言語で指示や要望を伝えれば、ERPのほか人事管理、購買・調達管理、顧客関係管理(CRM)などSAPの各ソリューションから必要なデータを参照して、伝票やレポートを作成するのはもちろん、レポートの結果を要約し、次に実行すべきアクションやインサイトを提供してくれたりします。ソフトウェアを使いこなすには一定のスキルが必要ですが、Jouleをユーザーインターフェースとして使えば、スキル習得のハードルが大きく下がり、ユーザー体験が大きく変わります。

 

デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹

 

内田 DTCでは、ERPの導入支援で生成AIをエージェントとして活用していきます。御社が提供するERPの導入をアジャイルに実現する方法論とアセットを組み合わせた「Ascend(アセンド)」というプラットフォームをグローバルで展開し始めていますが、そこに生成AIを組み込んでいく予定です。

例えばAscendでは、テンプレートの質問に答えていくと、要件定義書や詳細設計書、テストのスクリプトなど開発のひな型を作成できますが、そこに生成AIを組み合わせることで開発工数を大きく削減することができます。また、導入後の保守・運用でも、ビジネスユーザーからの問い合わせに生成AIがすぐに回答し、解決できない問題があればIT部門の担当者につなぐといった活用を想定しています。

 

データをクリーンな状態に保つことで、AIが進化する

SAPはERPに加えて、人事管理、購買・調達管理、CRM、経費精算管理など幅広い分野のソリューションを提供している。こうしたソリューション群にも今後、AIが組み込まれていく。

 

本名 先ほど申し上げたようにデジタルアシスタントのJouleが一番上のレイヤーにあり、その下のERPや各ソリューションにも組み込みAI機能を搭載していきます。

例えば、人事管理ソリューションのSAP SuccessFactors ® で、新たな採用ポジションを設定して業務範囲を定義するといったプロセスを、Jouleと対話しながら進めることができるようになります。募集をかけて、採用が決まったら、Jouleにパソコンや名刺などを用意するように指示すると、購買・調達管理のSAP Ariba ® で申請と発注が行われ、新たな人材が入社するまでに全て準備が整っているといった具合です。

Jouleは、当社のERPやソリューションのデータを学習していますので、各業務プロセスのコンテキスト(文脈)や専門知識、独自の用語などを正しく理解します。そこが、一般の生成AIとの大きな違いです。ですから、ビジネスプロセスを正しく回せるのです。

生成AIだけでなく、機械学習などを活用した従来のAI機能の組み込みもどんどん広げていきます。すでに提供済みのソリューションの一つに、債権管理のSAP Cash Applicationがあります。経理担当者は、請求情報と銀行の入金情報を突合して、入金が確認できたら売掛金として管理していたデータを消していく消し込み作業を行います。労働集約型で反復的なこの消し込み作業が自動化されている割合は一般的に3割程度で、残りの7割はマニュアルで行われています。

SAP Cash Applicationでは機械学習を組み込むことによって、自動化の割合を高めています。海外ですと、7〜8割まで自動化できているケースが数多くあります。

こうした組み込みAI機能が、ERPや各ソリューションの標準機能や追加機能として、使えるようになっていきます。

 

内田 企業には、マニュアル作業が多く残っています。例えば、受発注データのやり取りが電子化されておらず、今でもファクスが使われているケースが結構あります。

DTCでは、ファクスで送られてきた注文書を、AI-OCR(AIを使った光学文字認識)で読み取って、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)でERPに自動入力するソリューションを開発しました。

本名さんが挙げられた消し込み作業の例もそうですが、AIを組み込むことで生産性を上げられる業務プロセスは、まだ至るところに残っています。

デロイト トーマツ コンサルティング
デロイト トーマツ グループ SAP リーダー
執行役員

内田 真治

 

首藤 AIを使ってマニュアル業務を減らしていくことは重要ですが、AIでより大きな価値を出していくためには、データの正規化や標準化が大前提になります。正規化、標準化されていないデータは、AIに学習させづらいからです。整形されたデータを学習させやすい構造で保持し、そのデータをAIが学習することで常に進化する。そういう仕組みをつくっていくことが重要です。

 

本名 非常に重要なポイントだと思います。当社は、ERPの標準機能を最大限に活用するFit to Standardによって、カスタマイズを最小限に抑える“クリーンコア”を提唱しています。アドオンによってカスタマイズを進めた結果、システムが複雑になりすぎると保守運用や管理、システムの移行に伴うコストが増大しますし、当社が新機能をリリースしても、アップグレードがされないことでそれらの価値を享受いただけないことがあります。

クリーンコアのさらに重要な目的は、首藤さんがおっしゃったようにデータをきれいに整った状態に保つことです。SAP標準機能として提供されるAI機能は、SAP標準のデータモデルを前提として次々とリリースがされていきます。このクラウドサービスから得られるスピード感に加え、ERPはビジネスデータの塊ですから、そのデータから価値を生み出すには、クリーンな状態に保つことが必要なのです。

 

内田 カイゼン活動に象徴されるように現場主導で業務プロセスを改革できるのが日本の強みでしたが、これから労働力は減る一方です。10年後に今と同じ業務プロセスを維持できるかと問われたら、多くの経営者は「NO」と答えざるを得ないでしょう。

人手が足りないところでは、AIを使いながら生産性を上げていかなくてはなりません。その観点からも、クリーンコアは非常に重要なコンセプトだと思います。

 

「AI Experience Center」で最新の生成AIの体験し、変革を共創

AIを誰にとっても身近な存在にした生成AIだが、ビジネスで活用するには企業が求める信頼性や実用性に応えるものでなければならない。そして、それぞれの業種や業務に適した生成AIは、ユーザーである企業が自社のデータを学習させながら開発していく必要がある。

 

首藤 これまでは大規模言語モデル(LLM)をベースに開発された汎用的な生成AIを企業が使ってきましたが、自社のコアな業務や意思決定に活用しようとすると、より目的に特化した生成AIが必要になってきます。

自社に固有の業務プロセスや日本語の細かいニュアンスを含めて理解し、かゆいところに手が届くようなAIを開発するには、自社のデータを学習させるしかありません。

その上で、ユーザーインターフェースはAIエージェントに統一し、バックエンドで汎用型と特化型の生成AIを使い分けていくアーキテクチャーが重要になると見ています。

 

本名 その特化型生成AIを開発する基盤となるのが、SAP Business AIの3つ目のレイヤー、AIファンデーションです。大きな特徴は、当社のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)であるSAP Business Technology Platform(BTP)から、さまざまなベンダーのLLMにアクセスできることです。

目的や用途に応じて最適なLLMを選択し、ERPのデータを学習させて特化型の生成AIアプリケーションを開発することができます。自然言語による指示によってコードを自動生成するSAP Build Codeや、画像や音声、文章などの非構造化データをAIシナリオで扱いやすくするベクトルデータベースの機能などもSAP BTP上で提供します。当社のソリューションの組み込みAI機能も、このAIファンデーションで開発されています。

当社が標準機能として提供できていないものについては、このAIファンデーションを使ってどんどん開発していただきたいと考えています。企業単独での開発が難しいこともあるでしょうから、御社のようなパートナーにぜひ開発の支援をお願いしたいところです。

SAPと御社は、グローバルなアライアンスによって、これまで企業の課題解決やビジネス変革に大きく貢献してきた実績があります。日本発のAI活用による変革の事例を、一つでも多く共創していけることを推進していきたいと思います。

 

内田 比較的最近のケースを挙げれば、経費管理ソリューションのSAP Concur ® と、DTCのリスク分析サービス「Risk Analytics on Cloud」を連携させ、不正や人的エラーの効率的な把握を可能にしました。

デロイト トーマツ グループは、私たちコンサルタントだけでなく、リスクアドバイザリーや監査、税務、法務、サイバーセキュリティなど多様な分野で数多くのプロフェッショナルを擁していることが強みです。

そうした私たちの強みと御社のテクノロジー、さらにはそこにAIを掛け合わせたソリューションによって、日本企業の変革事例を共創していきたいですね。

 

首藤 私たちは2024年8月、生成AIによる企業変革を支援する共創型施設「AI Experience Center」*を東京都内に開設します。
デロイト トーマツ、経営層向けに生成AIの技術体験と活用構想の場を提供

アライアンスパートナーの協力によるデモ機ゾーンとワークショップ・セミナーゾーンから構成される施設で、デモ機ゾーンでは御社のJouleや組み込みAI機能を実際に体験することができます。そのほか、複数のアライアンス先の生成AIソリューションを取り揃えます。

企業経営層の方々に最新の生成AIを体験していただきながら、共に変革を構想・実現していきたいと考えています。


SAP、SAPロゴ、記載されているすべてのSAP製品およびサービス名はドイツにあるSAP SEやその他世界各国における登録商標または商標です。またその他の商標情報および通知については、https://www.sap.com/copyright をご覧ください。

 

 

SAPジャパン
APJ カスタマーアドバイザリ統括本部 SAP Business AI Japan Lead
本名 進氏

 

デロイト トーマツ コンサルティング
Chief Growth Officer(戦略・イノベーション・アライアンス統括)
テクノロジー・メディア・通信 アジアパシフィックリーダー
執行役員
首藤 佑樹

 

デロイト トーマツ コンサルティング
デロイト トーマツグループ  SAP リーダー
執行役員
内田 真治 

SAP導入支援サービス

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プロフェッショナル

首藤 佑樹/Yuki Shuto

首藤 佑樹/Yuki Shuto

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 Chief Growth Officer

テクノロジー・メディア・通信インダストリー アジアパシフィックリーダー Chief Growth Officerとして戦略・アライアンス・イノベーション・AIを含む先端技術等を統括する。また、テクノロジー・メディア・通信インダストリーのアジアパシフィックリーダーを務め、事業戦略策定、組織改革、デジタルトランスフォーメーション等のプロジェクト実績が豊富である。米国への駐在経験もあり、日系企業の支援をグローバルに行ってきた。 関連するサービス・インダストリー ・ テクノロジー・メディア・通信 ・ 電機・ハイテク >> オンラインフォームよりお問い合わせ

内田 真治/Shinji Uchida

内田 真治/Shinji Uchida

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

外資系のコンサルティング会社にて業務系・IT系のコンサルタントとして、特に自動車・製薬会社・ハイテク業界を中心に約20年間の経験を有する。90年代後半日本のERP黎明期からサービスを提供、ERPビジネスの第一人者。 ERP領域で年間50以上、累積で数百の改革プロジェクトやグローバルプロジェクトをリード。PMPやITCの資格を保有し、大規模プロジェクトマネージャーとしての実績を多く有する。事業責任者、経営陣の一人として事業戦略立案から売上・利益運営、人材開発、事業マーケティングなどマネジメント経験も豊富。 著書に『動き始めた日本型デジタル変革』(SAP社共同プレスリリース)、『攻めと守りのIT戦略』(東洋経済)、『在庫300億円超の専門商社を支えるERP』(東洋経済)、『Digital ReinventionとSingularity』(東洋経済)、『SAP S4HANAとのモバイル・アナリティクス連携』(IT Pro・共著)、『自動車部品業界向けERP AMSセンター』(日刊工業新聞)、『グローバル企業からみたグローバル人材」(学研)、『中小企業向けERP導入実践ガイド』(日経BP)、他多数。 関連するサービス: SAP(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ