第5回:非財務情報を信頼性のあるデータにするためのオペレーション構築 ブックマークが追加されました
当シリーズも第5回を迎えました。第3回から第4回にかけて非財務情報開示に対する保証や監査人が保証業務を実施する際に課題と感じている事項等について記載してまいりました。第5回においては、内部統制の評価が必要となる合理的保証の前段階における、そもそも適切に非財務情報を収集するために必要なオペレーションの構築について説明します。適切に情報を収集することができれば、非財務情報を戦略的に有効利用することができるようになり企業価値の向上に大きく貢献します。
オペレーションを構築するためには、3つの柱が必要になります。1つ目が組織・ガバナンスの構築、2つ目が非財務情報の収集に係る業務の制度化、3つ目がオペレーション/ITの構築です。
非財務情報の種類は多岐に渡るため、非財務情報に対する経営者のビジョンを明確にし、経営戦略上重要視する指標(KPI: Key Performance Indicator)を定める必要があります。KPIの目標値を設定し、目標を達成するための戦略実行およびリスク管理のためガバナンス体制の構築が非常に重要になります。
ガバナンス体制の構築後、KPIを適切に測定するためにはKPIを管理・運用するための組織づくりが重要になります。保証の有無に関わらず戦略的に重要な指標であるKPIはある程度の信頼性のある情報でなければならず、信頼性を担保するための組織づくりが必要になります。責任部署を明確にし、非財務情報を管理・運用するための人員を配置することにより情報が適切に管理・運用され、情報の信頼性の担保に寄与します。
また、非財務情報は、経営企画室の一角もしくは委員会・推進部等として限られた職務範囲の組織として対応している企業が多くあります。今後は、非財務情報の重要性が社会的に増していくこと、および制度開示化されることを考慮すると、より広い職務範囲を想定した組織・体制づくりが重要になります。
非財務情報を継続的に管理・運用するためには業務の属人的にしないことが重要です。企業は常に同じ業務に同じ人員を配置できるとは限らず、リソースは流動的です。非財務情報の重要性が増していく中で、業務が属人化してしまうとリソースの変動が発生した際に業務の品質を保てなくなり、信頼性のある情報を企業とし保有することができず、企業価値の低減に繋がります。そうした事態を回避するためにも財務情報の業務と同様に、非財務情報に係る業務を制度化し標準化することが求められます。
業務を制度化し標準化する前に、業務を構築しなければなりません。オペレーションの構築のためには、①プロセスの選定、②選定したプロセスの構築、③システムの構築、の3点を検討します。
「① プロセスの選定」においては、収集する必要のある情報に関連する現状の業務を把握し、プロセスを構築しなければならない範囲の選定および優先順位の判定を行います。非財務情報に関しては業務が可視化されていないケースが多く、現状の業務の把握に時間がかかることがあります。そのためプロセスの選定期間をしっかり確保することが大切です。
「② 選定したプロセスの構築」においては、まずプロセスのあるべき姿を定義します。あるべき姿の定義後、現状の業務とのギャップを識別し、ギャップに対する対応を施策し実装します。その際に、情報に信頼性を担保するため、リスクを識別し、リスクを低減するための統制を導入することも忘れてはいけません。プロセスが構築されても、そこに必要な統制が備わっていなければ情報に信頼性を担保することはできません。
また業務を効率的に行うためには、「③ システムの構築」が欠かせません。膨大な業務を効率的かつ正確に行うためには、業務にシステムを織り込むことが重要です。システムの構築は、プロセス構築後に後付けで行うと煩雑なシステムになりがちです。プロセス構築の中に組み込んで検討することが、ユーザーにとって使いやすく効率的なシステム構築のために不可欠となります。
以上が非財務情報のオペレーション構築に必要な3つの柱の検討になります。ガバナンス・組織の構築、制度化、オペレーション/ITの構築、いずれも一朝一夕に達成できるものではなく、経営者のリーダーシップのもと計画的に取り組まなければうまくいきません。このブログの中では、ページの都合上、概要の説明にとどめていますので、より詳しい内容に関心がある場合は、こちらまでご連絡いただけますと幸いです。
オペレーショナルリスク・プラクティスの日本責任者、IR(統合型リゾート)ビジネス・プラクティスの責任者を務める。 公認会計士、公認内部監査人、公認不正検査士。 2000年公認会計士登録。 【オペレーショナルリスク・プラクティス】 15年以上にわたり、リスクアドバイザリー業務に従事し、オペレーショナル・リスク領域のプロジェクト責任者を多数務める。 専門分野は、コーポレートガバナンス、内部統制、内部監査、不正対策、業務プロセス改善、リスクマネジメント、コンプライアンス、レギュレーション(規制)対応など多岐にわたる。 金融、製造業、サービス、メディア、不動産、ホテル、鉄道、エンタテインメントなど、幅広い業界に対してオペレーショナル・リスク・サービスを提供した実績を有する。 【IR(統合型リゾート)ビジネス・プラクティス】 IRビジネスに係るプロジェクトの業務責任者を多数務め、IRビジネス参入を検討する企業だけでなく、国や地方自治体に対するサポートも手がける。 世界のIR産業(カジノ産業)、IR法規制、背面調査、RFP/RFC対応、IRビジネス・リスクなどの分野を専門としている。 IRビジネスに関係の深いエンタテインメント、メディア、不動産、ホテル等でのコンサルティング業務経験を多数有する。 【著書等】 『図解 ひとめでわかる内部統制 第3版』(東洋経済新報社)、『図解 一番はじめに読む内部監査の本 第2版』(共著,東洋経済新報社)、『リスクマネジメントのプロセスと実務』(共著、LexisNexis)、『不動産[賃貸]事業のためのマネジメント・ハンドブック』(共著、プログレス)、『カジノ産業の本質』(監訳、日経BP社)など多数。