Posted: 15 Sep. 2022 4 min. read

第1回:非財務情報開示規制化の潮流 ~注視するだけの時期は終わった~

シリーズ「非財務情報開示規制化の潮流とその対応 ~迫り来る大波に備えよ~」

ESG情報開示の規制化が世界の大きな潮流となっている。IFRS財団、EU、そして米国のSECがそれぞれESG情報に関する開示基準の公開草案を発表し、世界各地から多数のコメントが寄せられている。現時点で発表されている、これら3つの規制化の動きを時系列にしてみると下図のようになる。

 

日本企業への影響に関しては、SECの規制は米国上場する企業が直接の対象となり、EUの規制(CSRD)では欧州に一定規模以上の子会社がある場合に規制を受ける。一方IFRS財団に関しては、7月に日本で立ち上がったSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が、IFRS財団の気候変動に関する開示基準を踏まえて、日本国内の基準を策定することとなっている。この基準を元に、有価証券報告書に記載すべき内容も規定されることになるため、幅広い企業に影響が及ぶ。

 

それぞれの基準案が多数のコメントを受けて最終的にどのような形になるか、企業も投資家も注視している。

 

しかし、「注視するだけ」の時期はそろそろ終わりなのではないか?自社の対応へ向けてプロジェクト組成などの行動を起こす企業がこのところ増えてきている。基準に沿った開示が求められる時期はまだ少し先のように見えるが、そのために実施すべきことを並べてみると、既にかなりタイトなスケジュールであることがわかるためだ。

 

では、実施すべきことをどのように識別するか?よく採られる方法が、求められる状態と現状のギャップ分析だ。開示が求められるデータ項目と現在開示できている項目のギャップを把握し、不足しているものがあれば開示できるようにするというのはわかりやすい例だろう。一方でそれ以外にも、多くの企業で求められる状態と現状に大きなギャップが存在する領域がある。中でも特に顕著なのが下の3点で、これらは時期の違いなどはあるものの上記の3規制で共通したものだ。

 

 

 

 1. 報告バウンダリーとしてグループ会社をカバーすることが求められる。

投資家は財務情報と非財務情報を併せて見るため、財務報告と同じ対象範囲の情報を見たいというニーズが強い。しかし現状はESG情報をグループ全体で漏れなく収集できている企業は多くない。例えば、海外の連結子会社をすべてカバーできていないケースや、環境についてはISO対応で従来から情報収集ができているが、人事情報は国ごとに制度も異なり網羅できていないケースなどがある。

 

 2. 開示した情報について第三者の保証が求められる。

3つの規制の推進母体はいずれも、開示情報の信頼性の担保のために第三者による保証を求めていくことを見据えている。しかも当初はサステナビリティレポートの保証と同水準の「限定的保証」であっても、将来的には会計監査と同等の「合理的保証」を目指すとしている。一方で企業のESG情報開示プロセスには、データの品質を担保する仕組み、いわゆる内部統制がしっかり構築されていない場合が多い。


 

3. 有価証券報告書と同じタイミングで開示する必要がある。

財務情報も非財務情報も、投資家が投資の意思決定をするために提供していることを考えれば、同時に開示されるべきだ、と考えるのは自然なことだ。しかし2022年現在を概観すると、統合報告書やサステナビリティレポートが発行される時期は有価証券報告書が出てから何か月も後になっている。これらを同時に出そうとすると、グループ全体からの情報収集プロセスを抜本的に変える必要がある。


 

これらに対応するには、組織横断のプロジェクトを立ち上げて推進する必要があるかもしれず、すると立ち上げのためのリードタイムも必要だ。またこれらのいずれにも貢献するツールとして、ITプラットフォームの導入を検討する企業が増えているが、その場合はツールの選定、導入、新たな業務プロセスの設計などタスクがどんどん積みあがっていく。

基準案に対するコメントレターでも、この大きなギャップを問題にして、「対応が間に合わないので規制導入の時期を後ろ倒しするべきだ」という意見が(主に企業側から)寄せられているとも聞く。しかし、現時点で後ろ倒しを待つのは危険だ。まずはギャップ分析でこれから登る山の高さを知り、開示までの道のりをロードマップとして描いてみることをお勧めする。

 

プロフェッショナル

達脇 恵子/Keiko Tatsuwaki

達脇 恵子/Keiko Tatsuwaki

有限責任監査法人トーマツ パートナー

これまでにESG(環境・社会・ガバナンス)、リスクマネジメント、内部統制などの各種ガバナンス関連のコンサルティングに従事。 主な実績はCSRレポート・統合報告書の作成コンサルティングやマテリアリティ評価を含むCSR戦略立案コンサルティング、およびその企業戦略への組み込み支援等。 主要著書:『水リスク 大不足時代を勝ち抜く企業戦略』(共著、日本経済新聞出版社)他多数