未来を拓くサステナビリティの取り組みとベストプラクティスの拡張「ベストプラクティス」の拡張 ブックマークが追加されました
IFRSでのサステナビリティ開示基準や欧州のCSRD/ESRS、SECの気候関連開示規則案の最終化が進む現在、有価証券報告書の開示項目にサステナビリティに関する記載欄が新設されるなど、経営戦略に企業のサステナビリティ対応が求められるようになった。サプライチェーン、Scope3、人権、生物多様性など、サステナビリティ対応の基盤となるESGデータは多岐にわたる。それら非財務情報の収集や分析だけではなく、連結で財務と同じタイミングでかつ制度や内部統制を含む第三者保証が求められる中、テクノロジーの活用は欠かせない。
今回はSAPジャパン株式会社の竹川直樹氏と上硲優子氏にお話をうかがった。
竹川氏:SAPジャパンの竹川と申します。現在、SAPジャパンでサステナビリティの事業開発を担当するグローバル組織に所属しています。この組織に10月に異動したわけですが、その前は、化学/素材業界を中心に、またそれ以前は製造業全般を対象としてSAPビジネスの事業開発に携わってきました。これからはサステナビリティ分野を専門に担当していきます。
私自身も次世代の子どもたちのために持続可能な世界を実現したいと願っています。サステナビリティに取り組むきっかけとして、2018年、弊社内で“One Billion Lives”というアイデアソンの取り組みがありました。One Billion、つまり10億人の生活や命に影響を与えるような取り組みをしようという試みです。当時私が担当していたお客様企業とともに、国連SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に該当するマラリア撲滅のための新しいアイデアを創り出し、APJ(日本を含むアジア太平洋地域)のファイナリストまで残りました。社内スタートアップとして起業できるチャンスもあったのですが、残念ながらそこまでは至りませんでした。
その時、その企業やOBの方からサステナビリティや社会活動への取り組みに関するお話をうかがう機会がありました。このとき「志ある人は、志あることをしている」と実感し、それをきっかけに「サステナビリティ」というキーワードを意識するようになりました。
竹川 直樹氏(SAPジャパン株式会社 サステナビリティGTM ソリューションアドバイザー エキスパート)
上硲氏:上硲と申します。新卒でSAPジャパンに入社し、来年で20数年になります。20年以上SAPビジネスをやっていることになりますね。
当初は販売管理系の導入コンサルとして、プロジェクトに入ってパラメータを設定していました。途中で営業支援職に変わり、消費材のお客様を支援したり、製品軸に戻って販物や会計のチームに入ったりしながら、基幹システムであるSAP S/4HANAを中心に支援を行っていました。製品軸でキャリアを積んできましたが、ここ数年はサステナビリティの製品が徐々に出てきたので、新しい製品がどういうものなのか見てみたい、深掘りしてみたいということで、2022年からサステナビリティを専門に推進する職に就いています。
現職はCOE(センターオブエクセレンス)、日本語ではソリューション事業開発部ですが、サステナビリティを一つの軸として活動しています。サステナビリティに関する深い知識があったわけではなく、製品から入って海外や日本におけるニーズ、動き、問題意識や課題の理解について勉強しながら進めているところです。
中島(デロイト):経営者や取締役会などは難しい舵取りを迫られています。ステークホルダーに配慮しつつ、様々なトレードオフの中で悩ましい意思決定をしなければならないのに、手元には必要な情報が揃っていません。その一方、開示規制が現実味を帯びてきていますし、将来的には限定的保証、合理的保証が待っているので、内部統制をきちんと整備していかなければなりません。マイルストーンとしても余裕がなくなっています。
このように、外圧として開示のルールがどんどん整備されていく中でESGデータドリブン経営をしっかり回していくための仕組み作りとしてテクノロジーが必要とされています。しかし多くの企業は、未だスプレッドシートのバケツリレーでデータを処理しており、課題が山積しています。グローバルに事業を展開する多くの日本企業の、主に財務面をERPで強力にサポートしてきた御社が、そういった企業の非財務側面を支援するソリューションとして、SAP® Cloud for Sustainable Enterprises、SAP® Sustainability Footprint Management (SFM)、SAP® Sustainability Control Tower (SCT)などの製品を提供しています。これらについてお話をうかがえますでしょうか。
上硲氏:SAP Cloud for Sustainable Enterprisesは複数の製品群の総称です。私どものサステナビリティソリューションの位置づけや戦略などからご説明しましょう。
上硲優子氏(SAPジャパン株式会社 インダストリー&カスタマーアドバイザリー統括本部 サステナビリティ推進担当)
竹川氏:まず、弊社の全体的な製品開発戦略についてお話します。当社はERPベンダーとして50年以上にわたってソリューションを提供してきました。財務データに関しては、ヒト・モノ・カネという経営資源のデータをERPで一元的に把握管理できる仕組みを提供しています。今後は非財務データも財務データと同様に扱っていくことが製品開発戦略の根幹です。直近ではカーボンフットプリントやGHGのマネジメント、情報開示への対応が喫緊の課題と想定します。
例えば、部素材の入庫処理時に在庫の数量・金額を計上するのが通常のERPの処理ですが、調達した部素材のCO2排出量といったカーボンフットプリントも同様に扱うことが期待されます。児童労働を伴わない認証を受けているかなど、調達原材料の来歴も重要になります。ヒト・モノ・カネ以外のサステナビリティデータが今後非常に大きな価値を持つようになるわけですが、カーボン以外でもリサイクル率やプラスチックの含有率なども非財務のデータとして重要なものとなってくるでしょう。
同時に、データの精度、頻度、粒度、あるいは耐監査性において、ERPが財務で提供するのと同レベルのプロセス統制を提供しつつ、それらを土台とした情報開示ができるようにする必要があります。意思決定については、精度の高いデータ、あるいは然るべきタイミングで可視化されるデータに基づいてきちんとアクションを取っていく必要がある。これまでERPの世界では当然であったことと同じ感覚で、サステナビリティティ全体のデータも扱っていくことになります。
上硲氏:ESGの課題を持つ企業からは、「一元化されたシステムがほしい」、「連結データの収集に課題がある」などの声があがっています。ERPをご提案していたときにも「部門別システムで運用していて、データを統合して見ることができない」といった課題がありましたが、これと同じ課題感がESGやサステナビリティ領域でも出てきているように感じます。そういう意味では、SAPがERPやビジネスアプリケーションで得てきた知見を活かせるのではないでしょうか。
竹川氏:お客様は長年にわたって統合基幹システムの重要性やプロセスの標準化という課題と向き合ってきました。私どもは、ERPの標準機能をなるべく変えずに、連結レベルで、グループ会社を含めて幅広く使っていただき、骨格となる業務プロセスを標準化することを推奨してきました。今後は、サステナビリティデータ、特にカーボンデータを合わせて同時に管理していかなければなりません。会計データ、すなわち財務データと同様に、トランザクション単位でのドリルダウン、高度な正確性や耐監査性、正確な情報に基づくアクションなどをサステナビリティの領域でも実現していきます。
しかし、全てをすぐに実現できるわけではありません。例えば、Scope3の領域では、カーボンフットプリントの算定のために、平均データ、すなわち、LCA(ライフサイクルアセスメント)データベースだけでなく、実績データを活用する、あるいはサプライヤーから一次データを取得することが求められつつあります。とはいえ、すぐさま一度に全てを達成するのは困難なため、まずは「できるところからやっていきましょう」ということで、優先度の高い製品群からカーボンフットプリントマネジメントに取り組むことを提案しています。
この積み重ねが、新しいERP、すなわちSAPが提唱するTransactional Carbon AccountingやGreen Ledger(グリーン元帳)を備えたERPを実現する基盤になるでしょう。
上硲氏:SAPには、ゼロエミッションや気候変動に対応するソリューション群があります。
中核となるプロダクトがSAP® Sustainability Footprint Management (SFM)です。カーボンフットプリントは、活動量×排出係数で算出されますが、例えばSAP S4/HANAを始めとした業務システムでの実績を活動量として活用し、それに排出係数を掛け合わせることで、現場の方に負荷をかけることなく、より精度の細かい正確な計算ができるようになります。
一方、排出係数は、現在ほとんどの企業が二次データを使って計算しています。そのような計算もSAP® Sustainability Footprint Management (SFM)で実行できますが、今後、よりきめ細かく算定するには、一次データを使用できる幅を増やしていく必要があるでしょう。サプライヤーから排出量のデータをもらうことによってScope3の排出係数として活用する、逆に自社で計算した値をお客様のScope3に活用していただくなどの処理を可能にするデータ交換基盤が、SAP® Sustainability Data Exchange (SDX)です。
このような処理の基盤になるのがSAP S/4HANA® Cloudです。現在はSAP S/4HANA® のデータを連携し計算に活用しつつ、調達や在庫データにCO2排出量を紐づけるという形になっていますが、Transactional Carbon Accountingというコンセプトに基づいて計算された内容を会計とも紐付けするという方向で製品開発や拡張を行っています。
三沢(デロイト):カーボンデータシェアリングは、外部と様々なデータを交換するのに役立つでしょう。経産省のアンケートを見ると、バリューチェーンの外とのデータの繋ぎに困っているという回答が多く見られました。今はどんなステージなのでしょうか。もちろんサプライヤーは考えなければなりませんが、物流パートナーなどは外部になりますよね。それらとの繋ぎ方は、それぞれ固有のものになるのでしょうか。
三沢 新平(デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社 デジタルガバナンス マネージングディレクター)
竹川氏:大まかに言うと、SAP® Sustainability Data Exchange (SDX)は、それぞれの企業の上流及び下流の取引先とのデータ連携をサポートします。実際にヨーロッパのCatena-Xでそういったデータ交換の取り組みを行っていますが、認定アプリケーションにもなっています。サプライヤーから取得したカーボンフットプリントのデータを連携し、SAP® Sustainability Footprint Management (SFM)でサプライヤーからのデータを加味して自社製品のカーボンフットプリントを算定する。その結果を、今度はお客様側と連携するという処理をサポートします。
上硲氏:データ連携に取り組もうとすると、データフォーマットの不統一やルールの未整備などが問題になりますが、そういった混乱に対応するためWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)がPACT(The Partnership for Carbon Transparency:炭素の透明性のためのパートナーシップ)フレームワークを出しています。SAP® Sustainability Data Exchange (SDX)は、Catena-XだけでなくWBCSDとも互換性があります。今後、業界別や国別でデータ交換のプロトコルが出てくると思いますが、基本的にはWBCSD準拠になると考えられます。
サステナビリティに関しては、国際的な基準を含めて業界をリードする基準との互換性を持たせた形で、今後登場するネットワークへの対応も意識しています。
三沢(デロイト):Green Ledger(グリーン元帳)はカーボンの元帳なので、製品とは異なる領域が入ってくると思います。例えば購買は、サステナビリティ調達など人権に関わるような情報も属性情報として持たせるのでしょうか。そのスコープについてご説明をお願いします。
上硲氏:SAP® Cloud for Sustainable Enterprisesには4つのカテゴリーがあり、それぞれに関連する製品があります。ERPと連携したり、他のSAPアプリケーションの中に入っていたりと、様々な形になっています。今までお話してきたのは「排出量ゼロ」に関連するものですが、人権やリサイクルに関するものも合わせて、米国SECの気候変動開示規則やISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)にも対応していきます。そのような開示のためのESG指標の収集については、「包括的な運営とレポーティング」を行うSAP® Sustainability Control Towerで対応していきます。
(図:SAPジャパン株式会社様ご提供)
竹川氏:SAPは、財務や人事はもちろんのこと、調達、サプライチェーン、顧客管理など、いわゆる基幹業務プロセスを幅広く支援するソリューションを揃えています。グリーン元帳に関連する視点としては、例えば人的資本に係る要件であればSAP SuccessFactorsというソリューションを通してデータを連携(再利用)していきます。先ほどお話したSAP® Sustainability Data Exchange (SDX)はビジネスネットワークのソリューションですし、SAP Green Tokenは原材料の来歴やリサイクル率などをISCC+の認証も含めて対応するソリューションです。サステナビリティ全般に関連する視点としては、制度要件や新しいニーズを踏まえ、製品を開発または拡張していくというのが大きな方向性であると言えます。
上硲氏:お客様がサステナビリティの課題、あるいはESGの課題と言う時、一番わかりやすいのは脱炭素ですが、それ以外にも循環型経済への対応、トレーサビリティ、サプライチェーン上の人権尊重、人的資本と、現在は様々な課題が浮上しています。その中でESG経営という最終的な目標に向かってどこから進めていくのかを考える際に、なるべく支援できるカバレッジを広くするというのも当社のポイントの一つかと思います。
三沢(デロイト):カバレッジの広さは御社の大きな特徴だと思います。企業は、CSRDなどにより自社の重要項目が何かということを考えなければなりません、脱炭素はもちろんのこと、人的資本やサステナブルな購買なども、しっかり考えていかなければなりません。また、エンドユーザーとのコミュニティが重要というケースもあるでしょう。企業ごとにマテリアリティの特徴があるので、着手する際に網羅性のある御社のソリューションはとても魅力的だと感じます。グローバルでこれらの製品が利用されている一方で、日本ではそこまで理想的に活用されている企業は少ないのではと感じていますが、その辺りについての見解をお聞かせいただけませんでしょうか。
竹川氏:日本のお客様を見ると、確かにそのような課題はありますが、課題に気づいて具体的に解決しようとする動きが見られます。近年、F2S(Fit to Standard)でのEPR導入を指向しようとするお客様が多いのはその表れです。サスナビリティの領域に関しては、企業規模やグループ会社数、人員数の観点から、大企業においてハードルは高く感じられるでしょう。一方で、中小規模の企業のお客様は素早くERPをF2Sで導入し、それを土台としながらサスナビリティ関連データ、例えば、製品別のカーボンフットプリント算定に取り組む事例が出てきています。
(図:SAPジャパン株式会社様ご提供)
三沢(デロイト):規制のスピードがどんどん速まり、具体化も進んでいる中で、気候変動やカーボンフットプリント、生物多様性から人的資本など、様々な領域にテーマが広がっており、SAPの機能拡張もスピーディーに進んでいます。SAPの製品を導入されている企業は規模が大きいので、規制の変化に機能を追随させる場合、どこで業務を決め、システム要件を決めて導入していくのか、その3つのスピード感をどう捉えるのかが非常に難しいのではないでしょうか。
上硲氏:サステナビリティの領域に限らず、SAPの製品は、機能拡張がクラウドのスピード感で提供されるようになってきています。SAP® Sustainability Control Tower (SCT)だと、CSRDと関連したESRSに関連した項目の追加や、マテリアリティのアセスメントに関連するコンテンツなどがロードマップ上に乗るケースが考えられます。
以前は、ある程度揃ってから始めるパターンが多かったのですが、サステナビリティ領域の場合、従来のやり方では対応のタイムラインに間に合わない可能性がある。企業規模に関わらず、できるところからやる、Fit to standardでやることが求められています。
中島(デロイト):財務の動きと非財務の動きは、かなりスピード感が違いますよね。財務では、仕分けして財務諸表を作っていた時代がERPに置き換わるまでに、ある程度の時間的猶予がありました。しかし非財務の場合、スプレッドシートのバケツリレーを一気に転換していかなければなりません。
規制が進み、機能拡張が進む中、大企業に導入していくハードルは高い。導入企業には、人材の育成をはじめ、様々なことを理解していただかなければなりませんし、ITベンダーや我々のようなコンサルタントは、業務やシステムを理解し、それをどう実装するのかという落としどころを見極めていかなければなりません。こうしたことをハイスピードで並行展開し、何社も一気に進めようとした時、どんな課題があるのでしょうか。それに対し、御社だけではなく我々も含めてどういう備えができるのでしょうか。
竹川氏:SAPソリューションにより、お客様のビジネスプロセスを「ベストプラクティス」ベースで構築することで標準化を進めながら導入作業を加速する、また、リテラシーを上げることが可能と考えています。サステナビリティについては、同じことが起きている領域もあれば、違う場合もあります。例えばカーボンアカウンティングに関しては、ベストプラクティスを土台に拡張するので、ビジネスプロセスの設計速度を上げられるでしょう。
一方、サステナビリティの領域はスタートアップ的なマインドで製品開発を進めている領域もあり、スピード感を持って様々な機能を追加しています。お客様やユーザー側から見て新しい領域なので、当社の開発部隊と一緒に作り上げるというマインドセットでやっています。
上硲氏:SAP® Responsible Design and Production (RDP)という、拡大生産責任に対応するソリューションも用意しています。イギリス、スペイン、イタリアなど、すでに何か国かでプラスチック税が課されているので、カーボンと同様にプラスチックの量を「見える化」するソリューションを開発しました。このようなソリューションは、お客様コミュニティと一緒に立ち上げて作っています。
サステナビリティでも、あるべき姿は何なのか、そこに向けてどのようなロードマップを描くのか、最初の1合目をどう進めていくのかということを考えていかなければならない。それらを簡易パッケージで短期的に見る際、我々のセールスサイドやサービスサイドが様々な製品やサービスを提供していきます。お客様と一緒に伴走していくという意味では、御社のように業務視点やビジネス視点から観ることができるパートナーの伴走も必要でしょう。
中島(デロイト):GHG排出量のScope1、2は算定しやすいですが、Scope3は15のカテゴリーがあり、金額、活動量、重量など算定方法が様々です。そもそもネイチャーポジティブについては明確なKPIが無く、 計算のロジックも無い。データの定義さえできないものがあります。各社固有の事情によって定義ができるものとできないものがあり、インダストリーによるバラツキが見られます。我々はこれら全体を見ながらサポートする必要がありますし、実装サイドにもそのような状況を理解していただかなければなりません。様々なところに様々なプレイヤーが関わってくる中、ボトルネックになりそうなのはどこなのでしょうか。
上硲氏:おそらく、関連するデータが社内にどれだけ揃っているのかを調べるところがボトルネックになるでしょう。場合によっては、人事部のファイルキャビネットの中にしかないものから、CSRやサステナビリティ推進部のような部署が頑張ってスプレッドシートなどを駆使して処理しているものまですべて洗い出し、最終形としてどのようにシステムに入れればいいのかというマッチングが必要です。ERPの中にあるデータが使える場合もありますが、使えない場合はどうやってそのデータを作るのかも決めなければなりません。EA(Enterprise Architecture)に近い部分が少なからず出てくるでしょう。ERPを中心とした業務アプリケーションの中でベースとなるデータモデルがある場合や、それを生成するためのプロセスがすでにパッケージ内に揃っている場合もあるので、そういったものを土台として進めていくところもあるでしょうね。
(対談の様子)
私がERPの導入やコンバージョンを担当しているお客様の中には、マスターデータとしてサステナビリティに関するデータをどう組み込めばいいのか考えなければならないという課題を持ち始めているところもあります。従来の勘定、製造のBOM、品目やお客様データなど、企業経営やビジネスに必要なデータセットはなにか、そこに今後サステナビリティ系のデータセットとして何を追加しなければならないのかということを洗い出す必要があります。
ITに関してはご支援できる部分は多々あると思いますが、ネイチャーポジティブの新たな規制が出てきた場合、当然キャッチアップが必要となります。そのような部分で皆様の専門的なご意見をいただき、それをITに落としたときにどうするのかを検討するという形で、パートナーとの連携が求められるのではと考えています。
中島(デロイト):ここまでのお話から、財務も非財務も全てSAP製品でカバーするという可能性を感じました。日本ではFI(財務会計)、CO(管理会計)と比較してSD(販売管理)、MM(購買管理/在庫管理)モジュールの導入率が低いというお話を以前にうかがいましたし、先ほどのお話にあったように多様なデータを取得するには、様々な組み合わせや、様々なところと繋いでいく必要があるでしょう。実際に、どのような事例が増えてきているのでしょうか。先ほど日本の企業で非財務の領域もSAPでカバーしましょうというお話がありましたが、うまくいかない場合のプランなどはありますか。
上硲氏:まず土台が必要なので、当社のSAP S/4HANAのクラウド、RISE with SAPというオファリングと合わせて進めていきたいと思っています。技術的には全てSAPを使っていただければありがたいのですが、状況によってはAPI経由、ファイル経由でデータを収集して、CO2排出の算定をされているところもあります。サステナビリティ以外のところでは、SAP® Datasphereというデータ管理基盤を利用して様々なデータを収集し、 それをデータソースとしてSAP® Sustainability Control Towerで一部ESGに関連するデータをフィードしていくなど、SAP以外の仕組みやデータソースとやり取りしている事例もあります。
竹川氏:お客様には、財務データに直結するコアプロセスのみならず、非財務のプロセス領域もERPで標準化することを推奨したいと考えます。サステナビリティの話をする前に、それも踏まえながら基幹業務のシステムがどうあるべきかをきちんと方向性を決めた上で進めることが求められるのだと思います。
中島(デロイト):ありがとうございます。最後に日本企業に向けてのメッセージをお願いします。
竹川氏:SAPは、非財務を含めてヒト・モノ・カネ+サステナビリティで経営資源を捉えて意思決定する、あるいはビジネスプロセスを整備改善するというところに貢献していきたいと思っています。また、サスナビリティは自社だけでどうにかできるわけではないテーマが増えてきているので、お客様と取引先との連携もデジタル化の観点から支援しなければならないとも思っています。カーボンフットプリントの分野だけでなく、調達先の人権問題、サスナブル調達、循環型経済への移行など、様々な取り組みをサポートしていきたいですね。
SAPとしては、個社の基幹システムの最適化、プラス、サプライチェーンを跨いだビジネスネットワーク、すなわち他企業との連携のデジタル化を強力に支援しようとしています。今日いくつかご紹介した製品は、そのような文脈から捉え直すことができるソリューションです。
三沢・中島(デロイト):ありがとうございました。
(左から、三沢、中島、上硲氏、竹川氏)
コンサルティングファームおよび外資系ソフトウェア会社にて、デジタルトランスフォーメーション戦略、ビジネスモデル設計、デジタルマニュファクチャリング構想・設計、スマートファクトリー構想・設計、温室効果ガス(GHG)排出量削減を中心としたサステナビリティ戦略などをテーマに、自動車業界および製造業のお客様を中心にビジネス戦略を支えるDXコンサルティング業務に幅広く従事。 デロイト トーマツ グループに入社後は、デジタルガバナンスのマネージングダイレクターとして、自動車・製造業向けに複雑化・不安定化が増すサプライチェーンxサステナビリティxデジタル領域のリスクアドバイザリー関連サービスを提供。
有限責任監査法人トーマツ所属。外資系大手コンサルティング会社、サステナビリティコンサルティング会社を経て現職。サステナビリティ経営や脱炭素戦略の策定、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応及び気候変動シナリオ分析などに従事。