注目のフレームワーク SBTs for Nature v1.0 のポイント ブックマークが追加されました
2023年5月24日に、科学に基づく自然に関する目標設定(SBTs for Nature)のガイダンスが公表されました。SBTs for Natureは気候変動SBTの自然版であり、土地・海洋・淡水・生物多様性の4分野における自然へのプレッシャーを評価し目標設定に至るまでの方法論を提起しています。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)とも密接に係る重要なフレームワークであり、本稿では今回リリースされた種々のガイダンスに含まれる重要なポイントについて概説します。
SBTs for NatureはScience Based Targets Networkにより開発中の、自然分野における目標設定に関するフレームワークです。バリューチェーン上の土地・海洋・淡水・生物多様性の各テーマに関して、企業活動が地球範囲で与えうる影響を測定し、持続可能な目標を設定し具体的な行動に結びつけることを目的としています。
今回のリリースで、企業が自社の活動を評価・優先順位付けし、行動目標を設定、実行するための5つのステップのうち、最初の3ステップが示されました。今後、関連事項の補足ガイダンスなどを作成しながら、2025年をめどに残りのステップを含めてフレームワーク全体を開発するとしています。
SBTNフレームワークは土地・海洋・淡水・生物多様性の4領域において、下記5つのステップから構成されています。ステップ1と2は全領域共通、ステップ3以降は個別領域ごとのガイダンスが作成されます。今回のリリースには、ステップ1,2とステップ3の一部(土地と淡水)が含まれています。
図1. SBTNの5ステップアプローチ
ステップ1 (分析・評価)では、マテリアリティ分析とバリューチェーンのプレッシャー評価を実施します。このステップの目的は、バリューチェーンにおけるさまざまな企業活動を整理し、企業が迅速かつ比較的に簡単なアセスメントによって、自然へのインパクトが最も大きい部分を特定することです。重要セクターを特定するマテリアリティスクリーニングツール、自然への付加の大きいコモディティのリスト、自然へのインパクトを評価するツールの一覧表もリリースされており、これらを駆使して事業活動の初期評価及びバリューチェーンの重要課題の特定を行います。
V1.0ではバリューチェーンの上流・直接操業のみ対象になっており、下流の評価は求められていません。今後のガイダンスにて下流の評価方法の提示がある見込みです。
図2. 出典:SBTNマテリアリティスクリーニングツール(Materiality Screening Tool)
次のステップ2(解釈・優先順位付け)では、ステップ1の分析結果を解釈して、実際に目標設定をすべき課題や場所を絞り込みます。事業活動ごとのプレッシャーのデータ、自然の状態 (SoN) データ、それらの活動に紐づく直接操業拠点の地理情報を用いて、優先的に対応する事業や拠点を洗い出します。この結果により、相対的な評価によりインパクトや緊急度の高い操業拠点のランキングを作成することができます。
優先順位付けをするにあたっては、プレッシャーや自然の状態の定量的なデータだけでなく、事業活動に関係するステークホルダーの存在等の定性情報も一定考慮する必要があります。
図3. 出典:SBTNステップ2技術ガイダンス(Technical Guidance)
目標設定の核となるステップ3 (計測、設定&開示)では、領域ごとにベースラインを決めて、測定可能な行動目標を設定し、その目標と行動計画を開示します。以下で、淡水と土地に関するステップ3の概要を説明します。
【淡水】淡水の「水量(取水量)」と「水質(排水におけるリン・窒素の浸水量)」の2つの観点でのSBT目標設定方法について、以下の手順で解説
① 関連ステークホルダーとの協議による適切な流域モデルの選択
SBTN流域閾値ツール(開発中)を活用して、事業活動流域ごとに、適切な流域モデルを選択する
② ベースラインの測定
事業活動流域ごとに、淡水の量/質に関する現状値を測定し、ベースラインとする
③ 最大許容プレッシャーの特定
事業活動流域ごとに、「自然の望ましい状態」と「②のベースライン」の間のギャップから、許容される最大のプレッシャーレベルを特定する
④ 目標値の設定・開示
淡水の量/質に関する目標を設定し、検証と開示のためにSBTNに提出する
【土地】3種類の土地SBTの設定方法を解説
① 自然生態系の転換の停止
目標日と要件の理解、Natural Land Mapツールを活用したベースラインデータの準備、中核自然地による優先順位付け、目標の設定と検証
② 土地のフットプリントの削減
ベースライン内のフットプリントの計算、フットプリント削減方法の選択、削減目標の設定と検証
③ ランドスケープエンゲージメント
ランドスケープの選択、ベースラインの計算、改善のコミット、行動計画の策定、目標の設定と検証
SBTs for Natureとともに注目を集めているのが、2023年9月にV1.0(最終版)が公表されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。TNFDは自然関連の情報開示に関する包括的なフレームワークの設計を進めており、とりわけ目標設定や実際の行動に関する方法論はSBTs for Natureを参照することを推奨しているため、生物多様性の保全に取り組む企業は将来的にはこれら2つの枠組を両輪で推進する必要があります。SBTs for Natureの開発が完了するのは2025年の予定ですが、今般公表されたSBTs for Nature v1.0及びTNFDの枠組を参考にしながら、まずは自社の立ち位置・ビジネスと自然とのかかわりを把握することから始めることが重要です。
なお、今般公開されたTNFD V1.0の概要については関連リンクをご参照ください。
デロイト トーマツ グループは、自然資本・生物多様性をはじめとするサステナビリティに関する深い専門知識と実績、そして様々な組織と協力してきた経験に基づき、SBTs for NatureやTNFDへの対応(自然への影響の定量的評価及び目標設定、自然関連のリスクと機会の評価、リスク低減のための管理、ビジネス戦略策定を通じた機会の最大化等)をご支援しています。企業の長期的価値の構築に向けたサポートに関心がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
Science Based Targets Network(外部サイト)
https://sciencebasedtargetsnetwork.org/
TNFD最終提言のポイント
https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/risk-management/2023/tnfd-september-point.html
■関崎 悠一郎/Yuichiro Sekizaki(有限責任監査法人トーマツ ESG統合報告アドバイザリー)
企業のサステナビリティに関わる環境分野の分析・評価や戦略策定から自然再生プロジェクトの実行まで、特にビジネスと生物多様性の分野で10年以上のコンサルティング経験および生態学研究の経験を有する。「TCFD関連・シナリオ分析サービス」や「生物多様性に関する包括的戦略策定サービス」、TNFD対応など主に気候変動・生物多様性領域を担当。
■沢登 良馬/Ryoma Sawanobori(有限責任監査法人トーマツ ESG統合報告アドバイザリー)
環境省で国立公園の保全管理や生物多様性ビジネスに関する施策立案等の行政経験を経て現職。主に生物多様性領域を担当し、自然関連のリスク・機会分析やTNFD情報開示等のプロジェクトに参画。
■呉 妍菲/Yanfei Wu(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー)
大学院で生態系の研究、大手メーカー勤務を経て現職。デロイト トーマツでアセット開発、新規事業推進をしながらクロスファンクションで生物多様性関連のリスクアドバイザリー業務に参画中。
※所属などの情報は執筆当時のものです。