Posted: 22 Sep. 2023 5 min. read

TNFD最終提言のポイント

自然関連の情報開示フレームワーク、最終ドラフトからの更新ポイントを解説

2023年9月18日に、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークのv1.0(外部サイト・英語)が公表されました。本レポートは、自然に関する情報開示フレームワークの最終提言となります。本稿ではベータ版 v0.4からの更新された主要な部分に焦点をあて、重要なポイントを概説します。

TNFDとは?

これまでの記事で解説した通りTNFDは、自然に関して企業が情報開示するためのフレームワークを開発している国際イニシアティブです。2023年3月のベータ版 v0.4に続いて、今回2023年9月18日に公表されたv1.0が最終提言となります。尚、セクターガイダンス等の補足ガイダンスは今後も継続的にリリースされる予定です。

v1.0で新しくなったポイント

TNFD v1.0におけるフレームワークの中核部分と全体構造はv0.4から更新されていません。今回変更されたポイントの中でも主要な項目は次の通りです。

  1.  一般要件および開示推奨項目
  2. LEAPアプローチとガイダンス
  3. 開示指標
  4. シナリオ分析

 

1.一般要件および開示推奨項目

TNFDでは、TNFDフレームワークを適用する際にセクターを問わず組織が考慮すべき一般的な要件として以下の6点が示されています。v1.0では、この一般要件が更新されており、特に6)のステークホルダー・エンゲージメントについて、より具体的な内容に更新されました。

1)    マテリアリティの適用
※TNFDはISSBの重要な情報(material information)の定義をベースラインとして使用することを推奨しています

2)    開示の範囲

3)    自然問題の所在(組織の自然との接点の地理的位置を考慮すること)

4)    その他サステナビリティ関連開示との統合

5)    考慮された時間軸(関連する短期、中期、および長期の時間軸と考えられるものを記述すべき)

6)    先住民族、地域社会、影響を受ける利害関係者が、組織の自然関連問題の特定と評価に関与すること

 

また、4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクと影響の管理、指標と目標)に紐づく開示推奨項目についても改訂が加えられています。主要な更新ポイントは次の4点です。

  • 【ガバナンスC】ステークホルダーに関する組織の人権方針、およびエンゲージメント活動、またその監督に関する項目の追加
  • 【戦略D】優先地域(priority locations)を重要な地域(material locations)と影響を受けやすい地域(sensitive locations)に分けて定義
  • 【リスクと影響の管理A(ⅱ)】バリューチェーンにおける自然関連の依存関係、影響、リスク、機会の特定に加えて、評価、優先順位付けプロセスが追加
  • 【指標と目標】開示指標が「重要な」指標ではなく、全てのコア指標に変更
2.LEAP アプローチとガイダンス

TNFDでは、自然関連の影響と依存の関係やリスクおよび機会の評価におけるLEAPアプローチが提示されています。v1.0では、Locate、Evaluate、Assess、Prepareの4つのフェーズに変更はありませんが、各フェーズの内容が改訂されました。主要な改訂ポイントは次の通りです。(図1)

1)    スコーピング:簡素化され、より焦点を絞ったガイダンスに更新された

2)    依存と影響のスクリーニング:セクター、バリューチェーン、特定の場所についてフィルターをかけることで、詳細な評価を管理しやすく更新された

3)    インパクトマテリアリティ評価・リスク/機会マテリアリティ評価:ISSBおよびCSRDといった新基準の要件に適合し、インパクトマテリアリティの特定が追加された

4)    L,E,A,Pそれぞれが対応する開示推奨項目が表示された

図1 TNFDv1.0におけるLEAPアプローチ

(出所:TNFD, Guidance on the identification and assessment of nature related issues: The LEAP approach Version1.0 https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/08/Recommendations_of_the_Taskforce_on_Nature-related_Financial_Disclosures_September_2023.pdf

3.開示指標

TNFDでは、開示が必要な指標としてコアグローバル指標とコアセクター指標、必要に応じて開示が推奨される指標として追加指標が整理されています。

v1.0では、コアグローバル指標が自然への依存と影響に関する9つの指標と自然関連のリスク・機会に関する5つの指標の計14の指標に整理されました。また、コアグローバル指標は原則全て開示することを求め、開示できない場合はその理由を説明すべきとしています。

一方、TNFDはすぐに全てのコアグローバル指標について開示することは期待していないとしているため、まずは開示可能な範囲での対応が想定されます。

 

4.シナリオ分析

開示推奨項目の戦略Cでは、 自然関連のリスクや機会に対する組織戦略のレジリエンスを説明する際に、様々なシナリオを検討するよう組織に求めています。v1.0では、TCFDのシナリオ分析ガイダンスを基に、シナリオ分析に関するガイダンスを作成し、気候変動と自然を統合的に考慮できるようにしました。

TNFDは、物理的リスクと移行リスクに密接に関連する2軸のアプローチ(図2)を利用したカスタマイズされたシナリオを考案すること、そして、初期的な演習のために専門家との参加型ワークショップの開催から開始することを推奨しています。シナリオ分析のガイダンスでは、この演習を実施するための段階的なアプローチが示されています。

図2 TNFDの自然リスクシナリオ

(出所:TNFD, Recommendations of the Taskforce on Nature-related Financial Disclosures https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/08/Recommendations_of_the_Taskforce_on_Nature-related_Financial_Disclosures_September_2023.pdf

 

尚、v1.0時点では、既存の気候シナリオに匹敵する定量的な自然シナリオは開発中とされており、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)にて採択されたターゲットのシナリオ分析への統合は、現段階では初期段階にあります。

今後の対応として、TNFDは気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)や他のパートナーと協力し、より高度なアプローチの開発に関心を持つ金融機関や多国籍企業のために、自然関連のシナリオ分析に関するさらなるガイダンスを作成するとしています。

デロイト トーマツ グループは、自然やサステナビリティに関する深い専門知識と実績、TNFDフレームワークの開発への継続的な関与、そして様々な組織と協力してきた経験に基づき、TNFDへの対応(LEAPアプローチに沿った、事業と自然との関連性の整理、自然関連のリスクと機会の評価、リスク低減と機会獲得のための管理、ビジネス戦略策定を通じた機会の最大化)をご支援しています。企業の長期的価値の構築に向けたサポートに関心がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

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執筆者

関崎 悠一郎(有限責任監査法人トーマツ ESG統合報告アドバイザリー)
企業のサステナビリティに関わる環境分野の分析・評価や戦略策定から自然再生プロジェクトの実行まで、特にビジネスと生物多様性の分野で10年以上のコンサルティング経験および生態学研究の経験を有する。「TCFD関連・シナリオ分析サービス」や「生物多様性に関する包括的戦略策定サービス」、TNFD対応など主に気候変動・生物多様性領域を担当。

※所属などの情報は執筆当時のものです。