Posted: 03 Apr. 2023 5 min. read

TNFDベータ版v0.4の更新ポイント

自然に関する情報開示フレームワークの最終ドラフトを解説

※本ブログは、こちらのブログを翻訳・要約したものです。訳文と原文に相違がある場合は、原文の記載事項を優先します。

2023年3月28日に、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークのベータ版 v0.4が公表されました。本レポートは、9月に予定されている自然に関する情報開示フレームワークのリリースに向けた最終ドラフトとなります。本稿ではベータ版 v0.3から新たに追加・更新された部分に焦点をあて、重要なポイントを概説します。

 

TNFDとは?

これまでの記事で解説した通りTNFDは、自然に関して企業が情報開示するためのフレームワークを開発している国際イニシアティブです。2022年11月のベータ版 v0.3に続いて今回2023年3月28日に公表されたv0.4は、2023年9月に予定されているフレームワークのリリースを前にした最終ドラフトとなります。

v0.4で新しくなったポイント

TNFD ベータ版 v0.4におけるフレームワークの中核部分と全体構造はv0.3と共通しており、これは最終報告となるv1.0でも踏襲されると考えられます。下図は、v0.4で追加・変更された点をまとめたものです。

※クリックまたはタップして拡大表示できます

(出所:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft - Beta v0.4, 2023) 

1.開示に関する勧告とガイダンスの更新

ベータ版v0.4では、TNFDフレームワークを適用する際にセクターを問わず組織が考慮すべき一般的な要件が改訂されています。一般要求事項1)、5)、6)は、ベータ版v0.1から新たに追加されたものです。

1) マテリアリティ・アプローチ
2) 開示の範囲と対象
3) 依存と影響の評価に基づく、自然に関するリスクと機会の特定
4) リスクと機会の評価における、組織と自然との接点(ロケーション)の組み込み
5) 気候変動を含む、自然関連の開示と他のサステナビリティ関連の開示の統合
6) ステークホルダー・エンゲージメント

またv0.4では、4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクと影響の管理、指標と目標)に紐づく開示推奨項目に改訂が加えられました。これらの改訂は、バウンダリーやバリューチェーン、時間軸といった観点をより強調するものです。
さらに、金融機関向け開示ガイダンスも改訂されました。本ガイダンスは、銀行、保険会社、資産運用会社、資産所有者、開発銀行等、TNFDが優先している金融サービス業が対象となります。

 

2.LEAP アプローチとガイダンスの更新

TNFDでは、自然関連の影響と依存の関係やリスクおよび機会の評価におけるLEAPアプローチが提示されています。v0.4では、Locate、Evaluate、Assess、Prepareの4つのフェーズは変わっていませんが、一部の改訂がなされました。パイロットテストからのフィードバックに基づき、Scopeフェーズにおいて、金融機関向けと同様の企業向けスコープ質問を更新しました。またLocateフェーズに関するガイダンスも強化され、優先的に検討すべき地域を特定するための基準(パイロットテストで特定された重要な課題)が提示されました。Assessフェーズにおける新しいガイダンスでは、自然関連のリスク評価を行うための3つの方法について説明しています。

  • 「深掘り」分析を行う領域を決定するためのヒートマップ
  • ヒートマップで潜在的に重要であると特定した分野における、依存と影響に焦点を当てる対象の絞り込み
  • シナリオ分析による自然関連リスクの財務的影響評価(主に金融機関が対象ですが、特に複雑なバリューチェーンを持つ大企業も対象となります)

また、パイロットによるフィードバックを反映し、LEAP プロセスの可視化が盛り込まれました。特に、Locate~Evaluateフェーズにおいてスクリーニングと深掘り分析などが反復的に実施されることから、企業および金融機関双方にとって実務上有用となるよう修正されました。 

 

3.新しい指標案とガイダンス

TNFDは、経営上の意思決定を行うために内部で使用する「評価指標」と、TNFDに準拠し説明するための「開示指標」とを区別しています。v0.4では、双方の指標案が拡張・改訂されています。

  • 評価指標案(LEAP アプローチの各段階)
  • LEAPのLocateフェーズにおける指標に関するガイダンスの更新
  • LEAPのPrepareフェーズにおける指標に関する新たなガイダンス(対応指標)
  • 開示指標の草案を①コア指標(全セクター対象のグローバルコア指標およびコアセクター指標)、②追加指標、の2つに区分

これらの指標は、評価の困難な自然の測定において詳細かつ明確にアプローチすることを助けるためのものです。v0.4では、農業・食品セクターと熱帯林バイオームの事例を掲載し、利用者の理解を促しています。指標に関するフレームワークは今後の更新において、複雑なバリューチェーンを持つセクターなど特に適用が難しい領域の改訂を続けていく予定です。

 

4.目標設定とシナリオに関するガイダンス

v0.4では、目標設定に関する新たなガイダンスがリリースされ、科学的根拠に基づく自然に関する目標設定にSBTNフレームワークを適用することを推奨するとともに、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)のモニタリングおよびその他の国際イニシアティブや規制との整合性を確保することを推奨しています。

またシナリオ分析に関しては、組織にとっての自然関連リスクが将来どうなるかを検討し、事業戦略や財務計画のレジリエンスを検証するための新しいガイダンスがリリースされています。9月に予定されている最終版v1.0に向けて、まだ未完成なシナリオ分析の要素を洗練させるためのアプローチや資料、ガイダンスに関するTNFDへのフィードバックが奨励されています。

 

5.その他のガイダンス更新・追加

v0.4では、企業が自ら LEAP フレームワークを適用するのを支援するため、特定のセクターおよびバイオームに関連する追加的なLEAPガイダンスがリリースされました。セクター固有の追加ガイダンスは、4 つの主要セクター(金融機関、食品・農業、鉱業・金属、石油・ガス、エネルギー)を対象としています。バイオーム・ガイダンスは、4 つの主要なバイオーム(熱帯林、海洋保護区、河川・河川、集約的土地利用)を対象とし、組織が自然との相互関係を理解することを目的としています。

また、ステークホルダー参画に関するLEAPガイダンスも更新されています。意思決定プロセスにおける先住民や地域コミュニティへの配慮の重要性が強調されており、組織が自然関連課題の社会的・文化的側面をLEAPアプローチと開示に統合することを支援するためのガイダンスです。

今、何ができるのか?

TNFDの最終的なフレームワークと開示勧告(v1.0)は、2023年9月に公表される予定です。6月1日まで、TNFDはTNFDのウェブサイトを通じて、ベータ版v0.4に対するフィードバックを受け付けており、それらを反映した最終化が行われます。

企業、機関投資家、規制当局の注目が高まる中、TNFDが自然関連の情報開示をリードするフレームワークになることが期待されており、またその他のグローバルな報告基準への統合が進み、ネット・ゼロやネイチャー・ポジティブへの移行に向けて規制面も整備される可能性があることを踏まえると、企業はv1.0リリースまでに以下のような準備を始めることが可能です。

  • TNFDフォーラムのメンバーになり、最新動向を把握するとともにオンラインプラットフォームを通じてフィードバックを提供する
  • TNFDに沿った分析を試行して自然関連のリスクと機会を理解するとともに、フレームワークに対応するためにどのような要素が足りていないのか、追加的に必要となる管理はどのようなものかを把握する(金融、食品・農業、鉱業・金属、エネルギーセクターであれば補足ガイダンスを活用する) 

 

デロイトトーマツグループは、自然やサステナビリティに関する深い専門知識と実績、TNFDフレームワークの開発への継続的な関与、そして様々な組織と協力してきた経験に基づき、TNFDへの対応(LEAPアプローチに沿った、事業と自然との関連性の整理、自然関連のリスクと機会の評価、リスク低減のための管理、ビジネス戦略策定を通じた機会の最大化)をご支援しています。企業の長期的価値の構築に向けたサポートに関心がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

執筆者

Guy Williams - Director, Risk Advisory
guwilliams@deloitte.com.au

Anne-Claire van den Wall Bake-Dijkstra - Partner
acvandenwallbake@deloitte.nl

Ivan Kukhnin - Partner
ikukhnin@deloitte.nl

 

翻訳監修

関崎 悠一郎/Yuichiro Sekizaki デロイト トーマツ グループ マネジャー