Posted: 12 Apr. 2022 4 min. read

日本企業の勝ち筋たる、「ブルーエコノミー」とは(前編)

2030年までに約500兆円。海を守りながら持続的な経済圏の発展を目指す

2030年までに、海洋資源を利用すればするほど地球環境がよくなる世界へ

ブルーエコノミーとは、地球表面積の7割を占める海に注目し、その可能性を解放することで経済価値と社会価値を創造する概念である。モニター デロイトの試算では、2030年までにブルーエコノミー関連の市場規模は約500兆円に達する見込みだ。

※クリックかタップで拡大

海洋資源は、漁業・養殖業などの水産業だけでなく、海運、エネルギー、観光など様々な業界と密接な関わりがあり、海洋自体、重要な二酸化炭素の吸収源(人為起源二酸化炭素排出量の約30%)でもある。また、このまま地球の気温上昇が続けば、2050年までに世界のサンゴが絶滅し、海の生態系に甚大な影響を及ぼすと言われるなど、海洋を生物多様性の重要なピースとして捉える視点も欠かせない。

 

2030年に向けては、生物多様性に関する新たな国際目標として検討されている「30by30」※の考え方に基づき、世界の海域の少なくとも30%を保全・保護することを目指す必要がある。そのためには、2030年までに生物多様性の損失を食い止め反転させ、むしろ回復させるネイチャーポジティブの取組みを進めることが、国際的に企業にも求められていく。近年、海洋プラスチックごみや海洋資源の乱獲などの問題がメディア等で顕著になっているが、課題を背景に経済活動への利活用を控えるのではなく、むしろ適切に利用することによって地球環境をより良くし、海洋の持続可能な発展を促しつつ経済成長に繋げることが重要なのだ。

 

※30by30(サーティー・バイ・サーティー):2021年のG7 サミットで合意された2030 年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)という目標達成に向け、 2030年までに世界及び自国の陸域・海域の少なくとも 30 %を保全・保護することを目指す目標。2022年4月8日には、デロイト トーマツも参画する「生物多様性のための30by30 アライアンス」が環境省他による主導のもと国内でも立ち上がった

 

ブルーエコノミーは具体的に、「既成分野」と「新興・革新分野」から構成される。

※クリックかタップで拡大

既成分野には先に挙げた、漁業・養殖業・水産加工業など海洋生物資源を扱う産業や石油・ガスなどの非生物資源を扱う産業のほか、造船・輸送・観光業などが分類される。中でも特に観光業はサステナブルツーリズムの文脈でも近年消費者を中心に注目が高まりつつある。一方、新興・革新分野には洋上風力などの海洋再生可能エネルギーや海洋鉱物、ブルーバイオテクノロジー、海水淡水化、廃棄物処理等が分類され、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーとの関連の強さからも近年、企業の取組みが加速している。

海域面積で世界第6位のポテンシャルを持つ日本

ブルーエコノミーの分野では、既に日本にも海水淡水化用の膜を提供する化学メーカーなど、海洋分野で技術力等を強みとする企業が多数存在する。しかし、前述のネイチャーポジティブのような国際的な潮流等も踏まえ、日本として海洋やその生態系に対しさらにどのように向き合っていくべきか、は重要な論点だ。たとえば、SDG14「海の豊かさを守ろう」の達成度で日本は気候変動やジェンダー格差と同様低い評価を受けている事実がある。国際社会に対して責任を果たすためドラスティックな対策が必要だ。そもそも海洋国家たる日本は、排他的経済水域と領海を足した面積で世界第6位を誇り、ブルーエコノミーに関連する海洋産業の国内市場規模は2030年には約28兆円に達する見込みだ。さらに、近年天然ガスの主成分となるメタンハイドレートやレアメタルが発見されており、各課題をクリアすることで資源大国となるポテンシャルもある。

 

日本政府としてもブルーエコノミーを後押ししており、河野太郎元外務大臣は第7回アフリカ開発会議(TICAD7)にて、「海洋国家である日本はブルーエコノミー推進が重要」と発言し、G20大阪サミットで共有された大阪ブルー・オーシャン・ビジョン実現のため、安倍元総理主導のもと、日本の「マリーン(MARINE)・イニシアチブ」を立ち上げた。また、2022年2月には、フランスで開かれたワン・オーシャン・サミットにて岸田総理が「海洋国家日本として美しい海を守るべく、世界の皆様とともに、全力で取り組んでいく決意である」と言及し、海洋プラスチックごみ対策や海運・港湾の脱炭素化等への貢献に向けた決意表明を行った。

 

こうした国際社会や政界の流れを受け、企業が果たす役割も益々大きくなるはずだ。特に、これまでのような漁業・養殖業を主なターゲットとしたプロダクトアウトによる個別最適ではなく、大義を下にした異業種との連携やプラットフォームの構築、業界横断による取組み等が当たり前に求められていき、全体最適の考え方が必須となるだろう。

 

(後編に続く)

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

プロフェッショナル