【Corporate as a Serviceプロフェッショナルに訊く Vol.2】コスト削減から戦略的投資へ。経理業務「丸ごと受託」がもたらす企業変革―経理部門の戦略的進化を支える「Corporate as a Service」とは ブックマークが追加されました
―― 前半では日本企業の経理部門が抱える現在の課題を伺いました。経理業務が複雑化する状況下、従来のBPOでは専門的な業務の代行やスキル人材の不足解消に対応できないとのご指摘でした。Corporate as a Service(以後、CaaS)はこうした課題を解決するものだとのことですが、その理由を教えてください。
小林:デロイト トーマツ リスクアドバイザリー(以後、デロイト トーマツ)が提供するCaaSは、企業のコーポレート部門の支援に特化したサービスです。各部門が直面する専門的な課題に対して、私たちのコンサルタントと会計監査の専門家、そしてITシステムのプロフェッショナルたちが一気通貫でクライアントを支援します。中でも注力し、かつニーズが高いのが経理部門向けのサービスです。群馬県前橋市にオペレーションセンターを持ち、経理、会計業務に携わった経験のあるスタッフが、クライアントの経理部門の管理職業務も含めて受託する、新しい形のBPOです。
具体的には、管理職層の業務を分析し、「本当に社内でなければならない業務(コア業務)」と「外部委託可能な業務(ノンコア業務)」を見極めます。私たちの調査では、課長職の社員でも30~50%程度は外部に委託可能な業務に時間を取られているケースがあることが判明しています。これらの業務をデロイト トーマツが引き受けることで管理職層の時間を創出し、より戦略的な業務に注力できる環境を提供するものです。
―― 「コア業務」と「ノンコア業務」の見極めはどのように実施するのですか。
小林:最初に管理職の業務を詳細に分析し、コア業務かノンコア業務かを見極めます。コア業務とは経営方針に基づく方針・計画策定や戦略の立案等が挙げられます。例えば、経理部門の課長であれば、「会計方針の意思決定」はコア業務です。これらは管理職層が会社の方針や経営戦略を策定していくものであり、社外の者が決定することは憚られます。
一方、ノンコア業務は、通常業務における確認・検証、問合せ・トラブル対応、各種資料の作成、会計的検証等があります。これらは外部委託が可能な業務と判断しています。
―― なるほど。CaaSでは課長職層も担当していたノンコアのマネジメント業務まで網羅するのですね。基本的な質問ですが、なぜ管理職業務まで対応できるのですか。その仕組みを教えてください。
小林:それはデロイト トーマツ リスクアドバイザリーを含むデロイト トーマツ グループが、経理経験者や会計の専門知識を持った人材を提供できるからです。私たちは、プロフェッショナルサービスファームとして監査やコンサルティングを提供しており、社内には会計分野のスペシャリストや経験者が数多く在籍しています。また、社外からも企業での経理実務経験者を積極的に採用しています。クライアント企業の課長職の代行にあたるのはこれらの経験者・スペシャリストです。
企業の経理課長職層は、多岐にわたる業務を担当しています。例えば、会計専門知識を必要とする業務、他部署からの相談対応、処理エラーや間違いのリカバリー対応指示、経理品質確保のためのチェック業務、配下メンバーの労務管理、部門メンバーへの情報共有や相談事への対応等さまざまです。多くの方が「プレイングマネージャー」として業務に追われている状況です。私たちが擁するスタッフには、前職や前々職で経理業務に管理職として携わっていた人間が少なくありません。そうした課題に対するアプローチの仕方を実体験として理解しているからこそ、専門性の高い支援が可能になるのです。
――デロイト トーマツ側の担当者は、過去に自分が管理職の立場だった人材なのですね。
小林:はい。ですから単に「オペレーションの経験が5年あります」という人材ではなく、相応の経験を持った専門人材が担当します。つまり会計業務の「なぜ」を理解し、会計原則に基づいて業務の目的や必要性を専門的に説明できる人材です。課長職層の業務代行には、業務の必要性について専門的な知識から明確に回答できるレベルの知識と経験が不可欠なのです。
CaaSの最大の優位性は、コンサルティングとBPOを融合させている点にあります。CaaSでは単に業務を引き受けるだけでなく、プロセスの精緻化と効率化を検証・ご提案しながら同時にBPOを実施します。これにより、業務の単純な置き換えではなく、ビジネスプロセス自体の最適化も同時に実現できるのです。
例えば、財務会計業務の改善に際しては、最初に詳細な業務分析からスタートします。そしてOCR(Optical Character Recognition=光学文字認識)ツールやAIツール等の最新テクノロジーで自動化・効率化できる部分と、経理の専門知識を持つ人間の判断が必要な部分を明確に切り分けます。具体的な例を挙げると、複数のデータ入力、データ集計や基本的な分析はシステム化できますが、個別の案件における会計的検討や管理会計要件の反映方法や改善策を導き出す過程では、会社の事業特性や企業文化への深い理解が必要になります。
また管理会計との連携においては、正確かつ目的に即した実績提供が必要になってきますので、単なる数値処理ではなく数字の背景にある事業実態を把握する能力が求められるのです。
このプロセスを成功させるためには、経理部門と事業部門との密接なコミュニケーションが不可欠です。CaaSのチームには経理部門での実務経験が豊富なスタッフが多数在籍していますから、経理と事業部門の架け橋となって実効性の高い管理会計システムの構築と運用を支援することも可能です。こうしたビジネスコンサルティングと経理の実務、そして(経理業務を効率化する)システム構築までを一貫して支援できることもCaaSの大きな強みです。
―― CaaSを導入したクライアントは、どのような価値を享受できるのでしょうか。CaaSが目指すビジョンを教えてください。
小林:私は企業の経理・財務部門を「会社の頭脳集団」になっていただきたいと考えています。
同部門は直接的な利益を直接生み出せる部門ではありません。しかし、コスト削減と効率性の向上においては、会社に大きく貢献できると考えます。
「会社の頭脳集団」になるためには、まず経理部門社員の仕事の質を上げる必要があります。会計業務をはじめ、財務分析や会計プロセスの最適化、数字という客観的な根拠に基づく各部署へのコンサルティングを積極的に行うのです。そうすることで、社内のどの部署からも「経理に相談すれば解決策が見つかる」と頼られる存在になれるのです。経理部門は単なる数字を扱うオペレーション部隊ではないのですから。
デロイト トーマツのCaaSはこうした環境構築に役立てられると確信しています。優秀な人材にはその人にしかできない高度な業務に専念してもらい、経理部門が真の「頭脳集団」として機能する。そのためにはスキルを持った人材が定型業務等のノンコア業務から解放され、より戦略的なコア業務に集中できる環境が不可欠です。
―― 次に人材育成について伺います。CaaSを導入することで、企業はどのような人材育成戦略が採れるのでしょうか。
小林:私が経理部門の管理職や責任者をしていた時に一番悩ましかったのが、「適材適所」と「スタッフのキャリア形成」です。財務会計業務に従事するスタッフの多くは「会計」という専門分野を追求したいと考えています。ですからプライドと責任感を持って几帳面に粘り強く業務をこなしてくれました。繁忙期には上司が「頼むから無理をしないで」と言っても、自分が納得するまで仕事を続けるスタッフも少なくありませんでした。文字通り、彼らは組織を支える重要な存在でした。
しかし、近年はそうした人材がDX推進やAI活用、業務効率化のための新システム導入といったプロジェクトにメンバーとしてアサインされています。ここに私は疑問を感じていました。
もちろん、将来のキャリアアップのためにいろいろな経験を積むことは必要ですが、志向するエリアではないことや得意分野ではないことに関与することが、果たしてキャリア形成に役立つのか。それよりも、興味があり、自身がやりたいと思える経理の分野でキャリアを積んでいける環境こそが頭脳集団化につながるのではないかと考えています。
―― CaaSを利用することで、クライアントの経理担当者はより自身の目指すキャリア形成を実現しやすくなるのですね。ではクライアントの経理人材の育成や戦力化について、CaaSはどのようにサポートしますか。
小林:CaaS導入を検討しているクライアントからいただく懸念の1つとして、「BPOすると社内でその業務内容や処理内容を理解している人材がいなくなり、(経理業務の)プロセスがブラックボックス化するのではないか」という声があります。
デロイト トーマツではそうした懸念に対しても丁寧に説明しています。例えば実際の業務を担っているのは前橋のオペレーションセンターですから、ご希望があれば現地で一緒にオペレーションを経験していただけます。同センターではクライアントの業務のプロセスフローやマニュアルは可視化されていますから、いつでも引き継ぎ書代わりに使っていただくこともできます。
また、CaaSとは別のサービスになりますが、クライアントの経理ご担当者がデロイト トーマツに出向者として一定期間お越しいただき、会計のスペシャリスト集団の中での業務経験を通じてスキルアップを図っていただくことも可能です。
―― 最後に今後の展望を教えてください。DX推進やAI活用が必須となる中、CaaSはどのような役割を果たしていくのでしょうか。
小林:近年のビジネス環境において、限られた人員で高品質の業務を維持するためには、DX推進やAI活用は避けて通れません。これはどの企業でも直面する必然的な課題です。
そうした状況で重要なのは、人的リソースと時間という経営資源を最適に配置することです。そのためには「人が関与すべき業務領域」を明確に定義する必要があります。経営リソースを効率的に配分するため、必ずしも自社で行う必要のない業務は、CaaSのようなサービスの活用を検討すべきでしょう。
従来のBPOはリソース不足を補う手段ではありますが、それだけでは根本的な省力化・効率化につながりません。企業が継続的に変革していくためには、まず十分なリソースを確保し、専門的なノウハウを活用して進めることが重要です。
CaaSの役割は、企業内の有能な人材の時間を創出することにあります。管理職層からオペレーションまで一貫して受託することで、クライアント企業は最終確認のみに集中できる環境を実現します。
彼らの日常的な業務負担を軽減し、戦略的な取り組みに集中できる環境を整えることが、CaaSの本質的な価値なのです。CaaSは単なる「コスト削減」ではなく、貴重な時間という経営資源を獲得するための「戦略的な投資」です。
こうしたアプローチで、人材不足や能力開発の課題を抱える日本企業の経理部門を支援し、経理に従事する皆様がより魅力的なキャリアを描ける環境を創出することが、私たちの目指す姿です。CaaSを通じて経理部門を単なるオペレーション部隊から企業の意思決定を支える「頭脳集団」へと昇華させ、クライアントのみならず日本企業全体の競争力強化と持続可能な成長に貢献していくことが、私たちの使命だと考えています。
―― ありがとうございました。