【Corporate as a Serviceプロフェッショナルに訊く Vol.1】コスト削減から戦略的投資へ。経理業務「丸ごと受託」がもたらす企業変革―経理部門の戦略的進化を支える「Corporate as a Service」とは ブックマークが追加されました
優秀な人材が日々の実務に追われ、本来の戦略的役割を発揮できない――。多くの日本企業の経理部門が抱えるこの共通課題に対し、デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社(以後、デロイト トーマツ)は2023年、従来型BPOの枠を超えた新たなソリューション「Corporate as a Service」(以後、CaaS)の提供を開始した。本連載では3回にわたり、CaaSを提供するプロフェッショナルたちへのインタビューをお届けする。サービス開始から2年間で蓄積されたナレッジをもとに、企業のコーポレート業務が直面する課題や理想的な姿を、専門家の視点と具体的な支援事例を交えながら解説していく。
第1回に登場する小林栄治郎は、30年にわたり経理実務と業務改革を担ってきた。その豊富な経験に基づき、現場を知り尽くした視点から、日本の経理業務が抱える課題とCaaSがもたらし得る変革を語る。デロイト トーマツが提供する専門性の高い人材と高度なソリューションで、経理部門を「頭脳集団」へと昇華させるアプローチを紐解く。
♯♯インタビュイー
小林 栄治郎
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター
※ 本ページの記載情報および登壇者の所属は、記事公開時点のものです。
―― 小林さんは現在、デロイト トーマツでCaaSのフレームワーク構想や具体的なサービス開発を統括する立場ですよね。最初に小林さんのこれまでのキャリアを教えてください。
小林:私は約30年間にわたり、建設業、製造業、製薬業といった異なる業界で経理業務に携わってきました。キャリアのスタートは建設業の現場事務からで、そこから債権・債務処理、決算業務、財務運用、子会社経理等、経理全般の実務を経験しています。また、課長職・部長職時代は会計監査や税務調査、内部統制といった管理業務にも携わってきました。その間には決算早期化や会計システム導入、経理業務のアウトソーシング等、複数の経理業務改革プロジェクトのリーダーを務め、経理業務の枠を超えた業務改善プロジェクトをとりまとめてきました。
―― 携わってきたプロジェクトの中で最も印象に残っているのは何でしょう。
小林:製薬会社での統合型ERP(企業資源計画)システム導入プロジェクトです。当時、私の経歴を見られたヘッドハンターから「同プロジェクトが危機的な状況で、立て直せる経理経験者が必要です」と言われました。
こうしたシステムの導入は、業務プロセスの変更やデータ移行の課題等、システムとビジネスの両方を理解する必要があります。そして関係部門と密にコミュニケーションをしながらプロジェクトを管理しなければなりません。しかし、その会社では本番稼働のスケジュールが決まっており、私は入社から3カ月という極めて短い期間でプロジェクトを遂行しなければなりませんでした。
そのような状況下で求められたのは、優先順位の明確な判断です。具体的には重要課題の特定、リスクの評価、そして必須対応事項の決定です。これらの判断を自らの責任で下していく必要がありました。非常にタフなプロジェクトでしたが、私は火事場に飛び込んで収束を図ることに生きがいを感じる性格なので(笑)、よい経験だったと捉えています。
――小林さんがデロイト トーマツに入社したのは2024年です。なぜデロイト トーマツに転職を決めたのですか。そのきっかけを教えてください。
小林:30年間経理業務に携わる中で、近年、経理部門に求められる業務内容が変化しているにも関わらず、現場がその要求に対応できていないと感じていました。前職・前々職では国内外で約30~60名のスタッフが在籍する組織をリードしてきましたが、メンバーが日々の業務に追われて効率的な運営ができておらず、プロジェクトや改善対応を進めたくてもリソースがネックになっていました。その解決策として着想したのが、管理職の役割まで包含した経理業務をアウトソーシングするビジネスモデルです。
一般的にアウトソーシングと言えば、単純なオペレーション業務を人件費の安い地域のサービス事業者へ委託するケースが大半でした。しかし私はそれだけに留まらず、管理職業務の半分程度をアウトソースし、自社のノウハウとして重要な業務のみを社内で行える環境を提供するサービスを考えたのです。これであれば、社内の人材はより戦略的な業務に注力できます。会社の核となるノウハウ以外は外部のベンダーに委託しても、会社としての価値は失われないと考えていました。
―― そのようなビジネスモデルの着想が、現在の業務につながっているのですね。
小林:はい。ちょうどそのタイミングでデロイト トーマツのメンバーと話をする機会があり、CaaSの構想を聞きました。自分が考えていたビジネスモデルと一致していたのです。私はかつて企業の経理責任者として働いていましたから、経理部門の責任者として何に悩み、何が必要だったか身をもって知っています。ですから、クライアントが直面している課題や必要としていることをより深いレベルで理解できると自負していますし、「目的に合わせた具体的な施策や何に気を付けて進めるべきか」といった実務レベルの細部にまで気を配ったサービスを提案できると考えたのです。
―― 先ほど「経理部門に求められる業務内容が変化しているが現場が対応できていない」と指摘されました。現在、企業の経理部門が直面している根本的な課題とは何でしょうか。
小林:端的に言えば「時間がない」ことです。私たちの調査によると、経理を含むコーポレート部門は専門人材不足や人材確保の難しさはもちろん、現場ではコスト削減と業務の効率性向上が至上命題になっています。それに加え昨今では、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現」や「人工知能(AI)の活用」に対応しなければならないという課題を抱えています。
しかし現場では通常業務のほかにも、日々の要望や変革支援に時間を割かれているのが現実です。これでは長期的な視点で人材を育成したり、ビジネス機会の創出を提案したりすることはできません。「分かってはいるけど時間がない」のです。
実際、私が日々クライアントから伺う相談は「忙しい」「業務改善・効率化推進等のノウハウを持った人材が少ない」「人が辞める」「DX化したい」「AI活用したいが何からすればよいか分からない」等で共通しています。
―― DX推進やAI活用はITやシステムの知識も必要ですから、経理担当者の対応範疇を超えていますよね。
小林:はい。二つの異なる要求への対応が同時に求められる状況は、人材育成やキャリア形成の面からも課題があると考えています。
―― どういうことでしょう。
小林:経理部門の本業は基準に準拠し、正確でタイムリーな財務諸表の作成と決算の実行、すなわち「実績数字の提供(deliver the result)」です。一方、現在はビジネスの多様化や会計基準変更、DX推進や効率化実行といった変革対応業務にも対応しなければなりません。問題なのはこの「基本業務」と「変革対応業務」には、必要とされる能力や思考パターンに本質的な違いがあることです。特に変革を推進するには、会計業務の内容を深く理解した上で、適切な改革案を立案する能力が求められます。
ここで問題となるのが、従来の経理人材のスキルセットと新たに求められる能力・適性とのミスマッチです。経理部門には元々、数字が好きで、会計基準を極めたり、会社の数字を正確にまとめたりすることに喜びを感じる人材が多いと感じます。彼らは強い責任感とプロフェッショナルとしてのプライドを持って、納得がいくまで丁寧に対応します。
しかし先に指摘した通り、時代の変化と共に求められる業務内容も変化し、「決算業務はやって当たり前。どうやってキャッシュフローを生み出すかを考えてほしい」「新たな管理のための実績集計ができる会計処理を検討してほしい」といった新たなリクエストが出てくるようになったのです。
―― 基本業務に加えて新たな業務対応が求められ、仕事の幅が横に広がっている状況で、人材のキャリアや適性とのミスマッチが生じているのですね。
小林:その通りです。「会計」という専門分野を極めたい人材でも、管理職になると業務効率化等、今まで経験したことのない、あるいは希望していなかった業務を求められることがあります。「経理の実務経験があるのだから効率化もできるでしょう」と簡単に言われてしまうのですよね。
これまで日本の経理部門は、人材不足の中でマルチタスクをこなすことが求められることが多く、特に仕事のできる人に仕事が集中する傾向があります。そうした環境の中で優秀な人材は新たな領域の仕事やプロジェクトリーダーを任されがちですが、同時に日常業務管理も行うことが多く、組織としても非効率です。
―― そうした課題は日本企業特有ですか。
小林:日本企業と外資系企業の経理部門の違いは、文化の違いに起因します。海外企業では「Roles and Responsibilities(責任範囲)」が明確で、各人の責任範囲が厳密に定められています。人員構成もオペレーション担当、システム担当、会計専門家というように、スペシャリストとオペレーターで明確に分かれています。
一方、日本企業では「和をもって尊しと為す」の精神で、チーム全体で業務を補完し合う文化が根付いています。「私の担当外です」ではなく、「みんなで知恵を出し合えば何とかなる」という発想で、ディスカッションしながら課題を解決していきます。
日本の企業文化には、柔軟に助け合えることで新しいアイデアが生まれやすく、問題発生時の軌道修正がスムーズだというメリットがあると考えています。しかし同時に、優秀な人材への過度な業務集中が起こりやすいという課題も抱えています。その結果、個々の専門性を活かしきれていないのです。
―― 長年現場をご覧になっていたからこそ見えてくる課題ですね。
小林:私は現場で業務がオーバーフローしてしまったメンバーを数多く見てきました。このような状況を改善するには、会計のスペシャリストには会計業務を、効率化に関心のある人材にはDX推進をというように、それぞれの専門性や興味を活かせる環境を構築することが重要です。
こうした人材の最適配置により日本的な協調性は維持しながらも、個々の人材の得意分野や興味を活かせる「適材適所」を実現できれば、人材の有効活用が進み、個人のスキルアップやキャリアアップにつながります。さらには会社全体の人材の高度化という好循環を生み出すこともできると考えます。
―― 次にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)について伺います。これまでのBPOは仕訳・会計処理等、定型業務が中心でした。小林さんは既存のBPOでは現在の経理部門が抱える課題は解決できないとお考えですか。
小林:「企業がなぜBPOを利用するのか」を考えてみてください。その主な目的は「コストダウン」です。これまで多くの企業で導入されたBPOは、人件費が安い国や地域を拠点としたサービスです。こうしたサービスはクライアント企業のコスト削減と人員再配置をサポートする手段として、定型業務を担ってきました。
しかし、近年はこの状況が大きく変化しています。BPOサービス事業者は主要拠点だった国や地域の人件費が上昇したため、より人件費の安い所へと移転せざるを得なくなりました。さらに最近では、地政学的リスクも考慮し、日本国内への回帰を検討する企業も増えています。
もう1つ、海外BPOには日本特有の課題も存在していました。日本語という特殊な言語への対応や、日本企業特有の高品質なサービスへの要求に応えるためには、大規模なオペレーション体制が必要です。また、言語の壁や経理知識の習得という課題に対応するため、業務の徹底的なマニュアル化も求められてきました。海外の人件費が上昇している現在は、こうした部分まで網羅できなくなっています。これらの課題も、企業が従来型BPOの見直しを進める要因となっています。つまり、「大量の定型業務を安価に処理する」というかつてのBPOビジネスモデルでは対応しきれなくなってきているのです。
これからのBPOは、定型業務を担当する社員の支援だけでなく、定型業務以外の支援や管理職層の業務支援にシフトしていくべきだと考えています。管理職は業務全体を俯瞰的に把握しており、彼らの時間を創出することで企業全体の生産性と戦略的思考の質を高められるからです。まさに戦略的投資としてのBPO活用と言えると思います。
―― 管理職層の業務をBPO化する上で、最も重要なポイントは何でしょうか。
小林:管理職と同等レベルの経理知識を持ち、日本語での高度なコミュニケーションができる人材が業務に当たることです。経理知識は当然ですが、特に企業の経理業務の実践的な経験と現場の状況を理解していることが重要です。実際、実務ではマニュアルでは伝えられない要素も数多くあります。そのポジションの特性や必要な思考回路、問題や課題に対するアプローチの仕方、そして何より、その会社独特の文化や考え方等は、企業経験者のほうがより早く理解できると思います。
つまり、単なる定型業務の移管だけではなく、管理職層の思考プロセスや企業文化までを理解した上での業務支援が、次世代のBPOには不可欠なのではないでしょうか。
――後編ではデロイト トーマツが提供する従来型BPOの限界を克服したCaaSについて伺います。