コーポレート情報

児童労働によらない産品の貿易に関する協定の枠組み(案)

デロイト トーマツ コンサルティング 政策提言 2020年5月

 この文章は、 児童労働によらない産品の貿易に関する協定の枠組みの提案であり、原産地規則の細則 (累積、僅少の材料を含む)、原産資格を与えることにならない作業、認証機関の認定基準、確認の細則、その他児童労働によらない産品の貿易を促進するために必要な手順については将来的に議論され、交渉される。 またこの文章においては、対象産品としてカカオ関連製品を例示しているが、他の産品への適用を排するものではない。

前文

 世界中の企業、組織及びそのステークホルダーは、企業のサプライチェーンにおける人権問題をますます強く認識するようになっている。人権問題に対する世界的な取組が進められているにも関わらず、 依然として労働者の基本的な権利の侵害が発生し続けており、 1998年に「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」の採択によって示された中核的労働基準の一つである児童労働についても被害が深刻である。 2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を中核とする「持続可能な開発のための 2030 年アジェンダ」においては、ターゲット8.7において「2025年までにあらゆる形態の児童労働を撤廃する」と掲げられているが、2016 年時点でILOの調査では世界の児童労働者数は1億5200万人に上った。

 各国においてサプライチェーンにおける児童労働撤廃 の政策が進められている一方で、サプライチェーンにおける児童労働撤廃に寄与する製品の貿易促進といった協調した行動をとることが非常に重要である。児童労働によらない製品に関する貿易の自由化は、企業による、より低い費用での児童労働によらない製品の調達を可能とするとともに、児童労働によらない製品の生産を促進し、児童労働撤廃に寄与する。

 この協定の締約国(以下「締約国」という。)は、児童労働によらない製品の貿易を推進することにより、世界の児童労働の撤廃に貢献することにコミットする。

第一条
目的

締約国のうち 附属書Iに定める国は、この協定の規定に従い、児童労働によらない産品(Child Labor Free Product )(以下「CLFP 」という。)の関税を撤廃する。

第二条
一般的定義


この協定の適用上、

(a) 「関税」には、産品の輸入に際し、又は産品の輸入に関連して課される税その他あらゆる種類の課徴金並びに産品の輸入に関連して課される付加税及び加重税を含む。
ただし、次のものを含まない。

i. 千九百九十四年のガット第三条2の規定に適合して課される内国税に相当する課徴金
ii. 輸入に関連する手数料その他の課徴金であって、提供された役務の費用に応じるもの
iii. ダンピング防止税又は相殺関税

(b) CLFP とは、児童労働の発生しやすい全ての生産・加工工程が、児童労働のない地域(Child Labor Free Zone)(以下「CLFZ」という。)で行われた産品、もしくはそのような産品を原料とし一定の基準を満たして加工された産品を指す。

i. 関税撤廃の適用対象とする産品の品目は、 附属書IIに定める。
ii. 児童労働が発生しやすく、CLFPの要件の対象となる生産・加工工程(以下「対象工程」という。)は、品目ごとに附属書IIIに定める。

(c) CLFZ とは、 児童労働の防止及び子どもの権利と福祉の保障のための総合的で一貫性のあるシステムが継続的に機能し、児童労働がない状態を維持可能な地域、行政単位に限らない一定の地域を指す。 CLFZ の所在地域は、開発途上国に限定する。

第三条
児童労働のない地域の認証

3.1 CLFZは、本条の定めるCLFZ委員会により認定を受けたCLFZ認証機関によって、CLFZとして認証される。

3.2  締約国は、ここに各締約国の政府代表者から成るCLFZ 委員会を設置する。CLFZ委員会はCLFPに係る認証及び認定制度運用について責任を負う。

3.3. CLFZ委員会は、附属書IVに定める基準に基づいて、CLFZ認証機関を認定する。認定を受けたCLFZ認証機関は、CLFZ委員会によって公表される。

3.4 CLFZ 認証機関は、附属書Vに定める基準に基づいて、CLFZを認証する。認証した場合は、CLFZ委員会に通報する。通報を受けたCLFZ委員会は、認証されたCLFZを公表する。
 

第四条
CLFP証明書

4.1 CLFPは、CLFP証明書の提示により、関税撤廃の適用を受ける。CLFP証明書の発給要件は、附属書VIに定める。

4.2 CLFP証明書は、生産者又は輸出者又によって行われる申請に基づき、輸出国の権限のある政府当局または権限のある政府当局によって指定された団体(以下「指定発給機関」という。)が発給する。

4.3 輸出国の権限のある政府当局及び指定発給機関は、CLFZ委員会に通報される。通報を受けたCLFZ委員会は、指定発給機関を公表する。

4.4 生産者又は輸出者は、CLFP証明書についての記録を、当該CLFP証明書の発給日の後五年間保管する。当該記録には、CLFPであることを証明するために提示された全ての補助的な文書を含む。

4.5 CLFP証明書は、その発効の日から1年間有効とする。

4.6 CLFP証明書は、次のいずれかの輸送に適用することができる。

(a) 締約国に輸入される一又は二以上の産品の一回限りの輸送
(b) 締約国に輸入される同一の産品の二回以上の輸送(CLFP証明書に関する申告に記載する十二箇月を超えない期間内に行われるもの)

4.7 CLFP証明書は英語で記入する。

4.8 次のいずれかの条件を満たすものは、積送基準を満たすCLFPとする。

(a) 締約国から直接輸送されること
(b) 積替え又は一時蔵置のために一又は二以上の第三国を経由して輸送される場合にあっては、当該第三国において積卸しその他産品を良好な状態に保存するために必要な作業以外の作業が行われていないこと

4.9 締約国の産品が4.5条に定める積送基準を満たさない場合には、当該産品については、CLFPとみなさない。
 

第五条
確認

5.1 各締約国は、この協定の規定の適正な適用を確保するため、この協定及び各締約国の国内法に従い、CLFP証明についての確認及びCLFP証明書に記載した情報が正確であることについての確認を行うために相互に支援する。

5.2 輸出締約国の権限のある政府当局は、輸入締約国の税関当局の要請があった場合には、証拠の要求のために必要な措置並びに生産者又は輸出者の文章又は施設の検査その他の適当と認められる検査の実施のために必要な措置をとる。

5.3 輸入締約国の税関職員は、5.2条の規定に基づく確認の要請の結果に満足しない場合には、次のことを行うことができる。

(a) 産品の生産者又は輸出者の施設を訪問することを通じて、産品がCLFPであるか否かに関する情報を収集し、及び提供すること並びにそのため当該産品の生産に使用された設備の確認を行うこと
(b) 前項の訪問に当たって輸出締約国の権限ある政府当局を立ち会わせること
 

第六条
不公正行為に対する罰則及び措置

各締約国は、自国の輸出者並びに生産者又は他の者が本協定に関連して不正行為を行った場合には、自国の法令に従って、適切な罰則、制裁その他の措置を定め、又は維持する。
 

第七条
経済協力

7.1 締約国は、開発途上国における児童労働の撤廃に資するため、専門家の派遣、設備・資材の供与を含む経済協力を実施する。

7.2 締約国は、本協定に基づく経済協力の遂行のため、ここに各締約国の政府代表者から成るCLFZに係る経済協力推進委員会(以下「経済協力委員会」という。)を設置する。

7.3 経済協力委員会は、本条に定める経済協力の効果的な実施について責任を負う。

 

附属書I

<関税を撤廃する締約国一覧>
 

附属書II

<関税撤廃の適用対象とする品目一覧>

品番 HS2020 品名
001 1801.00 カカオ豆(生の物又は炒ったもので全形又は割ったもの)
002 1802.00 カカオ豆の殻、皮その他のくず
003 1803.00 ココアペースト(脱脂してあるかないかを問わない。)
004 1804.00 カカオ脂
005 1805.00 ココア粉(砂糖その他の甘味料を加えたものを除く。)
006 1806.10 チョコレートその他のココアを含有する調製食料品
- ココア粉(砂糖その他の甘味料を加えたものに限る。)
007 1806.20 チョコレートその他のココアを含有する調製食料品
- その他の調産品(塊状、板状又は棒状のもので、その重量が2キログラムを超えるもの及び液状、ペースト状、粉状、粒状その他これらに類する形状のもので、正味重量が2キログラムを超える容器入り又は直接包装にしたものに限る。)
008 1806.31 チョコレートその他のココアを含有する調製食料品
- その他のもの(塊状、板状又は棒状のものに限る。)
-- 詰物をしたもの
009 1806.32 チョコレートその他のココアを含有する調製食料品
- その他のもの(塊状、板状又は棒状のものに限る。)
-- 詰物をしてないもの
010 1806.90 チョコレートその他のココアを含有する調製食料品
- その他のもの
…… ……… ………………………………
     

 

附属書III

<品目別の対象工程一覧>

品番 HS2020 対象工程
001 1801.00 カカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
002 1802.00 カカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
003 1803.00 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
004 1804.00 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
005 1805.00 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
006 1806.10 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
007 1806.20 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
008 1806.31 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
009 1806.32 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
010 1806.90 原料となるカカオ豆の生産工程(収穫・発酵・乾燥含む)
…… ……… ………………………………
     

 

附属書Ⅳ

<CLFZ認証機関の認定基準>

CLFZ認証機関の認定基準については別途定める。
 

附属書V

<CLFZの認証基準>

CLFZの認証基準の基本原則を以下の通りとし、これに基づいた詳細な認証基準・測定方法等については、別途定める。

1. 児童労働の発生率が10%未満である

2. 国家及び地域において、児童労働を禁止し児童を保護する法律が制定されている

3. 地域において、児童労働の撤廃に関する年次計画が作成され、実行されている

4. 地域において、児童労働に関する効果的な啓発活動が実施されている

5. 地域において、児童労働を防止するモニタリング機関が存在する

6. 地域において、児童労働の被害を受けた子どもと保護者に対する効果的な救済メカニズムが存在する

7. 地域において、子どもの教育環境が適切に整備されており、地域の教育機関の出席率が90%以上である

(上記内容は、『Establishing Child Labour Free Zones in Ghana – Protocols and Guidelines』を参考に作成)
 

附属書VI

<CLFP証明書の発給要件>

1. 完全生産品(CLFZで完全に生産された産品)については、CLFPのみで生産されたことを証明する典拠書類(関連インボイス、製造証明書等)に基づき、CLFP証明書を交付する。

2. その他の産品については、原料にCLFPを使用していることを証明する典拠書類(CLFP証明書、仕入書関連インボイス、製造証明書)に加え、加工過程のマスバランス及び最低含有率基準を審査の上、CLFP証明書を交付する。

(a) 加工過程のマスバランス基準としては、CLFPとされる加工産品の数量は、加工の歩留りとロスを考慮の上で、原料として用いられたCLFP(以下「CLFP原料」という。)の数量を上回っていないこと等を必要とする。
(b) 最低含有率基準としては、CLFPとされる加工産品は、全ての原料に占めるCLFP原料の含有率が20%以上であることを必要とする。

3. 当規定は、附属書IIIに掲げる品番01~10の産品に対して適用する。今後、本協定の対象産品が拡大する場合は、産品の特性に応じて発給要件を定める。
 

全文ダウンロード

各機関・団体内での閲覧に供するため、本協定案全文のPDF版を用意しました。
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連絡先:
羽生田慶介、小野美和、大久保明日奈、潮崎真惟子
Mail: socialimpact@tohmatsu.co.jp

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