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スタートアップのIPOを通じ、日本の社会・経済の発展に貢献

シリーズ 監査に進化を 第7回

有限責任監査法人トーマツは、これまでIPO(株式上場)業務に注力してきた歴史があり、IPO監査・アドバイザリーを積極的に手がけ、「IPOと言えばトーマツ」と言われることも多い。そんなIPO業務をさらに充実させるため、2022年組織を刷新し、IPO戦略推進室を設置した。時代を先取りし、持続的な成長の実現に向け進化を続ける企業やステークホルダーの期待に応えるために、多様な専門家の知見とこれまで培ってきたIPOに関する知識やノウハウの活用を組み合わせ、どのように貢献できる領域を広げているのか。未来を見据え監査の変革と高付加価値化にむけた取り組みを進めるAudit Innovation部長 外賀友明が、有限責任監査法人トーマツ IPO戦略推進室長の只隈洋一と、入社時からIPO業務を志望していたというIPO監査専門チームの草場麻美子に話を聞いた。

専門チームを発足し、IPO業務を加速

外賀:トーマツがIPO業務に取り組む意義についてお聞かせください。

只隈:成長企業が上場し、社会からの信用を得て市場からより多くの資金調達を実現することで、ビジネスを成長させていく。これは単に一企業にとどまらず、業界全体への経済効果や新たな雇用創出などを通じて、日本の社会や経済への貢献にもつながります。特に社会や経済に大きなイノベーションを起こす可能性のあるスタートアップへの支援は、大きな意義があると考えています。

上場前の多くのスタートアップは、上場企業として必要となる組織体制やガバナンスなど十分とは言えません。そこで、監査を通じて多くの上場会社を見てきた私たちがその知見を生かし、アドバイスやサポートを行っています。上場会社に相応しい体制や信用を身につけ、スムーズにIPO実現に導くのが私たちの役割です。

2022年に岸田政権は「新しい資本主義の実現」に向けた取り組みの一環として、「スタートアップへの支援強化」を打ち出したことに象徴されるように、スタートアップへの支援や育成は社会的な潮流となっています。実際、私たちへのIPO監査のご依頼も増えています。以前からトーマツはIPOに積極的でしたが、さらにもう一段階ギアチェンジをしようとしています。

有限責任監査法人トーマツ IPO戦略推進室長 只隈洋一

有限責任監査法人トーマツ IPO戦略推進室長 只隈洋一

 

草場:具体的な取り組みとしては、従来の組織を見直し、2022年にIPOの知見を持つ社内人材を集め、只隈がトップを務めるIPO戦略推進室に改編しました。

これにより、IPO監査に特化した専門集団である「IPO監査専門チーム」(質)を新設し、全ての部門からIPO業務を希望する人材を登録してIPO業務に関与できるようした「IPOプール人財制度」(量)の2つの掛け合わせにより、多くのIPO準備会社に対して質の高いIPOサービスが提供できるようになりました。さらに、5ビジネス(※)との連携、デロイト グローバルとの連携強化により、多種多様なクライアントニーズに対応できる仕組みが整備できました。

社会や市場のニーズに応えるべく、IPO監査に関与するメンバーは東京、関西、中京、西日本およびサテライトオフィス含め総勢100名を超えるスタートアップへのIPO業務に特化したIPO監査専門チーム、さらにIPO業務への関与を希望するIPOプール人財として全国に約600名の体制を有しています。その中でも、私は東京のIPO監査専門チームに所属しています。

※ 監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、法務・税務のビジネスのこと

有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 草場麻美子

有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 草場麻美子

 

外賀:さまざまな監査法人がIPOを手がけていますが、トーマツの強みは何ですか。

只隈:今でこそIPOを手がける監査法人は多くありますが、私が入社した30年近く前、大手監査法人の中で積極的にIPOを手がけていたのはトーマツだったと記憶しています。私たちは30年以上にわたって、さまざまな業界で企業のIPOをサポートしてきました。その中で培った知見、経験値が私たちの最大の強みです。

現在、特に注力しているのは、テクノロジー分野ですね。この分野には社会、経済に大きなインパクトを与える「ネクストデカコーン」「ネクストユニコーン」の可能性を秘めたテックスタートアップがたくさんあります。実際、このような企業の方々とお話しすると、最先端のテクノロジーを持っていたり、ビジネスのビジョンが明確だったりと、サポートする私たちもワクワクするようなお話しがどんどん飛び出してきます。

 

監査を通じて培ったインダストリー・セクターの知見を活かし、スタートアップを強力に支援

外賀:具体的にはどのような支援をするのでしょうか。

只隈:スタートアップは大きな可能性を秘めている一方で、さらなる成長を遂げるために必要な要素が多くあります。先ほど申し上げたガバナンスや組織体制に加え、資金調達や事業計画の策定、マーケティング、アライアンス、採用など多岐にわたるサポートを必要としています。このような多面的なサポートが必要になることから、支援内容も多岐にわたります。

私たちデロイト トーマツ グループには、スタートアップの段階ではデロイトトーマツ ベンチャーサポート(DTVS)、IPO準備になれば監査はIPO監査専門チーム、アドバイザリー業務は監査アドバイザリー事業部のキャピタルマーケッツグループ、リスクマネジメントや情報セキュリティはリスクアドバイザリー、IPO後のM&Aはデロイトトーマツ ファイナンシャル アドバイザリー(DTFA)、戦略的な側面におけるコンサルティングはデロイト トーマツ コンサルティング(DTC)、税務や法務は税理士法人や弁護士法人、さらには全てのサービスでデロイト グローバルと連携しており、会社の立ち上げ時からIPO、IPO後のさらなる成長期のあらゆる企業ニーズにグローバルで対応できる体制を持ち、幅広い支援を行うことが可能です。

草場:スタートアップの可能性をさらに広げるような取り組みにも注力しています。例えば、地方のスタートアップを東京に招いて大企業やベンチャーキャピタルの前でピッチをしていただくマッチングイベントを開催したり、さらには自治体にスタートアップを紹介しネットワークを広げる機会を設けたりしています。また、IPOを達成したスタートアップの先輩経営者やCFOを招いて苦労話や成功体験を共有し、これからIPOを目指す経営者たちのモチベーションアップにつなげるような取り組みも行っています。

只隈:スタートアップをサポートする上では、必然的にIPOや監査の知識に加え、各業界の知識も必要になります。これまで幅広い業界の企業を監査してきた知見を生かし、各専門分野に長けた人材からノウハウを聞いたり、場合によってはチームに加えたりして充実した支援を提供できる体制をつくっています。

 

草場:現場の立場から見ると、まさに今の話につながるのですが、IPO監査の知識や経験に加え、幅広い業界の知識や経験を学べることもIPO業務に携わる魅力です。

 

外賀:IPO監査はどのような流れで進むのでしょうか。

只隈:まずはDTVSのチームが、スタートアップ企業の成長を支援することからスタートすることが多いですね。ビジネスの成長とともに企業体制も少しずつ整備し、いよいよIPOを目指すというタイミングで、我々IPO監査の専門チームが加わります。上場するには最低2年間の財務諸表等の監査が必要ですから、その準備も含めて3〜4年ほどかけて、上場するというケースが多いです。

IPO後すぐにIPO監査の専門チームと縁が切れるというわけではなく、何年も伴走してきた私たちだからこそ、その企業のことを最も深く理解していますので、少しずつ担当メンバー入れ替えながら、次のIPO業務に向けた準備を進める、という流れになります。

このようにスタートアップのIPOに際しては、デロイト トーマツ グループが持つアセットを最大限活用してサポートしています。IPOはもちろん、ビジネスの拡大や海外進出なども含め、総合的にサポートできるのが大きな強みです。

 

社会貢献を実感できるのがIPO業務の魅力

外賀:IPO業務の魅力とは何でしょうか。

只隈:冒頭の話とも重なりますが、私は日本の社会や経済に貢献したいという思いでこの仕事をしています。そしてIPO業務は、この「社会に貢献している」という実感を強く得られる業務だと感じており、それが魅力ではないでしょうか。

私は入社から現在まで、約20年にわたってIPO業務に携わり、20社以上のIPOを実現してきました。上場するスタートアップの経営者の方々は、皆「自分たちのビジネスで世の中をより良くしたい」、「社会課題を解決したい」、「より便利な社会にしたい」という熱い思いを持っています。そんな経営者と何年にもわたって業務を共にし、同じマイルストーンを目指すという経験は、なかなか通常の監査業務では得られません。もちろん苦しい場面も少なくありませんが、その分、上場したときの達成感もひとしおです。

草場:私も只隈さんと同じように、社会貢献したいとの思いが根幹にあります。そもそも私は「IPO業務に携わりたい」という思いで就職活動をしていたので、この分野で大きな実績があるトーマツに入社したからには、必ずIPO業務に携わりたいと思っていました。実際には、入社してすぐにIPOに関われたわけではありませんでした。

只隈:上場会社における監査は、すでに企業として様々な仕組みが一定程度できあがっており、それらを監査するのが主な業務ですが、IPO監査の場合、そもそもチェックする対象がなく、体制を構築するところからスタートする必要があります。

ですから、まずは上場会社の監査を数年間経験し、上場会社のあるべき体制やガバナンスをしっかり身につけてからでないと、IPO業務は難しいと考えています。ですので、草場を含めIPO業務をやりたいという方も、まずは上場企業の監査からスタートするというキャリアパスになります。

草場:私はまさにそのような育成スキームどおりのキャリアを辿り、2023年の1月からIPO監査専門チームに配属されました。これから上場会社の監査で身につけたスキルをIPO業務で活かせると、ワクワクしています。

専門チームに入ってからの育成体制も、トーマツならではだと感じています。IPO監査に関して経験がないメンバーも、只隈が率いる戦略推進室が中心となって開催している勉強会に参加することで、業務の特性や内容を早々に習得しています。ほかにも、週に1度はチームで集まり、先輩の経験を共有するといった自主的な勉強会も行っています。

「IPO業務の魅力」というお話しに戻ると、何といってもスタートアップの経営者の方たちとお話しできる点も大きな魅力です。実はつい先日もIPOを目指す経営者のお話を聞く機会がありましたが、「自社のサービスによって、必ず世の中が良くなる」という熱い思いを聞かせていただき、大きな刺激を受けました。

全国横断の柔軟で多様な体制でIPOを進めていきたい

外賀:IPO業務に関して、今後の展望をお聞かせください。

只隈:ステークホルダーのニーズにより応えられるよう、IPO業務に携わる人員を倍増したいと考えています。育成はもちろん、外部採用だけで実現するのではなく、社内でIPO監査に興味を持つ人材を集めて、東京以外のメンバーが東京のIPO業務を行う「越境IPO」はすでに実績がありますが、その逆の東京のメンバーが通常の監査業務に余裕が出たときに九州のIPO業務を手伝ってもらうなど、より柔軟で多様な体制もつくっていく予定です。

提供するサービスも充実させていきます。東京では、ネクストユニコーンの候補となるスタートアップが多く集まっていますので、デロイトのグローバルネットワークも活用し、世界で戦えるネクストユニコーンをすべて支援するくらいの意気込みで注力していきます。

一方、地方にもそれぞれ地域の特色があります。トーマツは監査法人で最も多い全国29都市に拠点を有し、地域に根差した組織運営を行っています。各拠点のメンバーは各地のスタートアップと同じコミュニティの中で出会い、地域の特性を理解したうえでのサポートも可能です。北海道はアグリビジネス関連のスタートアップが多かったり、福岡はテックスタートアップに力を入れていたりするなど、ユニークな企業が多く登場していますので、東京と並行して地域ならではの特性を生かした全国横断の拠点の再整備も進めたいですね。

 

外賀:岸田政権は「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太方針」)にて、新しい資本主義の実現を加速させるべく、未来への投資拡大の一環として「スタートアップの推進と新たな産業構造への転換」を掲げています。日本が目指す新たな成長産業の創出と持続可能な経済社会の実現に向け、IPOを目指す企業や社会に資する活動を続ける只隈さん、草場さんをはじめとしたIPO業務に携わる皆さんの想いと、監査の高度化と変革によりステークホルダーへ貢献したいというAudit Innovationがもつ想いは、まさに合致していると感じました。本日は、ありがとうございました。

 

※所属や業務内容は掲載時(2023年7月)のものです。

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