デジタル広告を取り巻く経営リスクと、求められる「マーケティングガバナンス」の経営アジェンダ ブックマークが追加されました
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デジタル広告を取り巻く経営リスクと、求められる「マーケティングガバナンス」の経営アジェンダ
企業の健全な広告戦略のために求められる活動を語る
2021年3月、有限責任監査法人トーマツ主催ウェビナー「デジタルシフト時代の広告投資における経営リスクと、取るべき戦略アクションとは」が開催されました。トーマツが近年のデジタル広告に関する調査や課題について紹介したほか、ゲストに広告業界を取り巻く3名のステークホルダーを迎えたパネルディスカッションで、健全なデジタル広告の発展に向けた取り組みについて、それぞれの立場から提言を行いました。
目次
- デジタル広告不正を背景に、JICDAQは健全なデジタル広告の発展を目指す
- 広告不正への対応を進化せよ:「マーケティングガバナンス」を、新たな経営アジェンダに
- 健全なデジタル広告投資のために、広告に携わる人々は何をすべきか
デジタル広告不正を背景に、JICDAQは健全なデジタル広告の発展を目指す
【基調講演】 広告投資の透明性向上に向けたJICDAQの取り組み
- 公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 常務理事 小出 誠氏
インターネット(デジタル)広告費シェアの急速な高まりの一方で、デジタル広告不正など多くの問題事象が顕在化しています。従来、クリック率やコンバージョンのような効果を重視されてきたデジタル広告ですが、近年ではブランドの認知拡大・理解向上を目的としたケースが増えており、「広告がどの媒体に、どのように露出するかが重要になっている」と小出氏は基調講演の冒頭で指摘します。
続いて小出氏は、国内外で問題視されているデジタル広告の品質課題として、以下の3点を紹介。
- アドフラウド (Ad fraud): 広告が”人”ではなく”ボット”(インターネット上の操作を自動で行うプログラムによって閲覧やクリックがされていないか?
- ブランドセーフティ(Brand safety): 広告が不適切なサイト上に表示されていないか?
- ビューアビリティ(Viewability): 広告がユーザーに本当に見られる状態にあったか?
このような不正の問題が発生する原因として、デジタル広告とマス広告の出稿の流れや仕組みの違いがあります。デジタル広告はアドネットワークやアドエクスチェンジの仕組みによって効率的な出稿ができるようになりました。しかし、広告配信の仕組みが複雑化することで「広告がどこに、どのように出ているかわからない。もしくは、どのプレイヤーがどのように関わっているかわからず、責任者不在のような状態になっている」と小出氏は警鐘を鳴らします。
このようなデジタル広告不正の課題に対し、広告主企業の個社の対応を超えた取り組みが必要になり、日本におけるデジタル広告市場の健全化に向けた業界団体連携を進める中で2021年3月に生まれたのがJICDAQ(※)です。JICDAQは広告出稿において安心して取引できる事業者を明確にすることを目的に、業務品質の認証・事業者名の公開を行います。「4月以降には法人単位での事業者登録申請の受け付けを開始する。社会において、デジタル広告が健全に発展していくよう、ぜひこのJICDAQの仕組みを活用してほしい」と基調講演を終えました。
※JICDAQ:一般社団法人デジタル広告品質認証機構の略称。デジタル広告が、生活者や企業、そして社会にとって有益であることを願い、デジタル広告市場が健全に発展することを目指して立ち上げた認証機構 - https://jicdaq.or.jp/ (外部サイト)
広告不正への対応を進化せよ:「マーケティングガバナンス」を、新たな経営アジェンダに
デジタル広告不正実態調査からみる広告主の現状と、課題解決に向けた提言
- 有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 石田 一秋
- 有限責任監査法人トーマツ マネジャー 竹野 宏美
本セッションの前半では、2020年12月にデロイト トーマツが実施した「デジタル広告不正実態調査」の結果について、トーマツの竹野より説明しました。広告に携わる人々の間では注目されるデジタル広告不正ですが、企業活動を管理し、経営ガバナンスを支える管理系部門にはどのような意識があるのでしょうか。
調査結果によると「デジタル広告不正」という言葉の認知は約65%まで浸透していますが、その具体的な内容の認知については半数以下でした。しかし、デジタル広告不正の内容まで認知している回答者においては、約9割、認知していなかった回答者においても約7割が対策の必要を認識しており、その課題意識の高さがうかがえます。特に、管理系部門所属者も広告系部門と同様に強くデジタル広告不正への認識を持っていることが調査結果から示されていることを竹野は強調します。
続いて、デジタル広告不正対策に手段を講じられている企業はおよそ3割にとどまっていることに言及。一方で、不正対策に取り組む理由としては、ブランド毀損やコンプライアンス、内部統制上の懸念が高く挙げられたことから、企業レベルの課題意識を持つことが実行の後押しになると述べました。また、調査において管理系部門の回答者の半数が「自部門も関与すべき」と考えている結果が出たことから、従来の部門枠に留まらない体制が求められるとしています。
重要性/必要性に関する意識は高いものの、大半の企業において取り組みはまだ手付かずになっている背景を踏まえ、デジタル広告のリスクへの対策を確実に実行するため、竹野からは以下の3つを提言しました。
- 管理系部門・広告系部門の共通意識を醸成し、協同して企業レベルへのリスク対応へ
- デジタル化に対応する経営ガバナンスの一環として、トップダウンで推進する
- 早期発見・予防のため、先手の専門家活用を
続いてセッションの後半では、「広告投資における経営ガバナンスリスクと取るべき戦略アクション」と題し、同じくトーマツの石田一秋が発表を行いました。運用型デジタル広告を活用する場合に企業が必ずさらされる典型的リスク(アドフラウド、ブランドセーフティ、ビューアビリティ、広告体験の問題)を概観したほか、世界中で急務となっているプライバシー問題の潮流を見据え、プライバシー保護や個人情報保護法規制に対応したデジタルマーケティングデータ戦略の見直しが急務になっていることを紹介し、講演を始めました。
ブランド価値毀損リスクの観点から、消費者がブランドの信頼性を重視している昨今、不適切な広告の露出によってブランド価値が毀損されているリスクが生じている実態を解説。石田は不適切な広告露出の実例を挙げた上で、「ブランドは企業競争力の源である。ブランドは会社全体にかかる問題であるため、企業のガバナンスの問題として、適切な対応が求められる」と強調し、不適切なコンテンツに掲載された広告を見た8割の消費者は嫌悪感を示し、その6割はそのブランド購入を完全に止めることが明らかになった第三者調査結果を紹介しました。また、投資損失リスクの観点においても、適切なリスク対応策がとられていない場合には、無駄な広告費支出をしている可能性が高くなり、投資効率を悪化させる社内投資プロセスサイクルへ陥ってしまうリスクをケースでもって紹介しました。
プライバシー問題に係るガバナンスについて、石田はさらに「法規制対応だけの問題ではなく、組織横断的な対応が必要」と続けました。マーケティング戦略で活用されていたサードパーティクッキーが取得できなくなった時のマーケティング戦略の見直しと併せて法規制やプライバシーリスク対応を一緒に考える必要があり、法務、IR、コンプライアンス、IT投資等の戦略面・管理面で整合を保ちながら、戦略と管理のバランスを取ることの重要性を語りました。
セッションの終わりには、「デジタル広告は、マーケティングだけの論点にとどまらず、事業戦略や全社的に係るコーポレート・ガバナンスの問題になっており、適切な対応が必要」と強調し、「デジタルマーケティングを実施するにあたっては、経営層が経営課題のひとつとして“コーポレート・ガバナンス”を意識することが肝要。デジタルマーケティング・ガバナンス実践のために、第一歩として、例えばデロイト トーマツが提供する簡易ヘルスチェックリストのような手段を用いた脆弱領域の確認を通じ、課題やリスクを定量的・定性的に評価し、重要な個所からリスク対応の体制構築を進めるのが望ましい」と述べ、講演を終えました。
健全なデジタル広告投資のために、広告に携わる人々は何をすべきか
【パネルディスカッション】 広告投資の透明性向上に向けた課題とアクション
- 内閣官房内閣審議官 デジタル市場競争本部事務局 成田 達治 氏
- Intergral Ad Science Japan株式会社 セールスディレクター 山口 武 氏
- 公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 常務理事 小出 誠氏
- モデレーター:有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 岩原 章吉
休憩を挟んだ後のパネルディスカッションにおいては、3名のパネリストを迎え、健全なデジタル広告投資のために求められる取り組みについて、それぞれのお立場から意見交換を行いました。
パネルディスカッションの冒頭では通称「アドベリ」と呼ばれる「アドベリフィケーション(Ad-verification: どのように広告が閲覧されているか、不適切な広告出稿がなされていないか等、検証する仕組み)」のツールを今後のデジタル広告投資における重要なポイントとして山口氏より紹介。アドベリフィケーションを導入した実績として、過去の小出氏の事業会社でのブランド価値を保護したご経験についてもお話いただきました。
成田氏は「デジタル広告は届けたい相手に広告を届けられるなど極めて利便性の高いテクノロジーの活用となっていますが、デジタル広告において先進的な取り組みがなされている欧米諸国についても、法やルールの整備が追い付いていないのが現状です」と発言。そのため、デジタル広告出稿等に携わるステークホルダー(広告主、プラットフォーマー、アドテクノロジー企業)がそれぞれ健全な発展を目指していかなくてはなりません。数値を重視しすぎる考え方についても意見が交わされ、広告主としても品質の高いデジタル広告出稿を目指し、透明性の高い形を目指していく必要があると語られました。
また、ブランドの観点で広告戦略が経営アジェンダとなっている海外企業についても議論が進みます。この点について、小出氏は「デジタル広告と従来の広告との相違点や類似点を適切に認識し、担当者に任せるのではなく、経営層も同様の視点を持つことがブランドの保護に繋がるだろう」と述べ、山口氏より「海外の企業ではCMO (Chief Marketing Officer) のように統合的に広告を管理する立場があるため、アドベリフィケーションの浸透や経営アジェンダとしての認識があるのではないか」と意見が上がりました。
パネルディスカッションの最後に行われた質疑応答においては多数の質問が寄せられ、当該トピックにおいて3回目となる本ウェビナーにおいても、デジタル広告投資におけるガバナンスの重要性や、デジタル広告不正への対応のニーズの高まりを感じさせるウェビナーとなりました。
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