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デジタル広告の品質向上に向けた業界を挙げた取り組み

広告関係3団体がデジタル広告の品質を第三者認証する機構「JICDAQ」を設立  

日本の広告費は、2019年にデジタル広告がテレビ広告を抜き、広告主においてデジタル広告活用の重要性が高まっている。当該環境下のなか、広告関係3団体がデジタル広告の品質を第三者認証する機構「JICDAQ」を設立するに至った背景、認識している品質課題とは何か?また、広告主にとってもこの業界の動きに合わせて、取り組むべきこととは?

デジタル広告の品質向上に向けた業界団体の動き

広告関係団体である日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の3団体は、2020年12月1日、デジタル広告の品質を第三者認証する機構「JICDAQ」を設立する「JICDAQ宣言」を発表した。当該認証機構は、広告関係団体が共同してデジタル広告の品質確保に関する取り組みの認証を行い、品質の向上及び改善並びに公正な広告活動を支援し、もってデジタル広告市場の健全な発展に寄与することを目的に設立するものである。「JICDAQ宣言」では、まずは「アドフラウドを含む無効配信の除外」と「広告掲載先品質に伴うブランドセーフティの確保」に関わる業務プロセスの監査基準を制定し、それに沿った業務を適切に行っている事業者を認証し社名を公開するとしている。

毎年二桁の成長を遂げているデジタル広告費はグローバル規模で自動化された取引からなる。この取引の中には、一部の悪意を持ったプレイヤーが入り込んでおり、さまざまな課題が顕在化してきている。当該課題を解決するためには、業界全体でデジタル広告の品質を向上させるための取組みが必要不可欠であり、JICDAQの設立はその取り組みの重要なピースとなる。

デジタル広告における品質課題であるアドフラウド、ブランドセーフティとは?

デジタル広告における品質問題はなぜ生まれたのか。これは、デジタル広告はマス広告と比較して出稿の流れや仕組みが大きく違うことが関係している。テレビ広告を代表とするマス広告は、ターゲティングされた広告スペースという枠を買って広告を掲載する。一方、デジタル広告の主流となった運用型広告は、アドテクノロジーを活用して広告を見せたいターゲットが見ている場所に広告を表示する。この仕組みは、アドネットワークという広告配信ネットワークにおいて入札という形態で広告配信が行われているのであるが、リアルタイムで無数のWebサイト広告枠に対して入札が行われる結果、広告主が実際の出稿面を把握できない事象が起きている。

この構造的な仕組みの違いによってデジタル広告におけるさまざま品質課題が生じているのであるが、代表されるのは、「アドフラウド」、「ブランドセーフティが担保されない広告」である。

 アドフラウドとは、自動化プログラム(Bot)を利用したり、スパムコンテンツを大量に生成したりすることで、インプレッション(広告の表示回数)やクリックを稼ぎ、広告主から不正に広告収入を得る悪質な行為のことである。日本市場では年間数百億円を超える規模の広告費がかすめ取られていると推定されている。

 また、ブランドセーフティとは、インターネット広告の掲載先に紛れ込む違法・不当なサイト、ブランド価値を毀損する不適切なページやコンテンツに配信されるリスクから広告主のブランドを守り、安全性を確保する取り組みのことである。ブランドセーフティが担保されないとは、例えば、アダルトサイトや暴力・違法薬物サイトなどに広告が出てしまいブランドのイメージが毀損する、海賊版や反社会勢力のサイトに広告が出ることにより、間接的にとは言え、その違法サイト運営者や反社会的勢力団体への資金提供につながりかねないなどといったことである。

アドフラウドの一例
ブランドセーフティの一例

デジタル時代に求められる広告主の行動変容

では、広告を出稿する広告主(アドバタイザー)は、デジタル広告の品質課題に対して、自らがどのような対策をとれば良いのか。ヒントとなるのは、2019年11月26日にJAAから発表された「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」である。このアドバタイザー宣言では、デジタル広告の課題について、アドバタイザーとすべてのパートナー(メディア、プラットフォーマー、テクノロジー企業、エージェンシーのすべてを含む、デジタル広告にかかわる企業)が取るべき8つの原則を掲げ、それぞれの原則に対して、パートナーに求めることと、アドバタイザーがとるべき姿勢をまとめている。例えば、「2.厳格なブランドセーフティの担保」では、パートナーには、「広告掲載先でのブランドセーフティを担保するため、ツールなどの手段を導入する必要がある」ことを求めており、アドバタイザーには、「子どもに悪影響を与えたり社会を混乱させたり、怒りや憎しみを助長したりするメディアやプラットフォーマーへは投資は行わない」姿勢を求めている。

それでは、広告主がブランドを毀損する不適切なサイトへの投資を防ぐためには具体的にはどのようにしたら良いのか?ブラックリスト、ホワイトリストの活用や、プライベートマーケットプレイスの利用、アドベリフィケーションツールの導入がある。ただし、いずれの方法も万能ではなく広告主にとっては、自社におけるリスクの影響度や発生可能性を評価したうえで、自社が晒されるリスクに適切に対応するための管理体制を構築していくことが求められている。

また、アドバタイザー宣言において求めているように、出稿した広告の行き先への責任は広告主にあることを自覚し、アドフラウドやブランドセーフティといった社会的に不適切なものにつながる動きは無いかを自らに問いながら、社会に対する規範としての倫理観を持って広告活動を行うことが求められている。

最後に、冒頭の「JICDAQ宣言」に戻ると、「アドフラウドを含む無効配信の除外」と「広告掲載先品質に伴うブランドセーフティの確保」に関わる業務を適切に行っている事業者を第三者機関として認証する行為は、アドバタイザー宣言のパートナーに求める事項の実効性を担保する動きである。

広告主が、原則としてJICDAQが認証した事業者とデジタル広告を行うという好循環サイクルが形成されることにより、持続可能なデジタル広告環境を実現することが可能となるだろう。

今後の業界の動きについて注目していきたい。

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用語解説

アドフラウド゙…自動化プログラム(Bot)を利用したり、スパムコンテンツを大量に生成したりすることで、インプレッションやクリックを稼ぎ、不正に広告収入を得る悪質な手法

無効配信…無効なトラフィックのこと。検索エンジンのクローラーのようなプログラムによる悪意のないトラフィックと、作為的にインプレッションやクリックを発生させる悪意のある不正なトラフィックがある

ブランドセーフティ…インターネット広告の掲載先に紛れ込む違法・不当なサイト、ブランド価値を毀損する不適切なページやコンテンツに配信されるリスクから広告主のブランドを守り、安全性を確保する取り組み

アドネットワーク…複数の媒体社サイト(ページ)を広告配信対象としてネットワークを組み、広告の受注を請け負うサービス。アドサーバーを持ち、複数サイトへの広告の一括配信を行う。媒体社に対して広告販売代行を行うだけでなく、通常媒体社が行う広告枠の在庫管理・掲載業務・レポーティングなども代行する。ネットワーク全体に広告を配信するほか、サイトコンテンツのカテゴリーごとの配信、行動ターゲティングなどが可能なものが多い。

アドベリフィケーション…DSPやアドエクスチェンジを通じて配信される広告が、広告主の意図・条件に沿ったサイトや場所に掲載されているかを検証する機能。条件に基づき不適当な掲載先を除外することができる。

プライベートマーケットプレイス(PMP)…媒体社と広告主を限定したクローズドな広告の取引市場。アドエクスチェンジの利便性を活かしながら、媒体社は安定した広告枠の単価を担保し、広告主はブランドイメージを毀損することなく、プレミアム広告枠を確保できるといったメリットがある。

出典:日本インタラクティブ広告協会(JIAA)のインターネット広告基礎用語集2019年度版より

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