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【イベントレポート】社会的インパクト時代がもたらす“地域×スタートアップ”の可能性

非大都市圏における地域独自のローカルスタートアップエコシステムの可能性を探る

トーマツ地域未来創造室主催のイベントを紹介します。

有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室は、「社会的インパクト時代がもたらす“地域×スタートアップ”の可能性~世界に伍さないスタートアップ拠点都市へ~」と題したセミナーを2023年9月13日に甲府で開催しました。イノベーションとスタートアップをテーマとした都市型フェスイノキャンWeekと連携したイベントで、会場開催とLiveでのオンライン配信というハイブリット形式で行いました。

 

当日は、行政、資金、ソーシャルインパクトのそれぞれの観点からゲストを招き、主に“非大都市圏”における地域独自のローカルスタートアップエコシステム発展の可能性について下記のポイントでディスカッションを行いました。その一部をレポートとしてお届けします。

・社会的インパクト時代に注目されるスタートアップ

・地域による支援体制、資金の集め方など大都市とは違ったローカル独自のエコシステム

 

 

●登壇者:

・藤田 豪氏/株式会社MTG Ventures代表取締役

・松本 直人氏/株式会社ABAKAM代表取締役

・古市 奏文氏/一般財団法人 社会変革推進財団 インパクト・エコノミー・ラボ インパクト・カタリスト

・齊藤 浩志氏/山梨県 知事政策局 リニア未来創造・推進グループ 政策補佐

・香月 稔/有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室 中小・スタートアップ支援全国リーダー(モデレーター)

 

経歴等はこちらをご確認ください。

 

トークセッション導入 ~ローカルスタートアップエコシステムについて~

香月:2022年11月に政府が発表した「スタートアップ育成5か年計画」では「スタートアップは、社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する、まさに「新しい資本主義」の考え方を体現するものである。」と記されている。

また、スタートアップの起業加速と、既存企業によるオープンイノベーションの推進を通じて、日本にスタートアップを産み育てるエコシステムの構築を目指すことの重要性についても触れられている。

国際的な競争力を有するスタートアップの成長を支援する一方で、地方創生において重要なアジェンダである「稼ぐ地域づくり」のためにも、スタートアップ支援は重要と考えられる。全国都道府県の半数以上が人口150万人以下であることを勘案すると、都心部とは異なる環境においてエコシステムを構築することも重要な要素と考えられる。

いわゆるスタートアップエコシステムには、スタートアップを中心に、VCを含む投資家や、大企業、研究機関、EXIT(上場やM&A)経験のある起業家といった様々なプレイヤーがそれぞれ相当数いることが必要と考えるが、150万人以下の非大都市圏においてそれぞれの地域で充足させることは困難と考える。加えて、スタートアップひとつとっても、全てのスタートアップにユニコーンのような成長を求めるものでもなく、各地域における課題と向き合う起業家も重要であり、アトツギやローカルベンチャーといった様々な地域のプレイヤーが存在する。そのため、それぞれのプレイヤーの定義や関わり方の多様性を認識し、多様なリスクマネー、多様なEXITのあり方を各地域ならではの視点で考える必要がある。そこで、今回のパネリストの皆様からも具体的な事例も含めたアイデアをいただき、それぞれの地域のエコシステムづくりに繋げていただきたいと考えている。

 

有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室中小・スタートアップ支援全国リーダー 香月稔

 

テーマ1:社会的インパクトの視点で注目されるスタートアップ・起業家とは?経済的合理性以外の観点からの事例

古市氏

・“社会的インパクト”は非常に多義的な言葉。明確に定義がはっきりしておらず、色々な解釈がある。その中でも重視されるのは、企業自体にインパクトを産み出すという指向性・目的、目指すという意志がありそれを追求していくことを言語化して・可視化して訴えていくこと。

・インパクトをいかに拡大していくのかという活動の中でインパクトを評価するという特定のプロセスが入る。インパクトを描いて、具体的に世の中に伝えるために評価していくというプロセスが必要となる。


松本氏

・地域課題の解決に取り組むローカルスタートアップ企業への出資等を行う「JR東日本ローカルスタートアップ合同会社」が今年6月に立ち上がりそのアドバイザーを務めているが、立ち上げと同時に株式会社haccobaに投資を行った。

イノベーションよりは“地域課題”にどう対応するかの想いに投資した。

・彼らは酒造免許から作られるお酒ではなく、“どぶろく”という昔ながらの手法で「クラフトサケ」という形でリブランディングしている。特徴として飲むシーンにフォーカスしており、花見と共に飲むお酒。音楽聞きながら飲むお酒などシーン別に開発することで競争力をつくっている。

・福島という場所で取れるお米の価値を上げる、そこから産まれる作物の価値を上げることを真剣に考えて「お酒」という手段を取っている。スタートは儲けるという発想ではない。haccoba醸造所がある浪江に人も集まっている。

 

藤田氏

・(株)MTG Venturesでは上場を目指す会社に投資するファンドを運用しているが、株式会社Clearというラグジュアリー日本酒ブランドの会社に投資している。

・日本酒の消費量が減っているなかで、海外に売っていかなければいけないということでラグジュアリーブランドを作って1本3-4万のお酒を造っている。農家も含めて日本酒業界に利益が出るようにしている。

・一方で秋田県の男鹿市にも「クラフトサケ」をやっている稲とアガベ株式会社がある。代表の岡住氏は九州出身。新政酒造で修業してからJR男鹿駅の古い駅舎を改装して醸造所をつくった。

・お米を磨いてないため廃棄物が少ない。酒粕は発酵マヨネーズにもしている。

・男鹿市は産業がなく、駅の周りにもなにもない。稲とアガベは男鹿の塩を使って一風堂レシピ監修のラーメン店をオープン。男鹿の塩を使い、ラーメン専用酒もつくっている。発酵マヨネーズを売るショップも作り、旅館も改修している。街に足りないパーツを自分でやっている。人が減っていくところへ人を呼んでいる

市長も岡住氏とタッグを組んで10~20年先の男鹿の未来を創ろうとしている

・Clearと稲とアガベ、それぞれ目指している方向性は違うけども日本にとってはプラス。

 

香月

・日本酒を作るという産業自体に注目するというよりは。地域課題を解決する手段としてお酒づくり。必ずしもITだけがスタートアップではないというのがよくわかる事例。


古市氏

・社会的インパクト投資が何なのかというと、今までの投資活動、経済的なリターンを産み出して利益をあげるという考えに対して、経済性は失わないけれどもインパクトを拡大していくことを投資判断の意思決定に組み込むという活動。

・ここでの「社会的インパクト」はお金ではない様々な価値を示すために使われている。●●資本ということがある。たとえばお酒作りは文化資本としての価値がある。ある種金銭的価値に換算される可能性もある。社会的インパクトが文化資本としての価値を醸成。ここにおいてインパクト投資とインパクト評価が重要

・海外に売ると儲かるという話はたくさんあるが、ステークホルダーやバリューチェーンに対してインパクト評価の中で丁寧にKPIをみていくと生産者はいいもの作っているが収益がちゃんと届いていないなどがわかる。

・日本の中には文化資本が眠っていてネクストマーケットとして世界から注目されているが、ただビジネスにしてしまい海外に売っていくと、流出して最終的に何も残らなかったという怖いことがありえる。代替わりや節目のタイミングで、何を長期的に守るのか。社会的価値として拡大できるのか、何を残すのか。を見極めることが重要。

テーマ2:地域(非大都市圏)が築くべきローカルスタートアップエコシステムとは?

松本氏:

・ローカルスタートアップエコシステムに関して2つある。

・一つは「ひと」。現在福岡などをはじめスタートアップエコシステムができつつある地域はあるが、普通自治体側や政策で考えるのは、どんなリソースがあるかをベースに考える。

しかしリソースベースでは、スタートアップエコシステムができているかできていないかはあまり関係ない。重要なのは「ひと」だと思っている。秋田なら今日もご登壇の藤田さん 。など

・地域に想いとパッションと行動力と地域を巻き込む力を持つ人がいるかどうか。

・持論だが、明治維新は名を残した志士は3,000人いると言われている、当時日本の人口3,000万人ほど。とすると、1万人に1人そういう人がいたら地域が変わると思っている山梨の人口が80万人なら、80人。もっと小さい市なら数人で変わる。

二つ目は、地域での「スタートアップ」という言葉の定義。地域の人が、東京で生まれた「スタートアップ」という言葉の定義をそのまま使うのがナンセンス。東京と比べるだけになってしまう。たとえば、「山梨のスタートアップ」とはどういう定義なのか。定義するとそういう人たちが、その分野でトップになろうと集まってくる。それがスタートアップエコシステムになると思っている

 

藤田氏:

地域では急成長じゃないスタートアップを、認定制度をつくって応援していくと良い。この地域はこういうスタートアップを応援しているのだということもわかる

・富山はT-Startupいう認証がある。地域みんなで応援しようとなっている。

 

古市氏:

・最近、インパクト投資の新しい在り方の一つとして「Placed-Based Investment」という流れが出てきている。地域に根差し、地域自体を主語にして地域一体としてインパクト投資を進めていくもの。

・場所を明確に決めて、その地域においてインパクト投資を複合的に行う。たとえば、企業への出資や事業者誘致の助成金など、金融資本を複数目的に応じて使い分けながら中長期的に地域活性化のために組み合わせる総合格闘技的な手法

 

齊藤氏:

・現在行っている実証実験事業では全国からスタートアップを採択し、山梨で実証を行っている。

・県の担当者は、スタートアップのソリューションを理解し、県内で応援してもらう人につなげる役割がある。医療系であれば病院の先生など、ひとつずつ丁寧に行っている。

・イノベーション関係人口とすると、スタートアップからは「山梨と関われたことにより、事業が進んだ」と言ってもらえて感謝されている感触がある。一方で、地域では、自分の言葉ではないが、“スタートアップエコシステム”ではなく、“イノベーションエコシステム”を目指すのがいいのではないか。地域側は、スタートアップとどう関わったらいいのか。となりがちなので、一緒に新しい価値を生み出すということでイノベーションエコシステムという言葉の方が地域では受け入れられやすいと思っている

 

香月:

・山梨の事業は補助金もあり、県庁職員が本気でサポートして、まさに総合力。起業家に感謝の気持ちが出て、恩送りのようにスタートアップ界隈で事業が広がっていく。

 

藤田氏:

・自分の故郷である秋田をフィールドに男鹿や五城目などローカルスタートアップがいる現場などを巡る“スタートアップツアー”を開催予定。自分のFacebookでの呼びかけに数十人が参加表明している。大半がほぼ秋田に来たことのない人。

・秋田側では、起業家4人をホストにしているが、そこに手伝いの人や自治体がサポートに来る。このような企画で来ると「秋田っていいところ」と思ってくれる。 

観光などの関係人口づくりとは違った形のやり方。これがきっかけで事業が産まれればここから投資先が産まれるかもしれない。長い将来の話

地域でやるには10年ターム位でコミットする人がいかに増えるかが重要

 

古市氏:

・スタートアップという言葉が先に立つと、地域を理解する・新しく成長させていくところからミスリーディングする可能性もある。

・例えば、富山県は保守王国と捉えられがちだが、新しい変化ある地域がある。

・立山町。前田薬品工業株式会社が、田園風景の広がる地域に最先端のスパやレストランの複合施設(Healthian wood)を作り、明確に関係人口に寄与。変わりつつあることを感じ取れる。

・手掛けたのは前田薬品工業の3代目社長。前田さんをスタートアップととらえると見過ごしてしまう。

新しいタイプの人。新しい見方をする必要がある。

・地域のことにも詳しくステークホルダーともきちんとコミュニケーションを取れる人だから実現できる。

・各地域でそういう人を見つけ出したり、作っていったりすることが重要。

 

香月:

・スタートアップという言葉が独り歩きしているところもある。それぞれの理解のもとで咀嚼してローカライズすることが重要

 

松本氏:

・最後に、エコシステム要素で、「お金」に関して話したい。

・VC的な投資の場合は、投資した株主が利益を最大限享受する。ステークホルダーに豊かさ、富がきちんと配分されるのかが課題。

・エクイティ自体を進化させる必要があり、前職でチャレンジしていた。いま考えているのは地域のステークホルダーがエクイティホルダーになったらいいのでは。

・会社が利益を上げて配当が増えればエクイティホルダーも収入増える。ステークホルダーは会社の利益が上がるように応援すればいい。普通株のモデルだけだと議決権などの問題があるので別途設計すべき。たとえば無議決権でいいので、あらゆるステークホルダーが持つ。リターンも長期の優先配当だけになるなど。上場してキャピタルゲインを得るなどではなく長期的に優先配当が得られる。

・誰がもってもいい。初めにリスクマネーを持つ人がいても、配当100円でもって500円になったときに誰かに渡す・金融機関にもってもらうなどステークホルダーの中でエクイティが広がる。

・経営者からすると、自分たちのファンが無限に増えていく。そのような設計が人のエコシステムと合わさると地域がもっと良くなっていくと思っている

 

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