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業界展望2022 消費財

信頼獲得に向けた新たな課題へ挑戦

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナという)により、世界レベルでマクロ経済が逆風にさらされる一方で、消費財業界の展望は比較的明るいものとなっている。業界の成長見通しは前向きに捉えることができるが、消費トレンドの変化を理解し、消費者のニーズを満たす準備を整えられるかが、企業にとっては重要なポイントになっている。本稿では、複雑かつ不確実な環境下で、今後の消費財業界を左右する要因を踏まえ、消費財業界のシナリオを分析し、今後の展望について検討する。

グローバルにおける消費財業界にとって、今後1年は好調な業績が期待できる年になりそうだ。デロイトが実施した2022年の業界展望調査によると、消費財企業幹部らは、収益拡大の推進を第一の目標とし、調査対象の消費財企業の半数以上が、コストの上昇にもかかわらず営業利益の増加を見込んでいる。これは、前年の不確実性の中で「ノーリグレット(悔いのない)行動」 に取り組んだ成果*1と、最終消費者に対する値上げの流れも背景となっており、上場企業の3分の2が既にパンデミック前の水準よりも高い利益率を達成している。

一方で、2022年には大きな課題が発生する可能性も高い。サプライチェーンにおける課題は完全かつ迅速に解決することが難しいとみられ、労働力の確保も難しく、あらゆる種類のコストが急上昇し、これらの要因が、消費財業界の成長に大きな影響を及ぼすと見込まれている。

これら消費財業界の抱える課題解決へ向けて、企業とは異なる視点を持つであろう、主要なステークホルダーである消費者、小売業などのパートナー、そして従業員を理解すること、そして、彼らの「信頼」の獲得が重要となる。


*1 デロイト「業界展望2021 消費財 不確実な状況下におけるノーリグレット行動の実践



2022年信頼獲得へ向けた3つの必須条件

信頼が意味することは、ステークホルダーの立場により異なる。調査対象となった幹部のうち、3分の2が信頼の構築が自社の最優先事項であると回答し、それを上回る数の回答者が信頼は自社にとって、最も価値のある資産だと答え多くが「信頼獲得」へ向けた投資を行っている。

大手消費財企業は、主に次の3つの方法で信頼構築に取り組み、変革が期待されている。

  1. 透明性の向上:サプライチェーンの情報開示やサステナビリティ対応など、企業を取り巻く情報に関する透明性の確保
  2. デジタルエンゲージメントの拡大:消費者とのダイレクトなコミュニケーションを実現するデジタル化の推進
  3. 未来の働き方への投資:従業員の能力を引き出せる職場づくり、従業員エンゲージメントの向上
     

※詳細は、本文レポートを参照  > ダウンロードする (PDF, 3MB)
 

 

日本における「信頼」獲得に向けた取り組み

本稿では、グローバルのレポートで示した企業活動としての3つの変革に向けた取り組みのうち、透明性とデジタル化の2つに絞り、業界動向と事例を通して、国内の消費財業界展望について分析している。

近年では、従来型メディアに加え、ソーシャルメディアなど消費者主体の発信情報が購買行動へ影響する割合も加速的に増加しており、消費財企業は、単純なマス広告ではなく、ターゲットや消費者のニーズの変化を捉えた情報発信が求められている。

また、日本市場の特徴として、商品やサービスの質や納期などの基本的な要素の充足度は海外と比較しても高い傾向にある上に、近年、気候変動や温暖化、環境負荷などの観点で、「個」だけでなく、「社会」や「環境」への意識が世界的に高まり、サステナビリティに関する情緒的価値が台頭してきている。

そのような環境下において、機能的ニーズや価格設定が満たされた状況で、情緒的価値の一要素が、例えば、「サステナビリティ」の取り組み有無が、最終的な購買判断基準となることが今後起こりえるだろう。

今後、企業は、継続して商品・サービスの機能的ニーズへの訴求を図りながらも、情緒的ニーズへの訴求を強化すること、すなわち、環境問題や社会問題などのサステナビリティへの取り組みを一層加速させることの有用性が高まっている状況と捉えている。

企業の様々な取り組みを、透明性を持って開示・説明し、さらにデジタル化により、消費者にダイレクトに伝えていくことが、日本市場における「信頼」獲得、つまり、今後の回復市場の獲得や将来のターゲット顧客層へのリーチにつながる施策といえるのではないだろうか。
 

本レポートはDeloitte Touche Tohmatsu Limited が発表した内容をもとに、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社が翻訳・加筆したものです。和訳版と原文(英語)に差異が発生した場合には、原文を優先します。
原文(英語)レポートは以下よりご参照頂けます。

2022 consumer products industry outlook
 

床川 俊太郎/Shuntaro Tokokawa
デロイトトーマツコンサルティング シニアマネジャー

消費財・化粧品・アパレル、食品・飲料などのコンシューマ業界を中心に10年以上のコンサルティング実績を持つ。ホールディングス化、企業価値評価・M&Aなどの事業構造変革領域や、市場参入戦略、マーケティング戦略などの事業戦略・成長戦略領域、およびサプライチェーンを軸とした業務改革領域などの幅広いプロジェクト経験を有している。
 

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