調査レポート

2023年度「食生活に関する消費行動調査」

新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)により消費者の生活は大きく変容し、ライフスタイルや食生活においても変化が起きている。デロイト トーマツでは昨年に引き続き、これらの生活様式の移行に伴う消費者の食生活に関する価値観や消費実態の変化を捉えるべく、2023年5月に全国の20歳~79歳の男女5,000人を対象に、WEBアンケート「食生活に関する消費行動調査」を実施した。本稿ではその調査結果の一部を紹介、考察する。

本調査では、「ライフスタイル・価値観」「食生活における価値観・重要視する点」「食品飲料関連の値上げに対する動向と今後の受容性」「免疫ケア食品・飲料や高たんぱく加工食品に代表される新商品・サービスの利用実績・今後の利用意向」等について調査を行い、消費行動を分析した。

 

食生活における価値観、コスパと健康の意識が高まる

食生活で重視する要素については、「美味しさ」が最も高い割合であることは昨年と変化はないが、各項目で「重視する」と回答した層は減少しており全体的に消費者の食生活への拘り度合いの低下が窺える。しかし「お得さ、コストパフォーマンス」(昨年比+5.5%)「健康・栄養バランス」(同+1.2%)は伸長しており、消費者は足元の物価上昇を受け、より価格に対してシビアになっていると共に、コロナ禍を経て強まった健康意識が引き続き高まっていることが見受けられる。「お得さ、コストパフォーマンス」は性年代で大きな差はないが、「健康・栄養バランス」については年代が上がるほど重要視している層が多い傾向が見られた。

以降では、これらの消費者のコスパ意識と健康意識の高まりと、それらに伴う消費行動について詳述する。

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足元の物価上昇を受け、買う物・買い方を見直している

本調査では「生鮮食品」「清涼飲料水」「保存食品」「お菓子・スイーツ」「お酒」の5つの商品カテゴリごとに購入金額の変化や値上げに関する意識を聴取している。

昨年と比較した購入金額の変化においては、商品カテゴリ毎の昨年からの消費金額の変化に関して、「生鮮食品」「保存食品」「お菓子・スイーツ」では「(1年前と比較して)購入金額が減った」と回答した割合よりも「増えた」と回答した割合が多く、増えたと回答した層の6割以上が「値上がり」を理由に挙げている。「消費量の増加」を理由に挙げる層も2割程度は存在するものの、相次ぐ商品価格高騰によりやむを得ず購入金額が増加したという背景も推測される。

また、「購入金額が減った」と回答した人の割合は「お酒」が最も高く、次いで「お菓子・スイーツ」となっており、嗜好品ほど購入金額が減っていることが示された。全体として金額が減った理由は、「購入するのをやめた」「消費量・購入頻度が減った」といった消費自体の抑制と、「大容量・まとめ買い」「PB・低価格商品に変更」等の買い方工夫に大別される。多くの消費者は物価上昇環境下において、節約を意識して、買う物・買い方を精査する事で、家計防衛を図っていると推察される。

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消費者の値上げに対する受容性は二分しており、今後もコンシューマー企業としては慎重に価格を検討する必要がある

全商品カテゴリ共通で、約5割が「値上げを許容不可」と回答している一方で、約3~4割が「5-15%の値上げであれば許容する」、約1~2割がそれ以上の値上げも許容すると回答しており、消費者の値上げに対する受容性は2分している。

商品カテゴリ毎の許容値上げ率に関しては、生鮮食品と清涼飲料水、保存食品、お菓子・スイーツでは9%台が中心であるが、嗜好性の高い酒類は11%前後と他のカテゴリに比べて相対的に高くなっている。中でもウイスキーについては昨今の希少性や資産価値としての高まりもあり、「値上げは気にしない」と回答する層が他のカテゴリに比べて高い結果となった。

コンシューマー業界においては今後も多数の品目での値上げが予定されているが、引き続きコンシューマー企業は、自社の商品の単価、市場シェア状況、小売りとの関係性の考慮は前提とし、カテゴリ毎の値上げの受容性も踏まえた上で、値上げ幅・タイミングの検討が必要であるだろう。

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引き続き高まる健康意識、女性は年代が上がる程、ハームレスさを重視した引き算発想で健康を追求

冒頭に示した通り、健康意識は男女共通で、年代が上がるに連れて高まる傾向であり、その中でも、特に女性は年代に応じて、健康に対するアプローチの違いが見られる。女性は年代が上がる程、「添加物の少なさ」「オーガニックや自然派食品の摂取」「食の安全性(産地など)」等のハームレスさ重視し、有害物質を身体に取り込まない“引き算発想”によって、体内から健康になる事を意識している。一方で、「美容」「低カロリー・ダイエット」等の機能性に関しては、年代が若い程高い傾向で、高機能食品を身体に取り込む“足し算発想”で、外見に直結する健康を追求している。また、年代が上がるに連れて、「免疫向上・病気予防」を重視しており、未病に繋がる高機能商品は取り入れている様子が見受けられる。
 

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昨今生まれた新商品・サービスの中では、「健康促進価値」が付与された商品の浸透度および今後の利用意向度が高い

昨今、消費者の興味関心は多種多様なものに広がりを見せ、コンシューマー業界ではその需要に対応すべく利便性等の付加価値を加えた新商品・サービスが拡大している。本調査ではこうした新商品・サービスにおける利用経験や今後の利用意向についても聴取した。

利用経験・意向に関して、全ての新商品・サービスで、「買ったことはない・利用したことはない」「知らない」が大きな割合を占めるが、その中でも、「継続使用している」と「1度利用した」と回答した割合が多かったのは「ノンアル・低アル飲料」「免疫ケア食品・飲料」「高たんぱく加工食品」「代替肉」であり、健康・サステナビリティといった付加価値を備えた商品の消費者への浸透度が相対的に高い傾向がある。また、これらの浸透度合いが高い商品の中でも「免疫ケア食品・飲料」「高たんぱく加工食品」は、今後の利用意向の割合も相対的に高くなっている。前述の通り消費者の健康意識が高まっていることも鑑みると、新商品・サービスに対する健康促進価値への期待が窺える。

コンシューマー企業は、こうした消費者意識の高まりを契機と捉え、高付加価値商品・サービスのさらなる認知拡大を図ると共に、利用促進に向けターゲット顧客に対して新たな価値を理解してもらうための仕掛けづくりやマーケティングが重要になるだろう。
 

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調査概要

調査日:2023年5月中旬
調査方法:インターネットを利用したパネル調査(47都道府県)
※統計局2023年4月発行の人口データを元にウエイトバック値を反映

山下 徹/Toru Yamashita
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー

外資系コンサルティング、スタートアップの立上げを経て現職。コンシューマ業界を中心に、新規事業開発支援、組織設計・立上支援、toCマーケティングの戦略立案・実行支援に従事。

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