調査レポート

2024年度「国内富裕層意識・購買行動調査」

国内富裕層のライフスタイルや消費志向を捉える

コンシューマー業界では、国内富裕層の旺盛な購買力が様々な業種において好業績を牽引している。デロイト トーマツでは、国内富裕層のライフスタイルや消費行動などを把握するため、2024年5月に世帯年収2,000万円以上の全国20歳~79歳の男女1,821人を対象に、WEBアンケート「国内富裕層意識・購買行動調査」を実施した。本稿ではその調査結果の一部を紹介するとともに、同時期に実施した「国内消費者意識・購買行動調査」の結果と比較し、考察する。

富裕層ならではの高品質な生活意識と個別化された消費ニーズ

本調査では生活や消費に関する価値観について質問している。生活に関する価値観においては、節約や貯蓄を重視する意向が高い国内消費者(以下、一般消費者)に比べ、国内富裕層(以下、富裕層)は「ウエルビーイングな生活を重視したい」「他より少し高価であっても上質なものを生活に取り入れたい」「人生の価値を高める特別な体験を重視したい」といった生活の質を高める意向が高く、より良い生活条件や幸福感を追求する意識が窺える。また、7割以上が「自分の好きなことに対しては支出をいとわない」「趣味や好きなことを深く極めたい」と回答しており、個人の興味を追求するために時間や資金を惜しまない傾向が窺える結果となった。

消費に関する価値観においては、世帯年収に係わらず7割が「自分が気に入ればブランドや評判は気にならない」、6割が「情報に踊らされることにうんざりしている」と回答しており、自分自身の好みや直感を重視するとともに、過剰な情報の流れに対して疲弊や不満を感じていることが示された。そのほか、生活に関する価値観同様に、一般消費者のコストパフォーマンスに関する意識は高く、半数以上が「何よりも値段やお得さを最優先したい」と回答している一方で、富裕層の6割が「自分にあう商品・サービスを提案してほしい」「自分向けにカスタマイズできる商品・サービスに魅力を感じる」「接客やサービスを受けるときのサポートの充実度を重視している」と回答しており、自分に最適な商品やサービスを求め、その選択と購入過程での充実したサポートを重要視していることが示される結果となった。


本調査では、富裕層のライフスタイルを把握するために保有資産や時間の使い方についても質問している。

保有資産においては、本調査における富裕層の約6割が「自宅一戸建て・マンション」を保有しており、半数が「株式」を保有している。20代の若年層であっても約40%が自宅不動産を保有し、25%が株式を保有していると回答している。一方、「仮想通貨」や「NFT」といったデジタル関連資産の保有率は1割程度に留まるが、30~40代を中心に年代が若いほど保有率が高い傾向にある。


一日の時間の使い方について、富裕層と一般消費者を比較すると、世帯年収が高いほど、休日でも仕事に時間を費やすことが多く、休日以外でも特に男性は睡眠時間以上に仕事の割合が高い傾向にある。また、富裕層は家族と過ごす時間の割合が高く、特に休日においては40~50代の働き世代や、女性よりも男性で家族と過ごす時間の割合が高い。時間的に余裕がない中で、効率的なタイムマネジメントをサポートするなど、コンシューマー企業においては富裕層ならではのライフスタイル・ニーズに特化したサービス検討が求められる。


 

一般消費者に比べてEC利用率が高く、店舗での商品購入時には品質や個人の好みを重視する一方で、経済的要因も考慮

商品購入時の利用チャネルについては、富裕層においても店舗中心の購買傾向である。中でも日常的な消費である「食料品(生鮮/加工食品・惣菜)」は8割、「飲料(清涼飲料水)」は7割が「店舗で購入する」と回答している。しかし、一般消費者と比較すると、高級ブランド・宝飾・時計などの「ラグジュアリー品」以外の商品カテゴリでは「(併用含め)ECで購入する」と回答した割合が高く、特に「飲料(清涼飲料・アルコール)」や「日用品」では一般消費者に比べ1割以上EC利用率が高いことが示された。

商品カテゴリ別の「店舗で商品・サービスを購入・予約する際に重視していること」の要因の上位を比較すると、富裕層はより「味」「鮮度」「機能性」「利便性」といった品質や「デザイン」「ブランド・メーカー」といった個人の好みを重視する傾向が窺える。しかし「食料品」「飲料」「外食」以外の商品カテゴリについては、回答割合に差はあるものの一般消費者同様に「価格」や「コストパフォーマンス」が最上位となっており、経済的価値が重視されている。消費意欲が活発な富裕層においても、価格と価値のバランスを意識した消費・購買行動が窺える結果となった。

 

 

富裕層向けサービスに関して高い満足度と継続的な関心

本調査では、富裕層向けのコンシューマー関連サービスの利用実態についても質問している。多くのサービスにおいて、一度でも利用したことがあると回答した割合は3割を超えたほか、利用者の6割以上が満足していると回答している。

最も利用率と満足度が共に高いのは、ラウンジサービス、次に満足度が高いのは、「予約困難なホテルやレストランの確保」「コンサートやイベントの先行予約・優先予約」といった、希少性の高いものであり、「機会があれば継続したい・利用してみたい」という潜在顧客も3割存在することから、サービスの利用価値を認知させることで顧客層の拡大が期待される。ラウンジサービスの次に利用率が高い「百貨店外商」は、約3割が継続利用をしており、利用者の1割以上は「ほぼ毎日」何らかの形でコミュニケーションを取っていると回答している。しかしコミュニケーションの頻度については、百貨店外商利用者全体で2割が現在の頻度は多いと感じており、顧客のライフスタイルを理解した効率的かつ効果的な頻度の検討が求められる。

 

旅行に関連する支出意欲が高い富裕層は、世代間で求める価値や重視するポイントが異なる

富裕層において「今後消費額を増やしたいもの」の上位は「国内旅行」「海外旅行」であり、ともに約3割が回答している。旅行に関する消費意欲が高い富裕層であるが、「旅行において優先する価値」は、金銭的価値や時間的価値よりも、性年代問わず特別な体験ができるなどの「質的な価値」が最も優先される結果となった。しかし、男女ともに若年層ほど安さや費用対効果などの「金銭的価値」を優先し、女性は年代が上がるほど利便性など「時間的価値」を優先する傾向が見られた。

また、世代間での差は「旅行において重視する行動」においても窺える。年代が若いほど特定の座席やクラスなど「移動」を重視する一方で、年代が上がるほど「宿泊施設」の質にこだわりを持っている。

国内外を含め、旅行への支出意欲が高い富裕層に対して、消費パターンと世代間の違いを理解し、それぞれのニーズに合わせたサービスの差別化、マーケティング戦略を展開することが求められる。


 

価値観や消費嗜好の異なる5タイプの富裕層

今回の調査結果から得られたライフスタイルや消費に関する価値観を元に、国内富裕層には以下の5つのタイプがあることを独自に見出した。一口に富裕層と言っても、社会的「伝統派」、品質や個人の好みを重視する「個性派」、合理性や実用性を重視する「堅実派」、トレンドに敏感な「先進派」、そしてそれらに左右されない「無色派」が存在することがわかった。コンシューマー業界では、富裕層ならではのニーズに対してパーソナライズされた情報やサービスの提供に重点を置く企業も多いが、よりターゲットやアプローチを広げるにあたっては、消費行動や嗜好に関するデータの活用による、自社および未来のターゲット層の理解を深め、適切なタイミングで個々に求める価値を踏まえた提案をすることが求められている。

 

 

 

調査概要

調査日:2024年5月上旬

調査方法:インターネットを利用したパネル調査(47都道府県)

※統計局2024年4月発行の人口データを元にウエイトバック値を反映

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