最新動向/市場予測

水素・再エネ・蓄電池の最新動向と今後の展望

「第三次エネルギー革命 水素・再エネ・蓄電池―これからのエネルギーシステムを考える―」シンポジウム開催レポート

2020年4月28日、「第三次エネルギー革命 水素・再エネ・蓄電池―これからのエネルギーシステムを考える―」と題した、オンラインシンポジウムが開催されました。持続可能な新しいエネルギーシステムの構築に向けて、水素や再生可能エネルギー(以下「再エネ」とする)への期待が高まっています。水素は再エネなど様々な一次エネルギーから作りだし、貯蔵・輸送し、クリーンに利用する「エネルギーキャリア」として活用することなどが注目されています。本シンポジウムでは、水素や再エネ、蓄電池に関わる業界の第一人者の方々による最新動向や今後の展望について解説されました。

再生可能エネルギーの主力電源化に向けて~その課題と展望~

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課
梶 直弘 氏

 

世界の再エネ導入状況と比較した場合、日本の再エネ導入量は世界第6位、増加スピードはこの7年間で3倍となっており、着実に再エネの導入が進捗している。その一方で、再エネ由来の電力価格は世界の主要先進国と比べ依然高く、国際水準を目指し競争力のある水準までコストを低減させる必要がある。

 

そこで経済産業省では、再エネの普及拡大とコスト低減の好循環を実現するため、FIT(Feed-in Tariff:固定価格買取制度)の抜本的な見直しを検討している。発電コストの高さや洋上風力等の立地制約あるいは系統制約の顕在化、適切な調整力の必要性といった課題に対応するため、電源の特性に応じた支援制度の確立や地域に根差した再エネ導入の促進、再エネが主力となり得る時代の次世代電力ネットワークの確立を目指している。長期的・安定的・効率的な再エネの導入拡大という未来に向けて、民間事業者・政府と連携して推進していきたい。

 

カーボン・ゼロ社会の実現に向けて

環境省 地球環境局 地球温暖化対策事業室
村井 啓朗 氏

 

脱炭素化社会の実現および温室効果ガスの大幅削減を推進するにあたり、2015年に採択されたパリ協定に基づき、日本では2019年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が策定された。また、上記の戦略に基づき2020年1月には「革新的環境イノベーション戦略」が閣議決定され、エネルギー・環境分野において革新的なイノベーションを創出し、社会実装可能なコストを実現することを掲げている。

 

上記の背景を踏まえ、環境省では、脱炭素社会・ビヨンドゼロの実現に向けたイノベーションの社会実装のため、再エネの主力電源化やCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CO2の回収・有効利用・貯留)技術の実用化、将来性のある新素材等による徹底した省エネの実現を推進している。浮体式洋上風力の普及や再エネ由来水素のコスト低減、また蓄電池等を活用した災害に強い自立分散型エネルギーの構築といった再エネの主力電源化に向けた取組や、CO2の回収・資源化に資する技術の実用化支援等を通し、「環境と成長の好循環」実現を目指している。

 

2050年のエネルギーの姿~エネルギーシミュレーションによる将来予測~ 予測モデルを通して見える、未来の日本の課題

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パブリックセクター
執行役員 庵原 一水、シニアスペシャリストリード 濵﨑 博

 

日本のエネルギーシステムが直面しうる課題とエネルギーの将来を考えるための論点

パリ協定等の国際的な脱炭素社会実現に向けた潮流に加え、今後日本のエネルギーシステムが直面しうる課題としては、人口減少や地方の過疎化によるエネルギー需要の減少、発電設備や送配電網設備等のインフラ老朽化、自然災害の激甚化の3点が挙げられる。

 

温室効果ガスの削減に向けたエネルギーシステムの将来像検討にあたり、下記の3要件が重要であると考えており、課題や要件等を包括的に検討する方法論の開発が必要である。

  • エネルギーサプライチェーン全体での脱炭素化の推進
    再エネの場合は電力がフォーカスされるが、化石資源への依存度が高い熱や輸送用燃料も含めたエネルギーサプライチェーン全体での最適化を図る。
  • 需要減少を前提としたエネルギーインフラのリプレイスの実現
    現行のインフラをベースとしつつ、需要変化に柔軟に対応できる分散型ネットワークや先端技術を活用したエネルギーマネジメントシステムの構築を図る。
  • エネルギー供給の分散化・多重化によるレジリエンスの強化
    分散制御システムの普及や平時の需給調整と非常時のバックアップの双方に資する蓄エネシステムの導入を図る。

 

将来のエネルギーシステム検討のアプローチ

新しいエネルギーシステムの将来像検討にあたっては、地理的視点やエネルギーインフラ(系統)、柔軟性メカニズム、個別ではなくシステム視点、人口動態といった観点から検討することが望ましいと考えられる。IEA(IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が独自に開発し、各国政府や研究機関が長期エネルギーシナリオ分析に用いているTIMES(The Integrated MARKAL EFOM System)においても、系統情報や再エネ導入量といったエネルギーに係る様々な情報や人口動態、発電所情報をインプットとし、複雑化する将来のエネルギーの需給構造を、コスト最小化等を目的関数として計算している。

 

上記を踏まえ、2050年におけるエネルギーシステムとして3つの要件が想定される。

  • 系統拡充の必要性
    既存の系統では再エネポテンシャルの活用に適しておらず、系統の拡充によって再エネ普及の促進を図る。
  • EV(Electric Vehicle:電気自動車(以下「EV」とする)の電力システムへの統合
    EVのシェアは2050年までに8割まで上昇する一方、従来の充電パターンでは再エネ普及の阻害要因となり得るため、エネルギーシステムの一部として最適な受放電管理を行うことで、再エネ普及の促進を図る。
  • 多様な柔軟性メカニズムの活用
    1つではなく、全ての技術やエネルギーについて検討が必要であり、燃料電池や系統蓄電池、揚水発電などを組み合わせることで低炭素化を図る。

 

脱炭素社会実現のカギを握る産業のCO2フリー水素利用と電化

東京電力ホールディングス株式会社 技術戦略ユニット 技術統括室 プロデューサー
矢田部 隆志 氏

 

エネルギーの国際潮流

カーボンフリー社会の実現に向けた社会的な要請などのビジネス環境の変化により、エネルギー事業としても脱炭素化に向けた取組が求められている。その中で、化石燃料によるエネルギー消費量が全体の7割を占める需要サイドのなかで、熱や運輸といった非電力需要の電化が必要である。電源の脱炭素化、需要側での脱炭素化、これを支えるプラットフォームとして、安定で低廉な電力システムへのシンカ (深化・進化)、再エネと電力システムの統合を推進することが重要である。

 

需要側における脱炭素化に向けた取組のあり方

業種業態の垣根を越え、電化とデジタル化を組み合わせた電化へのシフトを進める必要があり、特に製造業に脱炭素化が求められ、その方策として電化も期待されている。生産工程、材料、質、自動化、加熱の観点での電化に向けた取組が推進されている。供給側としても、電力需要の増加が見込まれる中で環境負荷の少ない電力の供給が不可欠である。

 

再エネからの燃料製造~CO2フリー水素の活用~

再エネ発電のコストが今後低減する見通しがある中、再エネ電源より製造されたCO2フリー水素を電源としてだけではなく、ガス体エネルギーとしての活用も期待されている。東京電力では、山梨県で既存のガスネットワークを活用して、都市ガス内に水素を混入し、需要家に対し水素エネルギーを供給する仕組みの検討も含めた実証事業を展開している。

 

東芝が描く水素システムの構築に向けた取り組み

東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部
マーケティングエグゼクティブ 大田 裕之 氏

 

東芝の水素事業コンセプト

低炭素化を契機として再エネ導入は進む一方で、再エネの接続制限拡大や、再エネの出力抑制拡大による再エネ稼働率低下等の再エネの増加を抑制する課題が顕在化しつつある。東芝は新たな事業機会ととらえ、未使用である余剰電力を有効活用でき、工業製品の原料や熱利用、燃料利用等多目的に利用できる水素に着目した。水素の分散利用と広域利用の双方の観点から、再エネ水素・燃料電池の普及を目的とした水素サプライチェーンの構築および自立型水素エネルギー供給システムの普及を目的とした水素貯蔵による分散電源の確立に向けた取組を展開している。

 

水素社会実現に向けた取組

  • 水素サプライチェーンの構築に向けた取組
    安価な水素製造を目指し、再エネ電源による水素製造に加え、需給バランスを調整する系統調整機能の確立も目指す
  • 水素貯蔵による分散電源の確立に向けた取組
    自社で開発した自立型水素エネルギー供給システムを用い、駅での電力供給だけでなく、非常時電源としての活用も視野に事業を展開

 

世界のエネルギートランジションに果たす水素の役割~世界はビジネスチャンスと捉えているが日本は?~

株式会社HyWealth CEO兼チーフコンサルタント、元トヨタ自動車株式会社
プロフェッショナルパートナー 広瀬 雄彦 氏

 

水素の役割

低炭素化を進めるうえで再生可能エネルギーをさらに大きく社会に活用することが重要であり水素を活用することで再エネの大規模・中長期貯蔵や長距離輸送が大幅に可能になる点や、運輸部門だけでなく製造業の熱や動力の低炭素化に資する点、製造に係るカーボンニュートラルの観点から化学産業で利用できる可能性がある点など、水素は低炭素化の実現に向けて大きな役割を担いうると考えている。2050年の低炭素化社会において水素は、発電や運輸、産業エネルギー、建物暖房、産業原料への利用が見込まれ、世界のエネルギー消費量の18%を占めることが予想されており、それにあわせ280兆円規模のビジネスの創成と3000万人規模の雇用創出などに貢献することが期待されている。温暖化対策は水素の活用で単なる環境費用では無く、ビジネスを生み雇用を創出する。

 

水素技術のコスト見込み

エキスパートの集まりであるHydrogen Councilの最新報告書によると水素関連技術のコストは大きく低減する。それを実現するためのアクションとして、スケールアップ、需要の協力・複合による創出、需要の確実化、早期の需要地の創出、スケールアップの加速によるコストダウン加速を推進する必要がある。金のかかる話ではあるが雇用や経済波及効果を考えると比較的安い(10年間、世界中で数兆円規模)投資で以下実現)

  • 輸送分野
    FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)の場合、販売台数の増加や供給エリアの拡大等のスケールアップにより、生涯運用費用は近い将来EVと拮抗する可能性がある。
  • 水素製造
    欧州においては、風力発電で発電した電力を用いた水素製造のコストは現在より約6割減少し、3ドル/kg以下に低減する見込みである。
  • 水素ステーション
    ステーションへの水素の供給方法として主にパイプラインや液化、ガス化による輸送があるが、いずれの方法を用いた場合でも水素の供給コストは将来的に約6割減少する見込みである。

 

各国の動きと日本の挑戦

ドイツ、オランダ、中国などの国では低炭素化の手段としての水素利用の拡大に重点を置いており、化石由来エネルギーからの転換をビジネスチャンスと捉え産官学が連携して戦略的な検討を行っている。さらに直近ではコロナ後に向けた経済活性化投資としてとらえられている。一方日本においては水素のコスト低減化という技術開発に着目してあまり経済や雇用問題の解決策としての水素やましてやコロナ後の経済再生策としてとらえられていない。技術で先行した日本が、このままでは経済システム化で出遅れすることを危惧している。今一度官民の発奮が必要と感じている。

 

主催:株式会社エネルギーフォーラム
協賛:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

お役に立ちましたか?